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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟む小さい子組がお昼寝に入ると俺は珍しくプレイルームにとどまることになった。
マリーとレインの荷造りをセオとノートンさんに任せてしまったから今ここには小さい子組と俺だけだ。
もちろんノートンさんは慣れてるしセオなら学校で必要なものが判る。
俺はと言えば学校の準備もわからなければ『桜の庭』を旅立つ準備なんて手伝ったらきっと泣くのを我慢できなくて邪魔にしかならない気がする。
もうすぐ今みたいにここにマリーとレインがいないのが日常になる。
別れは養護施設で繰り返したはずなのにそれとはまるで違う自分の気持に戸惑ってしまう。
小さい子組と一緒にお昼寝でもしてしまおうかと思ったけれど胸のあたりがざわざわと落ち着かなくて子供達を起こしてしまいそうでいつもマリーとレインが勉強をするテーブルについた。
ノートンさんが俺の退屈しのぎにと置いていってくれた本は大人向けの初級魔法の入門書とフランディールの建国史、それに『刻の魔法士』について書かれた物だった。
お父さんの事を知りたくてタイトルすらまともに読めない本を一番初めに手に取ったけれど専門用語が多すぎて早々に断念した。
次に開いた大人向けに書かれた初級魔法書も入門書なんて言いながら小難しい論文みたいでノートンさんに教えてもらってもわからないのに読めない文字を解読しながらじゃあ余計に無理だとすぐに閉じた。
最後に残った建国史は絵本で何度も読んだから内容がある程度判るせいか読めない言葉もなんとなく理解できた。
冒頭、常春のガーデニアが一夜にして滅亡してからフランディールの大国への歴史が始まる。子供向けの絵本よりもその惨状が多く描かれていた。魔獣を見たことのない俺には想像することも出来ないけれどこの場所から自分だけ平和な世界に逃れてしまった事がこの世界と俺に起きた事実なんだ。
一通り読み終わって本から顔を上げると目に入るのはこの部屋からが一番良く見える『始まりの桜』
先々代の王妃様が植えてくれたお母さんの一番好きだった花。一年に1度しか咲かない花を咲かせ続けたお父さん。
だから俺は桜の下にいたのかな。
名前の由来を聞かされて酷く嫌いになってしまったけれど本当はずっと大好きだった。今では桜こそが両親と俺を繋いでくれているような気がしている。
それにクラウスとの大切な思い出にも欠かせない。
近づく春に枝も色づき始めたけれど蕾が付くのはもう少し先だ。
ぼんやりと桜を眺めていたらマリーたちが戻って来て気づけばもうお昼寝が終わる時間になっていた。荷造りって結構大変だ。
いつもなら洗濯を取り込み終わってるところだけど今日は子供達の遊び相手は必要ないから問題ない。
そう思ったのにおやつが終わって外に洗濯物を取り込みに行くとそこにはハンカチ一枚残ってなかった。リネン室もきれいに片付いていて小さい子組の部屋を覗いたら棚の上に畳まれた洗濯物が乗っていてシーツも全て整えられていた。
「セオさん。」
庭に出てタイミングを測って俺を驚かせた犯人に声をかけた。
「洗濯物有難うございました。それにシーツまで。」
「礼ならマリーとレインに言って下さい。俺はふたりのやりたい事を手伝っただけですよ。」
セオの返事に庭を探せばこちらを見てニヤニヤ笑うふたりの姿があった。
「マリー、レイン。ありがとう。」
「いいよお礼なんて。」
「時間余ったからやっただけだし。」
それぞれがノートンさん譲りの言葉で俺の感謝を受け流されてしまった。
その後の俺は出来た時間で明日の分の掃除を済ませ子供達はセオにたっぷり遊んでもらいベットに入れば眠ってしまうのもあっという間だった。
ノートンさんに呼ばれていたためお茶を入れに台所へ行くとマリーとレインがセオとまだ話しをしていた。
「もう寝ちゃった?やっぱりセオさんがいると駄目じゃん。」
「逆だろ?」
「だってトウヤが来るまでって約束だもん。」
「ごめん……。」
俺の顔を見た途端残念そうなふたりに降りてくるのが早すぎてしまった事がわかった。
「こら2人共、トウヤさんを謝らせるな。」
「はーい。じゃあまたね、セオさん。」
「じゃあねセオさん。トウヤもおやすみなさい。」
セオに軽く小突かれてマリーとレインは手を振りながら部屋に戻って行った。
まるで次のセオの休みにまた会えるかのようなあっさりしたお別れだったけどこれが最後だってちゃんとわかってるんだよね。
「お茶の準備も出来てるんで行きましょうか。」
「すいません、結局してもらってばかりで。」
心配して見送ったふたりの後ろ姿はいつもと変わりなく、声を掛けられセオの準備してくれたカートを押そうとしたらそれもさっと奪われてしまった。
「今日は1日遊んでばっかだったんでこのくらいさせて下さい。」
「ありがとうございます。」
セオからカートを取り返すのは難しい。素直に預ければにこっと笑って歩き出した。
「お礼なら俺が言いたいです。トウヤさんのお陰でマリーもレインも随分と子供らしくなりました。ふたりをたくさん甘やかしてくれてありがとうございました。」
「そんな、甘やかしてもらったのは俺の方ですよ。」
「いいえ、今『桜の庭』で家族の記憶があるのはマリーぐらいです。そのマリーがトウヤさんを『お母さんみたいだ』って言ってました。俺もトウヤさんを見てると亡き母を思い出せる気がします。」
「お父さんじゃないんですか?」
「まあそれはノートンさんがいるんで諦めて下さい。」
ノートンさんを引き合いに出されたら下がるしかない。ちょっとだけ納得出来ないけど信頼されているからそう言ってもらえたんだと思えば嬉しくなった。
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