206 / 333
本当の結婚
206
しおりを挟むそうして俺達は今度こそ教会へ足を向けた。
俺は頭からすっぽりマントを被っているから周りの人からはぼんやりとしか認識されていない、らしい。
だからそんな俺を抱き上げて歩くクラウスは周りからどう見えているのか未だに謎なんだけど教会の広場へ来る途中、王都警備の騎士とすれ違った。
クラウスが少しだけ立ち止まったからなんだろうと思ってマントの隙間から覗いたら、視線の先に違う人とペアを組んだキールさんがいた。
何か話すのかと思ったけれど近付く事はなくて、でも離れた距離ながらもそのすれ違いざまにお互いに目を伏せ、口元に笑みを少しだけ浮かべていた。
「……良かったの?」
「ああ、任務中だからな。」
クラウスはそう言ったけど子供達と教会の広場で遊んでいた時、すれ違う騎士達を見たことがある。
その時は必ず何か言葉を交わしていたから2人が話しをしなかったのは今はお互い違う立場で任務中だからなのかも知れない。
キールさんからクラウスを奪ってしまった様に思うのは俺の自惚れだろうか。
「冬夜こそいいのか?院長に話さないまま教会へ行って。」
「うん。手紙をね、置いてきたんだ。」
それは『最悪』の時のため。
あんなに良くしてもらったのに今まで言えなかった事、こことは違う世界から転移してきた事も全て手紙にしてベッドの下の鞄の中に入れてきた。もしも俺が急にいなくなってもクラウスが叱られてしまわないように。
「すっかり文字が読み書き出来るようになったんだな。」
ちょっとだけしんみりしてしまった俺の頭を強めに撫でて褒めてくれた。
「うん、ノートンさんの教え方が上手いのと子供達への読み聞かせのおかげだよ。」
結婚式が無事に終わったらまたビートに手紙を書こう。俺とクラウスが結婚したと知ったらきっとびっくりするはずだ。その顔を思い浮かべたら楽しくなってきた。
「そうか。──じゃあ入るか。」
「うん。」
そこはもう教会の目の前で俺の返事を聞いたクラウスは一度だけぎゅうって俺を抱きしめてからそっと降ろして俺の手を取った。
教会の建物の中央にある大きな扉は開かれていた。そこを入ると広いエントランスホールがある。そして2つの受付のカウンターがあって、クラウスは俺の手を取ったまま迷わず右側のカウンターへ向かった。
「ようこそ王都教会本部へ。こちらは式典、及び魔力測定等の案内カウンターです。本日はどちらのご要件でしたか?」
俺達に気付いたお姉さんが先に声を掛けてくれた。白い詰め襟の上に白いローブを羽織っていた。
「結婚式を挙げたいのだが。」
「それはおめでとうございます。ではこちらの書類に……と、え?お、お一人ですか?」
───ん?
お姉さんの視線が取り出した用紙とクラウスを戸惑いながら往復した後、俺を通り過ぎたのを見てクラウスと顔を見合わせた。
「す、すいません。ちゃんと2人です。」
慌ててマントのフードを外して顔を見せる。
「すまない、うっかりしていた。」
俺だけならまだしも、クラウスまで忘れていたなんて。決まりの悪そうな顔をしたクラウスが俺からマントを外して鞄にしまい込んだ。
「緊張してるの?」
「少しな。」
珍しい失敗を隠すように俺の髪に口付けた。
「ふふっ睦まじいのですね。ではこちらの書類にお名前と宜しければ年齢とご職業を。」
「書いても書かなくても良いってこと?」
書類の不備は許されない国育ちの俺としてはこの曖昧さが理解できず思った事が声に出てしまった。
「年齢の方は成人前ですと儀式が成立致しませんので確認の為ですね。職業の方は儀式の時に形式上司祭が読み上げるだけです。参列の方がお見えになる時はその方がより格好がつくというだけのものですのでのでどちらでも。」
俺のうっかりな質問にもお姉さんがにこやかな笑顔で答えてくれてそれを聞いたクラウスが差し出されたペンを取った。
厚みのある『婚姻申請書』と書かれた用紙はアルフ様からいただく手紙の封筒の様に金色の飾り模様があしらわれていてその用紙の左側にクラウスが綺麗な字で自分の名前を書き入れた。
《 クラウス=ルーデンベルク 年齢24歳 職業フランディール王国近衛騎士 》
クラウスから渡されたペンで俺も右側に自分の名前を書いた。
《 トウヤ=サクラギ 年齢19歳 職業家事手伝い 》
自分の名前はもう嫌いじゃない。
職業をなんて書こうか迷ったけれど『桜の庭』従業員、とするのは上手くいかなかった時を考えるとなんとなく憚られた。でも仕事の内容からしたら案外妥当だ。
「いいのか?これで。」
「ヘヘっ。でも間違ってないでしょ?」
「まぁそうだな。じゃぁこれで。」
納得している俺をみて、クラウスが書類をお姉さんに返した。
「クラウスさんとトウヤさんですね。では大聖堂へご案内致します。現在お一人の方が洗礼式を受けておられますので私の後に付いて静かに入場頂けますか?」
「洗礼式の最中に入って良いのですか?」
今度はクラウスが驚いた顔で質問した。
「ええ、おめでたい事ですからね。洗礼式の参列は特に喜ばれますよ。」
そっか、クラウスでも知らないことがあるのか。
「何だニヤニヤして。冬夜は知ってたのか?」
案内に立ったお姉さんの後に続いて歩き出した時クラウスが俺の腰をぐいっと引き寄せた。
「うん、前に見学させてもらったんだ。凄く素敵だったよ。」
洗礼の光に包まれた我が子を愛おしげに見つめるご両親を見て俺も生まれた瞬間ぐらいはあんな風に愛されていたらいいなと願うほどに。
結婚式の前にあの幸せな光景をもう一度見せて貰えるのもいいかも知れない。そう考えながら大聖堂の入り口の扉の前に立ったその時。刻を知らせるものとは違って少し高い音の鐘が鳴り響いた。これは洗礼の鐘だ。
「あら、丁度終わってしまいましたね。では前の方が退席されるまでお静かにお入りなって暫くお待ち下さい。」
お姉さんがそう言って美しい装飾の施された大聖堂の大扉をそっと開けてくれた。
聖堂の中は大扉を左右に開くと白を基調とした室内で真ん中の通路を挟んで左右に長椅子が並んでいる。
その通路の先にある広い空間は王都の入り口からも見える高い塔の真下だ。そこには塔の吹き抜けから差し込んだ柔らかな光と水をたたえた大きな水晶の『聖杯』があるだけで神様の彫刻や肖像画はない。
聖杯の辺りはまだ洗礼の時の白い光に満ちていて、そのキラキラときらめく光に包まれた赤ちゃんをご両親と小さな女の子、それにおじいさんとおばあさんが囲んでみんな幸せそうに笑顔を浮かべていた。
俺達は入り口に一番近い席にお姉さんと3人で並んで腰掛けて、幸せな家族の姿を胸に刻んでいたけれど程なくして退出していくご家族に立ち上がり声を掛けたお姉さんに習い俺達も一緒に頭を下げた。
「本日はおめでとうございます。愛し子様とご家族の皆様にさらなる祝福がありますように。」
「ありがとうございます、皆様にもさらなる祝福がありますように。」
それはこういう時の決り文句なのかも知れないけれどこの家族の幸せを分けてもらったみたいで嬉しかった。
「お待たせしました。それではおふたり共、どうぞこちらへ。」
俺とクラウスが繋いだ手に力を込めたのは同時だった。
350
あなたにおすすめの小説
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる