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王都で就活?
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しおりを挟む「俺はお前を1人で泣かせたくないんだ。」
クラウスは俺のベッドに腰掛けると涙でグズグズの目元を優しくなぞった。
「話しても俺の事嫌いにならない?」
悲しくて言葉遣いなんて気にしていられないくらい悲しくてそれでも受け止めてくれるなら聞いて欲しい。
「約束する。だから話してくれトウヤ」
クラウスの変わらない優しい蒼色に情けない涙の理由をすべて話してしまおう。
俺は袖で涙を拭いて、広すぎるベッドの端に移動してヘッドボードにもたれて枕を抱えると隣にクラウスを誘った。
「俺…………皇子様が羨ましくて。100年前の皇子様は今も心配してくれる人やクラウスさんみたいに探してくれる人がいるのに比べて俺はなんて可哀想なんだろうって。」
「俺と皇子様を比べて泣いてるなんてクラウスさんだって呆れるでしょう。」
「呆れたりなんかしない。俺だって100年前の皇子よりも今目の前にいるトウヤの方が大事だからここにいるんだ。」
「クラウスさんは俺をいい気にさせるのが上手ですね。」
皇子様より俺が大事なんてこの場限りのお世辞でも嬉しい。お陰で涙も止まって今の俺は少し冷静だ。
「……俺のいた所では親のいない子供や親が育てられなくなった子供が学校に行きながら18歳まで国の施設で暮らすんです。」
「俺はその施設の外の人とは上手く行かなくて学校からできるだけ早く帰って俺を必要としてくれる小さい子達のお世話をすることで自分が存在してる理由を作ってました。でも学校を卒業する時には施設も出ることになってその時に初めて俺は本当の俺の事を教えられたんです。」
俺が養護施設に来て何人目かの施設長が俺が施設で暮らすことになった理由の記してある書類と小さな肌着が入った箱を渡してきた。
「『この先君の親が探そうとした時、君が親に会いたいと思った時に手がかりになるから持っていなさい』って。俺は今更必要ないって言ったんだ。俺の家はここで、育ててくれたくれたのもここだからって。だけど『君がもっと大人になった時、幸せになった時、親になった時会いたいと思っても会えなくなるんだよ』って。
でもね。やっぱりもらわなきゃ良かったんだ。その方が嫌いなモノも増えなかった。」
ただ黙って俺の話を聞いてくれてるクラウスに、「前に俺に名前の文字を教えてくれた時に教えた俺の名前の文字の話を覚えてるか」と聞いてみた。
「桜の木と……冬の夜?」
以外にもスラスラと答えてくれた。あの時はてっきり興味がないのかと思ったのに。
「うん。俺ね、自分の名前が好きだったんだ。春に咲き誇る桜に星が綺麗に輝く冬の夜。唯一親にもらったものだと思ってた。でもね、違った。俺の名前は役所の人がつけてくれたんだ。」
「…………クラウスさん、俺ね、名無しで捨てられてたんだ。冬の寒い夜に枯れた桜の木の下に。
だから俺の名前は『桜木冬夜』になったんだ。どういうつもりでその名前にしたんだよって腹が立って仕方なかった。おかげで俺は桜を見るたび、夜が来るたび、冬になったら自分が捨て子だったって思い知らなきゃならい。だから俺は俺の名前が大嫌いだよ。
しかも俺が親からもらったものは名前じゃなくてゲームのコイン1枚だった。肌着の中に入ってたから多分偶然入っただけだろうって。遊ぶ金があるのに子供を捨てるのかよ、俺はそんなに邪魔だったのかよって。」
書類の中に小さなビニール袋に入って挟んであった。それを見た時思わず部屋の壁に投げつけた。
「だからいいなぁって思った。俺はこんななのに皇子様はずっと大事にされててずるいなぁって。」
再びこぼれ始めた涙と嗚咽を体育座りした膝の上に置いた枕に顔を埋めて押し殺した。
養護施設を出たあの日、施設長からもらったその箱を独りぼっちの部屋で開けた。悲しみよりも怒りと絶望で支配された俺は自分と箱の捨て場所を探して外に飛び出したけど結局部屋に戻って肌着と書類の入った箱をクローゼットの隅に隠すようにしまった。ゲームのコインはこの痛みがなくなった時に捨ててやろうと財布に突っ込んだ。
俺の居場所は何処にもないのに皇子様は100年の間ずっと想われて愛されてずるいなぁ
悲しい。つらい。寂しい。あの日外にはひとかけらも出さず箱の中に閉じ込めた気持ちが滔々と溢れ出して止められない。
「ひゃっっ」
枕に顔を突っ込んで壊れたおもちゃみたいに泣き続ける俺の耳朶が突然甘噛みされた。
「な、、、な、なに?」
びっくりして顔をあげたらクラウスが笑った。
「ホントに泣き止むんだな。一度試してみたかったんだ。」
したことはあってもされたことはなくて、その慣れない感触に両手で耳を擦るとクラウスがその上から俺の顔を挟んだ。
それから優しく微笑むと俺のおでこに、涙の残る目元に、濡れた頬に口づけを次々に落としていく。
「まって、クラウスさん、もう泣いてない、もう大丈夫だから!」
手は顔ごと抑え込まれたままなので足をジタバタさせて抗議したらやっとやめてくれた。
と思ったのにまたおでこに口付ける。
また目元に、頬に。
「やめてってばクラウスさん子供扱いしないで!」
痛くないのに全然手が離れない。絶妙な力加減で逃げられない。顔中キスされて恥ずかしくてもう限界だった。
「やめてっていってるだろクラウスのばか!」
「やっと呼んだな?」
いたずらな顔でにやりと笑うとそのままぎゅうっとクラウスの膝の上に乗せられる格好で抱きしめられた。
俺は真っ赤だと思われる顔が隠れて丁度良いとそのままクラウスの身体に埋まってみた。
「トウヤ。俺は星がキレイな寒い冬の夜が好きだ。春に咲き誇る桜の花も好きだ。なあトウヤここには桜の花がとても美しく咲くおっておきの場所があるんだ、俺はそれをお前に一緒に見て欲しいな。冬の夜も寒くて泣きたくなる時は必ずこうして温めてやる。だから俺の大好きなものばかりのお前の名前を嫌わないでくれ。」
まるで駄々っ子に言い聞かせるように抱きこまれたままクラウスが俺の気分を上げてくれる。俺が嫌いだと言った名前を『クラウスの好きなもの』にして大好きだと言ってくれる。こんな子供扱いばかりされたらホントに小さな子になった気分だった。
「クラウスが好きな桜ならみにいってもいいかも。」
簡単に良い気分になってしまった自分が恥ずかしくて素直じゃない返事をした。
それからクラウスは明日一緒に案内してくれるつもりだった教会のことや、お城のことや、騎士団の事を沢山話してくれて俺はその声と一番安心させてくれるクラウスの心音を聞きながら三日間の旅の疲れと泣き疲れでいつの間にか眠ってしまった。
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