迷子の僕の異世界生活

クローナ

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本当の結婚

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そうして俺達は今度こそ教会へ足を向けた。

俺は頭からすっぽりマントを被っているから周りの人からはぼんやりとしか認識されていない、らしい。

だからそんな俺を抱き上げて歩くクラウスは周りからどう見えているのか未だに謎なんだけど教会の広場へ来る途中、王都警備の騎士とすれ違った。

クラウスが少しだけ立ち止まったからなんだろうと思ってマントの隙間から覗いたら、視線の先に違う人とペアを組んだキールさんがいた。

何か話すのかと思ったけれど近付く事はなくて、でも離れた距離ながらもそのすれ違いざまにお互いに目を伏せ、口元に笑みを少しだけ浮かべていた。

「……良かったの?」

「ああ、任務中だからな。」

クラウスはそう言ったけど子供達と教会の広場で遊んでいた時、すれ違う騎士達を見たことがある。
その時は必ず何か言葉を交わしていたから2人が話しをしなかったのは今はお互い違う立場で任務中だからなのかも知れない。

キールさんからクラウスを奪ってしまった様に思うのは俺の自惚れだろうか。

「冬夜こそいいのか?院長に話さないまま教会へ行って。」

「うん。手紙をね、置いてきたんだ。」

それは『最悪』の時のため。

あんなに良くしてもらったのに今まで言えなかった事、こことは違う世界から転移してきた事も全て手紙にしてベッドの下の鞄の中に入れてきた。もしも俺が急にいなくなってもクラウスが叱られてしまわないように。

「すっかり文字が読み書き出来るようになったんだな。」

ちょっとだけしんみりしてしまった俺の頭を強めに撫でて褒めてくれた。

「うん、ノートンさんの教え方が上手いのと子供達への読み聞かせのおかげだよ。」

結婚式が無事に終わったらまたビートに手紙を書こう。俺とクラウスが結婚したと知ったらきっとびっくりするはずだ。その顔を思い浮かべたら楽しくなってきた。

「そうか。──じゃあ入るか。」

「うん。」

そこはもう教会の目の前で俺の返事を聞いたクラウスは一度だけぎゅうって俺を抱きしめてからそっと降ろして俺の手を取った。

教会の建物の中央にある大きな扉は開かれていた。そこを入ると広いエントランスホールがある。そして2つの受付のカウンターがあって、クラウスは俺の手を取ったまま迷わず右側のカウンターへ向かった。

「ようこそ王都教会本部へ。こちらは式典、及び魔力測定等の案内カウンターです。本日はどちらのご要件でしたか?」

俺達に気付いたお姉さんが先に声を掛けてくれた。白い詰め襟の上に白いローブを羽織っていた。

「結婚式を挙げたいのだが。」

「それはおめでとうございます。ではこちらの書類に……と、え?お、お一人ですか?」

───ん?

お姉さんの視線が取り出した用紙とクラウスを戸惑いながら往復した後、俺を通り過ぎたのを見てクラウスと顔を見合わせた。

「す、すいません。ちゃんと2人です。」

慌ててマントのフードを外して顔を見せる。

「すまない、うっかりしていた。」

俺だけならまだしも、クラウスまで忘れていたなんて。決まりの悪そうな顔をしたクラウスが俺からマントを外して鞄にしまい込んだ。

「緊張してるの?」

「少しな。」

珍しい失敗を隠すように俺の髪に口付けた。

「ふふっ睦まじいのですね。ではこちらの書類にお名前と宜しければ年齢とご職業を。」

「書いても書かなくても良いってこと?」

書類の不備は許されない国育ちの俺としてはこの曖昧さが理解できず思った事が声に出てしまった。

「年齢の方は成人前ですと儀式が成立致しませんので確認の為ですね。職業の方は儀式の時に形式上司祭が読み上げるだけです。参列の方がお見えになる時はその方がより格好がつくというだけのものですのでのでどちらでも。」

俺のうっかりな質問にもお姉さんがにこやかな笑顔で答えてくれてそれを聞いたクラウスが差し出されたペンを取った。

厚みのある『婚姻申請書』と書かれた用紙はアルフ様からいただく手紙の封筒の様に金色の飾り模様があしらわれていてその用紙の左側にクラウスが綺麗な字で自分の名前を書き入れた。

《 クラウス=ルーデンベルク 年齢24歳 職業フランディール王国近衛騎士 》

クラウスから渡されたペンで俺も右側に自分の名前を書いた。

《 トウヤ=サクラギ 年齢19歳 職業家事手伝い 》

自分の名前はもう嫌いじゃない。
職業をなんて書こうか迷ったけれど『桜の庭』従業員、とするのは上手くいかなかった時を考えるとなんとなく憚られた。でも仕事の内容からしたら案外妥当だ。

「いいのか?これで。」

「ヘヘっ。でも間違ってないでしょ?」

「まぁそうだな。じゃぁこれで。」

納得している俺をみて、クラウスが書類をお姉さんに返した。

「クラウスさんとトウヤさんですね。では大聖堂へご案内致します。現在お一人の方が洗礼式を受けておられますので私の後に付いて静かに入場頂けますか?」

「洗礼式の最中に入って良いのですか?」

今度はクラウスが驚いた顔で質問した。

「ええ、おめでたい事ですからね。洗礼式の参列は特に喜ばれますよ。」

そっか、クラウスでも知らないことがあるのか。

「何だニヤニヤして。冬夜は知ってたのか?」

案内に立ったお姉さんの後に続いて歩き出した時クラウスが俺の腰をぐいっと引き寄せた。

「うん、前に見学させてもらったんだ。凄く素敵だったよ。」

洗礼の光に包まれた我が子を愛おしげに見つめるご両親を見て俺も生まれた瞬間ぐらいはあんな風に愛されていたらいいなと願うほどに。

結婚式の前にあの幸せな光景をもう一度見せて貰えるのもいいかも知れない。そう考えながら大聖堂の入り口の扉の前に立ったその時。刻を知らせるものとは違って少し高い音の鐘が鳴り響いた。これは洗礼の鐘だ。

「あら、丁度終わってしまいましたね。では前の方が退席されるまでお静かにお入りなって暫くお待ち下さい。」

お姉さんがそう言って美しい装飾の施された大聖堂の大扉をそっと開けてくれた。

聖堂の中は大扉を左右に開くと白を基調とした室内で真ん中の通路を挟んで左右に長椅子が並んでいる。
その通路の先にある広い空間は王都の入り口からも見える高い塔の真下だ。そこには塔の吹き抜けから差し込んだ柔らかな光と水をたたえた大きな水晶の『聖杯』があるだけで神様の彫刻や肖像画はない。

聖杯の辺りはまだ洗礼の時の白い光に満ちていて、そのキラキラときらめく光に包まれた赤ちゃんをご両親と小さな女の子、それにおじいさんとおばあさんが囲んでみんな幸せそうに笑顔を浮かべていた。

俺達は入り口に一番近い席にお姉さんと3人で並んで腰掛けて、幸せな家族の姿を胸に刻んでいたけれど程なくして退出していくご家族に立ち上がり声を掛けたお姉さんに習い俺達も一緒に頭を下げた。

「本日はおめでとうございます。愛し子様とご家族の皆様にさらなる祝福がありますように。」

「ありがとうございます、皆様にもさらなる祝福がありますように。」

それはこういう時の決り文句なのかも知れないけれどこの家族の幸せを分けてもらったみたいで嬉しかった。

「お待たせしました。それではおふたり共、どうぞこちらへ。」

俺とクラウスが繋いだ手に力を込めたのは同時だった。



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