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変わる環境とそれぞれの門出
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しおりを挟む「今日は遅くまですまなかったねセオ。」
「いえ、今日でしばらく顔を見られないかと思ったら俺も名残惜しくて。だけど『トウヤさんが来るまで』と区切りをつけたらふたり共『じゃあまた』なんて、こっちの気も知らずにあっさりしたものですよ。」
そう言いながらもマリーとレインを思い浮かべながらセオは優しい笑顔をしていた。
「セオが学校に上がる時も似たようなものだったよ。」
「そんな昔の事なんて覚えてませんよ。」
ノートンさんがクスクス笑うと視線を逸して自分で淹れた紅茶に口を付けた。子供の頃の事を話されるといつも少しだけ照れながら嬉しそうでふたりの関係がやっぱり羨ましい。
「トウヤ君も仕事が終わったのにすまないね。眠くないかい?」
「今日はセオさんがいてくれたのでいつもの半分しかお仕事していませんから平気です。」
「トウヤ君のそう言う所も変わらないね。」
ノートンさんが隣に座っていたらきっと今頭を撫でてくれていた。大人が眠るにはまだ早すぎるけれどこういうノートンさんからの時々の子供扱いは実は嬉しかったりする。
それを知られてしまうのは困るので俺もニヤける口元をティーカップで隠した。
「今夜はふたりに改めてお礼を言いたくてね。セオ、騎士の仕事があるのに折りに触れ訪れてくれてありがとう。トウヤ君に頼りきりの私の手伝いを何度もさせてしまったけれどお陰で私達は随分と助けられたよありがとう。」
「なんですか本当に改まって。やめて下さいノートンさん、俺は自分が休息するために来ていただけです。」
少しぶっきら棒とも聞こえてしまうセオの返事だけどそれが照れ隠しだとノートンさんはお見通しで笑顔が一層優しいものになりその笑顔を俺にも向けてくれた。
「トウヤ君もいつもありがとう。キミにはどれだけお礼を言っても足りないよ。優しいだけじゃなく時には厳しく叱ってまるで母親の様な惜しみない愛情を与えられて子供達も毎日元気一杯だ。私が至らず年少の子供達の面倒をかってくれていたマリーとレインが子供らしくなった事が本当に嬉しいよ。」
「僕の存在が少しでも子供達の役に立てたのなら嬉しく思います。」
さっき同じ事をセオに言われたばかりで思うところがよく似てるみたいだ。だけど俺がお父さんでもお兄さんでもない事まで同じじゃなくてもいいと思う。
ふたりにそんな風に思って貰えたのはすごく嬉しい。そうなればさっきのセオと同じ様に返すのに戸惑いこの前のクラウスの言葉を借りるとその返事にノートンさんが満足気に頬を緩めた。
俺もあの時クラウスにお礼を素直に受け取ってもらえて嬉しかった。さっきセオにもこう言えたら良かったかも知れない。
そんな風に思っていた時にノートンさんが続けた言葉が俺達を驚かせた。
「これからの事なんだけどセオはしばらく出入り禁止だ。」
「「え!?」」
「ちょっと待って下さい、マリーとレインがいなくなったらそれこそトウヤさんが大変じゃないですか。」
「どうしてですか?マリーとレインもいないのにセオさんまでなんてそんな事になったら子供達がどれだけ淋しい思いをするか───。」
「話は最後まできちんと聞きなさい二人共。」
同時に大きな声を出し立ち上がったセオと身を乗り出した俺はノートンさんに笑いながらたしなめられて、驚いたとはいえやってしまった子供っぽい行動に互いに見合った後大人しくソファーに座り直した。
「理由はちゃんとある。セオは春月になったら赤の騎士だ。制服の色が変わるだけなんてとんでもない。有事の際には一番に国民の矢面に立つ立場だとわかっているだろう?それに王都近隣の魔獣討伐ともなれば訓練も今まで以上に大変になる。だから少なくても赤騎士隊の訓練に慣れるまで『桜の庭』に来てはいけないよ。私は遠征の時の様な思いはもうしたくないんだ。長年の夢をようやく実現させたんだ、私に『やめて欲しい』と言われたくないだろう?」
ノートンさんの厳しい言葉にセオは膝の上の両手を握りしめ、その横で俺はさっきの自分の言動が恥ずかしくなった。
「子供達の事は心配しなくていい。トウヤ君の事もだ。私も協力するしそれにトウヤ君が出かける場合も子供達を安心して任せられる方々を国が用意してくれる。だからセオには本来の立場である赤の騎士として頑張って欲しいんだよ。」
「……わかりました。俺自ら赤騎士と胸を張れるまで来ません。『やめろ』だなんて言われたくありませんからね。」
背筋を伸ばし受け入れたセオの姿をノートンさんは誇らしげな顔で見つめた。
「すまないねトウヤ君そういう事なんだ。これからはキミの抱え込んだ仕事にも手を出させてもらうよ。だから私の足りない所はきちんと教えてくれるかい?」
「はい。僕の方こそ自分の足りなさをセオさんに甘えようとしてすみません。セオさんが安心して騎士の仕事に打ち込めるよう僕も今まで以上に頑張ります。」
「トウヤ君は今まで通りで充分だよ。」
「そんな事ありません。」
「いえ、むしろもっと手を抜いてください。」
セオの答えに満足気に頷いたのに俺にはどうしてかノートンさんは呆れ顔でセオにはそんな風に言われてしまった。
せっかくの決意に水をさされ思わず頬を膨らませた俺はふたりから笑われてしまった。
「それから……いや、もう遅いから今夜はこれでおしまいにしよう。」
セオの笑い声が途切れると話しかけた言葉をノートンさんが飲み込んでしまった。
「なんですか?時間ならまだ平気ですよ。」
「───いや、明日も朝早いんだセオももう帰りなさい。」
セオの言葉に俺も頷いて見せるとノートンさんは首をゆるく横に振り言い淀んだ言葉を誤魔化すように微笑むと立ち上がり、追い出される様にセオの見送りを任されて執務室を出ることになった。
「何でしょうね。」
あまり見ないノートンさんが気になって執務室の扉を振り返りセオに聞いてみた。
「今度でいいなら大した話ではないんでしょう。じゃあ言い付け通り俺は帰ります。あ、見送りならいいですよ。」
「待ってください。」
そうしてくるりと俺に向けられた背中を追いかけた。
俺よりずっとノートンさんを見てきたセオが気にしないのならいい。でも見送りは『はいそうですか』と言う訳にはいかない。ノートンさんに任されたのだし今日は約束通り子供達を優先してくれたから執務室に来るまでに少し話したくらいで実はお礼も言えてなければミサンガも渡せていない。
「───別にいいのに。」
そう言いながらも歩く速度を俺に合わせてくれた。
「あの、セオさん。ありがとうございました。」
「今日の事ならさっきも聞きましたよ。」
隣に並んでようやく機会を得た俺にもやっぱり少しぶっきらぼうだけど身に染み付いた優しさで外に続く扉を開けて俺を先に通してくれた。
「これはこの前のお礼です。あの時バタバタしちゃってきちんと言えてなかったのでそれでその……。」
ミサンガを取り出そうとポケットを探っていると終わりと思ったのかセオがくすっと笑った。
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