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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟む今朝はカイやリトナと入れ違う様にジェシカさんとハンナさんが来てくれた。
「おはようございます。もうお仕事を始められているのですか?」
「遅くなって申し訳ありません。」
「いえ、全然そんな事ありません。実は毎朝食事を運んでいただくついでにおしゃべりするのが日課になっているんです。おふたりもどうぞ。」
申し訳無さそうに頭を下げてしまった2人に慌てて事情を説明しながらカイとリトナが片付けたばかりの椅子を並べ紅茶を勧めると2人は遠慮がちに腰を降ろした。
「私だけの時はもう少し後に見習いの者がひとりでやってきて朝食をテーブルに置いていくだけだったんだけどトウヤ君が来て以来どんどん来るのが早くなったんだ。お2人はおしゃべりに付き合う必要は無いからお願いする時は今日と同じ時間で構いませんよ。」
「そうでしたか、でもトウヤ様の様にお可愛らしい方とおしゃべり出来るなら早起きしたくなる気持ちもわかりますわ。」
ノートンさんがフォローをしてくれて2人はようやくほっとしたのか笑顔になった。
だけど俺の方はハンナさんが『お可愛らしい』なんて言うから昨日の夜の『変な顔』の自分を思い出してしまった。
「そ…そろそろ子供達起こしに行ってきますね。」
「でしたら私達も参りますわ。」
いつものはぐちゅうで目覚めた子供達は俺の所為でゆっくり紅茶を飲むことが出来なかったジェシカさんとハンナさんににこにこ笑顔で朝の挨拶をした。
そして昨日のように2人が掃除も洗濯もしてくれて俺はのんびり子供達と遊んでいると荷馬車がやってきて子供達の春月の新しい服を届けてくれた。
プレイルームに運んでもらいそれぞれの名前が箱の隅にタグ付けられていて仕分けいくと年長組の物は小さい子組の物と比べる箱の数が少ない。
その代わりマリーとレインに別の物が一揃えそれぞれに届いた。
「……制服だ。」
レインがぼそりとそう呟いて開いた箱の中に見入っている。学生になる実感がじわじわとこみ上げてきているようなそんな顔をしてそっと制服を撫でた。
マリーは早速箱から出すと自分の身体にあてている。反応はそれぞれだけど2人共瞳をキラキラさせて嬉しそうだ。
「ノートンさん、着てみてもいい?」
「勿論だ、私からお願いしようと思っていたところだよ。着替えてゆっくり私達に見せてくれるかい?」
ノートンさんの返事にレインが「仕方ないなぁ~」と照れくさそうに応えるとマリーと2人箱を抱えて部屋へ着替えに行った。
その間にまだまだある箱の中身をノートンさんと一緒に確認していく。こうしている今もジェシカさんとハンナさんが掃除をしたり子供達の相手をしてくれているから凄く助かる。
新しい肌着に靴下。普段着の他にお揃いの外出着。生地は薄手で色も明るく春らしい。
エレノア様からの贈り物にはお菓子や新しい絵本も入っていて小さい子組はそっちに夢中だ。
「トウヤ君が頼んだ物も間違いないかい?」
「はい、大丈夫です。」
給料からの天引きを約束して自分の物もいくつか頼んだ。子供達と同じく下着と靴下。後は今着ているような動きやすいシャツとパンツを数枚。最初は持っているもので調節も出来そうだと思って頼むつもりは無かったけれどよく考えたら俺はこの世界の春を知らない。
桜が咲くから大きな違いはないんだろうけれどここは雨も少なく雪を見ることも無かった。
それに前回ノートンさんが『制服だ』と言って身体に合わせて仕立ててもらった服はマデリンで安く仕入れたものに比べるとやっぱり動きやすい。
貴族御用達のテーラーさんの仕立てだからいいお値段なのだろうけど衣食住付きの『桜の庭』でもらうお給料の使い道はなくなってしまったから今回の出費も気にしなくてよさそうだ。
そうして納品の確認が終わる頃、制服に着替えたマリーとレインが戻って来た。
「どうかな?」
照れくさそうに並ぶ2人は白いシャツの上に胸に学校のエンブレムの入った黒いジャケット。マリーは膝丈のスカートでレインはパンツスタイル。マリーの首元にはリボンが結んであって落ち着いた濃紺だけど大きいから華やかだ。
レインは同じ色のシンプルなタイ。
制服だけを見れば地味過ぎるかと思ったけれどシンプルであるからこそ薄紫や深緑の髪色を引き立ていた。
「よく似合ってるよ。」
ノートンさんは嬉しそうに目を細めて一言そう言うとうんうんと何度も頷いて、小さい子組も制服姿の2人を大絶賛だ。
「まりーかわいい。」
「「れいんもかっこいい。」」
「でぃのもかっこいいのなりたい!」
「わ、やめろシワになるだろ。」
飛びついたディノをレインが慌てて抱き上げた。
「なぁトウヤもなんとか言えよ。」
なんだか急に大人っぽくなってしまったふたりに見惚れていたら珍しく顔を赤らめたレインに催促されてしまった。
「凄く似合ってるよ。きっと二人とも学校行ったらモテモテだね。」
「何よそれ。」
「ほんとほんと。見せてくれてありがとう、ほらシワにならないうちに着替えておいで。」
レインからディノを受け取ると「「はーい」」と素直に返事をして着替えに戻っていく。
その後姿を見送る俺の腕の中で「くるしい」とディノが身を捩った。ぎゅうっと抱きしめすぎたみたいだ。
「ごめんね」とほっぺにちゅうをして床に降ろしてあげると新しい絵本を眺めるサーシャのところへ走っていった。
そして空いた両手をロイとライがぎゅうっと繋いでくれた。
「「とおやよしよしする?」」
「トウヤ君、まだ早いよ。」
「……知ってます。」
マリーとレインの立派な制服姿が誇らしくて嬉しいのに、どうしようもなく寂しさがこみ上げる。泣いたりしたら楽しみで仕方ないって顔をするマリーとレインに申し訳なくてせっかく制服姿をお披露目してくれたのに追いたてるようにしてしまった。
ノートンさんは俺が涙をこらえているのをわかってて声をかけてくるから意地悪だ。
慰めに来てくれたロイとライにお礼にハグとちゅうをすると両側からお返しをしてもらったからマリーとレインが服を着替えて戻ってくる頃には気持ちも切り替えられていた。
2人に届いたのは制服だけではなくてエレノア様からの『入学祝い』もあった。
マリーには可愛らしい櫛と鏡。レインにはシンプルだけどやっぱり櫛と鏡。
「鏡を贈る意味はね、あらゆる厄災を跳ね返すようにって願いが込められているんだよ。私からはこれを、実用重視だから特に意味はないよ。」
ノートンさんがそう言って2人に渡した箱の中身は万年筆とレターセット。それからお財布だった。
「ふふっ。お財布は父親からの定番のプレゼントなんですよ。」
ジェシカさんがそっと耳打ちして教えてくれた。本当は理由もちゃんとあって『自分でお金を管理する許可を与える』と言う意味なんだそうだ。
ノートンさんが言わないのはそのお金が父親からではなくフランディール王国の国費だからなのかも知れない。
でも意味を知ったらきっとマリーとレインもノートンさんから成長を認めてもらえたと喜ぶに違いないと思うんだけどな。
俺はふたりへの『入学祝い』を何も用意できていない。
言い訳をするならば俺にとって『入学祝い』とは新しい制服に鞄。自分の名前を書き込める文房具でそれ以外になにか特別なものをもらう事なんてなかった。
でも本当は離れてしまう2人に俺の願いをありったけ込めてミサンガを贈りたかった。怪我も病気もひとりで耐えるのは辛いことを知っているから。アルフ様には俺の好きにしていいと言われてるけれどミサンガが原因で2人になにかあったらと考えれば安心より不安が上回る。
俺が何者であるか子供達はまだ知らないほうが良いと気付かされてからその不安は大きくなって、他になにか適した物がないか考えてみても贈ることと贈られること、どちらも無縁だった俺には難しくて未だ準備が出来ていなかった。
もうあまり時間もないよな。
考えあぐねた俺はお昼ごはんの準備の時に思い切ってジェシカさんとハンナさんに相談をしてみることにした。
「トウヤ様からの『入学祝い』ですか?」
「はい、こんなギリギリなんですけど学校で必ず必要な物とかでマリーとレインに何か良いものはないかと思って。」
2人はいろんな案を出してくれるけれど学校で使うものはやっぱり全て準備されていそうでこれだと言う物がない。
「じゃあおふたりの子供さんの時はどうしたんですか?」
「自分のですか?そうですねぇ私の子供が入学する時は特に何も。」
「母親は入学の為の準備全てがお祝いのようなものですから私などせいぜい飾りボタンぐらいでした。」
「ああ、そう言えば私もそうでしたわ。」
ふたりとも懐かしそうに優しい笑顔で懐かしむように目を細める。
「飾りボタン……ですか?」
「ええ、今もそうしてるかはわかりませんが私達の頃は定番でしたわ。私も母親にしてもらいましたし。」
「私もです。そんな物とも思いましたがトウヤ様がマリーちゃんとレイン君に贈るにはぴったりかも知れませんよ?」
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