迷子の僕の異世界生活

クローナ

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報告と警告

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ピヨピヨと鳴く小鳥の声に期待をしたけれど今日1日食事を運んでくれたのはカイでもリトナでもなかった。

「あの、カイさんとリトナさんは来られないんですか?」

「2人は昨日から別の仕事を与えられました。ずっとカイとリトナが来てたので気にされるのでしょうが元々見習いの誰かが行う仕事です。来る者は代わりますがきちんと今まで通りお運びしますので大丈夫ですよ。それにカイは厄介な病にかかっているのでしばらくはこちらに伺うことは難しいでしょう。」

カイに頼まれたと卵を夕食とともに運んでくれた大柄な男はザリと言った。彼に2人の事を尋ねるとそう教えてくれた。それはノートンさんから聞いた事と同じだったけれどその中には聴き逃がせない情報があった。

「カイさんご病気なんですか?」

「え?ええ、まあ。でもご心配には及びませんよ。ではお茶ごちそうさまでした。」

確かに教会の人はどの人も慣れた手付きで食事を運んできては空のトレイや食缶を下げていく。けれど笑顔で挨拶をしてくれたり、朝だけでなく二言、三言の他愛もない会話が俺にとって大切だった事に気付いた。

カイが病気らしいとノートンさんに伝えると『周りは治癒士だらけだからすぐに治るだろう。』と心配する俺を慰めてくれた。確かにザリも笑っていたけれど『しばらく』というのが気になっていた。それは新たに与えられた仕事のせいなのかそれとも厄介な病気のせいなのだろうか。

毎日3度、気にならない筈がない。でもだからこそ慣れてもいく。子供達の食事が滞るわけでもなく俺は掃除に洗濯に忙しい。

そして今日は春月はるつきの服を新調するためにエレノア様からテーラーさんが派遣されていた。

「皆様ご成長素晴らしいですね、特にレイン君はとても新入生とは思えませんわ。将来楽しみですわね。」

今日も仕立てのいい黒のパンツスーツに身を包んでスタイルバッチリな長身の女性のテーラーさんはメジャーを首に掛けて子供達の成長を褒めてくれて俺も鼻が高い。

「ねぇねぇでぃのもおっきくなった?」

「もちろんです。これだと今お召になっているシャツも夏月なつつきにはバザーに出されることになりそうですわ。」

『桜の庭』の子供達の服はエレノア様からの支援であるため貴族御用達のテーラーさんの手掛けたものだ。一般人が買おうとすると靴下一枚ですら随分な高級品らしくバザーに出せばあっという間に売れるのだとカイとリトナが教えてくれた。

子供達のついでに俺もいくつか新しいものをお願いすることにした。お金を下ろすために何かしら事件が起きるギルドに行ったり、サイズがあるかわからない服屋へ買い物に行く事は時間の無駄とみんなの迷惑にしかならないと学習した。もちろんお金は給料から差し引いてもらうことをしっかりと約束した。
とは言っても下着と靴下ぐらい。高級品だからじゃない、もともと服にこだわりはないし今仕事着で来ている服もみんなと違って小さくならないからまだ充分着られる。でも採寸された。しかも下着と靴下だけなのに首周りから又下までしっかり図られた。そして───。

「はい、ほぼお変わりないので前回の型紙が使えますから納品は皆様と同じに出来ますよ。」

と美しい営業スマイルを見せてくれた。みんなと違って成長期は過ぎてるのだから最近の旺盛な食欲で『太った』と言われるよりマシだ。

「ほぼ、ってどこか変わったの?」

マリーが純粋に思ったことを口にした。でもマリーちゃん、それは随分な個人情報なんですよ。

「二の腕周りと太もも周りが少しサイズアップされてより均整が取れてお美しくお成りですよ。」

しかも子供相手と思っているのかテーラーさんがあっさり吐いた。そして褒め方が相変わらず微妙です。

「それってトウヤにもちょっとだけ筋肉付いたってこと?」

「え?ほんと?」

思い掛けないレインの言葉に嬉しくなった。そりゃあこれだけ子供達を抱っこして掃除して鬼ごっこしてるんだからレインみたいに鍛えなくても自然とつくものだよ、うん。

思わず腕まくりして力こぶを作って二の腕を触って確かめてみた。ホントだ、俺ちょっと筋肉付いたかも。

「とおやきんにくついたの?さーしゃもさわる~」

「でぃのも~」

「へへ~触って触って。」

ニンマリ笑った俺に小さい子組が寄ってきてくれたのに気を良くして腕を触らせていたら隣に同じ様にレインがしゃがんで鼻で笑った。

「ハッ!見た目全然変わんね~。」

そして同じ様に腕を出し軽く曲げて浮き上がった立派な筋肉に子供達をあっさり攫われてしまった。

「測ってやっと分かるってついたっていうの?」

誰もいなくなった俺の横にしゃがんで俺の腕を確かめたマリーの一言はテーラーさんの気遣いを台無しにした。

「あ、ほっぺのサイズ変わったから測ってもらったら?」

むくれた事まで小バカにされてテーラーさんとノートンさんにまで笑われてしまった。きっとこれはこの前の学校に行った日の仕返しに違いなかった。

注文した分の俺や小さい子組の仕上がったものは数日で納品できると言うがマリーとレインの分はハンカチ1枚に至るまですべて新しいものに新調し学校の寄宿舎の方へ届けられる事になるとテーラーさんが言った。それが『桜の庭』の庇護者であるエレノア様から2人への最後の贈り物なのだと。

いつもの毎日が1日過ぎれば2人のいなくなる日が1日近付く。頼りにしている2人の淋しさを俺は埋めてあげられるだろうか、違うな、きっと俺がみんなに埋めてもらうんだ。
孤児院と云う場所は人が増えて喜ぶ場所じゃない事は身に沁みている。当然巣立っていくことは喜ばし事でしかない。6人で過ごす残された日々がせめて楽しい思い出になるように俺が出来ることを精一杯頑張ろう、色んな人が俺を『桜の庭』にいられるようにしてくれたのだから。



来ないとわかっていながら3人分のカップを用意した翌朝、カイが病気だと教えてくれたザリが食事と一緒に俺宛に手紙を届けてくれた。

差出人はリトナでしばらく来れないことのお詫びとカイが厄介な病気にかかってしまって回復が難しいから俺が教会までお見舞いに来られないかと書かれていた。

「まだ治らないのか、教会の治癒士は一体何をしているんだ。まったく見舞いなんて言ってないでさっさと治してここにこればいいんだ。」

手紙を見せたノートンさんも元々目を掛けていた2人が来ないのは淋しいらしかった。

「ノートンさん、僕お見舞いに行ってもいいですか?」

「こんな手紙を見たキミならそう言うと思ったよ。どうしても行きたいかい?」

「はい、今までお二人が僕にとても良くして下さっていたことがわかりました。こんなことでなんのお返しにもなりませんがお見舞いに行きたいです。」

「仕方ない、どんな病気か知らないがトウヤ君が行けばカイも少しは元気になるだろう。でもこれだけは約束だ、たとえカイがどんな状態でも治癒魔法は絶対使ってはいけないよ。もしもキミの力が試したいのなら第一皇子様に相談してからだ。守れるかい?」

「はい、気をつけます。」

「わかった許可しよう。だけど一人じゃ駄目だ、私がキミを教会まで送っていこう。」

「ありがとうございます。」

やれやれと溜息を付きながらも俺の我儘を許し、『クラウスを呼べ』と言わないのは教会が安全だとノートンさんが知っているからだろう。

この前クラウスは手紙と一緒に俺が1人で外出する必要がある時に呼び出せるようにとルシウスさんから『通信石』と呼ばれるゴルフボール程の大きさの魔法石を預かってきていた。魔法石に通信の魔法が付与してあって要するに電話だ。
だけどこの世界の通信手段は手紙が殆どで理由は通信石に使える魔法石が高価なことと、使う人同士が魔力量が多くなければ使うことが出来ないからだ。俺なら使えるだろうと渡してくれたそれはちゃんとクラウスと話すことが出来た。意外なもので自分の魔力量を知ることになった。あれ程の綺麗な魔法で『桜の庭』を護るノートンさんには使えないらしかった。ノートンさんいわく、『ゆえに付与魔法士』なのだそうだ。

続けて昼食を運んでくれたザリにリトナへの手紙を託した。
今日の午後、小さい子たちがお昼寝をした後にお見舞いに伺うと。ノートンさんに言われ教会の入り口で出迎えてくれるように付け足した。短い時間だけれど病人の所に長居するのもマナー違反だ。顔だけ見て洗濯物が冷える前に戻ろう。

教会までの道のりはすぐだけど俺の心配をしてついてきてくれるノートンさんがありがたい。1人で行動してろくなことにならない俺のせいでせっかくのお見舞いが駄目になるのは嫌だ。

眠った子供達をマリーとレインに託し、お見舞いのクッキーを持ってノートンさんと一緒に大人だけなら5分もかからない道のりを歩いて行くと教会の前で待っていてくれたのはリトナじゃなかった。




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