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騎士とミサンガ
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しおりを挟む「私に何か言うことがあるんじゃないの?」
あまりにも突然過ぎて何も言葉が出てこない。アンジェラはそんな俺に近づくと胸の前で腕を組んでため息をついた。
「トウヤ。私さっき嘘をついたの。飾り紐の事。本当はお友達に聞いたんじゃなくて直接見たのよ。私もあの場所にいたの。」
それって……クラウスに会いに来たって事だよね?じゃあ今日アンジェラがここに来た理由ってもしかしたら……
何も言えず手に持ったタオルを握りしめる事しか出来ない。
「言ってる意味がわからない?それともまだごまかそうとしてるの?あの日私は討伐遠征の見送りに行ってあなたとクラウス様を見たって言ってるのよ。」
「あ、あの……」
どうしよう、きっかけを探していないで早く打ち明ければ良かった。今更何を言ってもきっと全部言い訳にしか聞こえない。俺をにらみつけるアンジェラが詰め寄りながら右手を振り上げた。
「もう!そうならそうって早く言ってよね!恋人の前で『クラウス様と結婚したい』なんて私がばかみたいじゃない。あ~恥ずかしい!」
俺の腕をバシン!と叩くと真っ赤にした頬を両手で抑えてしまった。
「────え?」
厳密にはまだ『恋人』ではないんだけど思いもよらない反応に驚いてしまってそれどころではない。
「お、怒らないの?」
「え~?なんで?怒んないわよ別に。他を当たるだけだもの。」
「え?他ってどうゆう意味?」
「前に言ったでしょ?私伯爵家の跡取りだって。だからはっきり言えばお婿さんになってくれて魔力の高い子供が望める人なら誰でもいいのよ。」
「でもこの前はクラウスがいいって…。」
「確かにそうだけどトウヤから奪ってまでクラウス様と結婚したいわけじゃないの。」
「でも、それでもクラウスにも相手が貴族じゃないと勿体ないって言ってたから、その俺なんか……」
アンジェラからしたら魔法も使えない平民以下の俺なんて認められない存在のはずだ。
「あ~。………ごめんなさい。忘れてって言っても駄目よね。言い訳だけさせて?貴族同志の結婚って案外大変なのよ。子供のうちに婚約者のいる方も多いの。だからクラウス様みたいに侯爵家の三男でその上王族の血を引いていて強くて格好良いい方は競争相手が沢山いるの。しかも年上の令嬢ばかりなのよ。ほら私って、噂に聞くクラウス様の遊び相手の女性に比べたらその……体型的にまだ未熟で見劣りするのよね。今の私の武器なんて爵位と魔力くらいだから牽制するためにはああ云うのが1番効果があるの。だから理由を聞かれるとつい……爵位のない方をバカにしてるわけじゃないの!信じて!」
俺の両手を顔の前で握りこみ顔色を伺うようにレモン色の瞳が至近距離で俺の目を覗き込んでくる。このおねだりのポーズには弱い。
そもそも『桜の庭』で過ごしているアンジェラに差別意識がないのはよくわかってる。子供にも俺にも分け隔てなく接してくれる本当にいい子だ。でも肝心なことが確認できてなかった。
「じゃあクラウスのこと本当に好きじゃないの?」
「素敵だと思うけどそう云う『好き』じゃないから安心して。それにあんな2人を見たら誰も邪魔なんて出来ない、ううん、誰にもさせないわ!」
「あああああんな、ふ、2人?」
アンジェラの返事次第ではとっても困る核心の質問だったのだけど聞き逃せない答えの続きがあった。
「普段ニコリともしないクラウス様が優しく微笑んで抱きしめた天使のおでこに口づけをして遠征に旅立って行かれたのよ。そしてその腕には天使が結んだ飾り紐!」
「何それ!てかみ、み、み、見てたの!?」
あの時は子供達から見えないのを確認して安心してしまって俺にはクラウスしか見えてなかったよ?それに『天使』ってなに?
アンジェラが目の前でご令嬢とは思えない顔でニヤニヤしてるから逃げ出したいのに両手が掴まえられたままで動けない。
「ふふふ、耳まで真っ赤よ『天使』のトウヤ。今王都の騎士団に憧れる人の間でイチ押しの話題なんだから。次のサロンでこの飾り紐を自慢できるなんて夢のようだわ!本当に今日はありがとう!さあ、早く洗濯物片付けちゃいましょう」
ご機嫌なアンジェラにせかされるまま、急いで洗濯物を取り込んでシーツを掛け終わる頃には小さい子組のお昼寝はすっかり終わってしまっていた。
マリーとレインはミサンガを半分ぐらい編めていて、解けないよう洗濯ばさみで留めてあげた。どうしても最後まで自分でやり遂げたいみたいだ。
「おやつが終わったらアンジェラの髪を結い直そうか。お迎え来ちゃうよね?」
アンジェラが持ってきてくれたお菓子をみんなで頂きながらこの後の予定を確認した。その時間でないと俺も夕飯の支度がある。
ハッとした顔でアンジェラがノートンさんを見た。
「ノートンさん、私今夜ここに泊まってはいけないかしら。」
それを聞いた子供達は『おねーちゃんお泊り?せおみたい?』と興奮しだしてしまった。
「アンジェラ、今日も手伝ってくれてとても感謝してるよ。でもそれはいけない。それにそんな事をしたら信用してくださっている私も伯爵様に申し訳が立たないよ。」
横に首を振って諌められ流石にしょんぼりする。
「そうですわね。ごめんなさい我儘が過ぎました。トウヤ、髪、お願いできるかしら。」
バツが悪そうに笑うアンジェラが気になった。そう言えば『お父様と喧嘩した』って言ってた。それが泊まりたいなんて言った理由だろうか。
「ノートンさん、髪を結う間アンジェラさんと二人きりでも大丈夫ですか?」
さっきアンジェラからクラウスの事を話しかけて来てくれなかったら上手く俺からは話せなかったかもしれない。自分ばかり心配事が減ったのが申し訳なく、話すことで俺もアンジェラの心を少しでも軽くしてあげたいと思った。
「うん、トウヤくんなら心配するようなことは何もなさそうだからいいんじゃないかな?子供達には私から上手く言っておくよ。」
ノートンさんにウインク付きで許可をもらい、お茶の後片付けをアンジェラと済ませてそのまま俺の部屋に二人きりになった。
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