時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo

文字の大きさ
3 / 106

time.2

しおりを挟む


「お前の運転は、いつもそんなに荒いのか?」

社用車で店舗に向かう途中、助手席の高野チーフが救いようのないものを見る目を私に向ける。

「…今ちょっと、話しかけないでくださいっ‼」

実は。
高校卒業と同時に運転免許を取得したのだけれども、
完全にペーパードライバーで、
この春営業に配属されてやむなく運転している私。

何車線もある都心の幹線道路を運転するのは、もう、かなり命懸けなので、
パンダの相手をしている余裕は1ミリもないんですっ‼

「…危なっかしいな」

高野チーフが横からハンドルに手を伸ばす。

ちょっと―――っ、何するの―――――っ

「もっと肩の力抜け」
「ほら、ウィンカー出せ」
「バックミラーとサイドミラーをよく見ろ」
「車線変更は加速してからだ」

なんか隣から長い手足が乗り出してきてあちこち触るもんだから、
恐怖で声も出ない。

「し、…死ぬかと思った」

いつも以上に力が入り、完全に自分を見失って、ようやく訪問先の店舗に着いた時には、息も絶え絶えで無事に車から降りられたことを神に感謝した。

「そんなことさせるか、バカ」

高野チーフは髪の毛一本も乱さない冷静ぶりでさっさと車を降り、

「帰りもお前が運転しろよ」

私の頭に軽くぽんっと手を乗せると、
これ見よがしに長い足を動かして先に店舗に入っていく。

パンダのくせに足が長いってどうよ。

慌てて後を追いかけながら、いつもより早く着いたことに気づいた。

そういえば、
クラクションで怒られなかったし、
苦手な車庫入れも一発OKだった。

…パンダのくせに。

訪問先の店舗は、全国展開している玩具量販店の1店舗で、
私が担当するそのお店の店長は、ちょっと癖のあるタイプだった。

「やっぱりお酒の席でしか本音は語れないよねぇ」

と、やたら飲みに誘ってくる。
それをやんわり断ると、

前の担当はいつも快く同行してくれたとか、
若いうちは何事も経験だとか、
社会人としてそのくらい常識だとか、
結局は店舗を軽んじているんだとか、

くどくど説教が始まってエンドレスになる。

だから、ここにはあまり来たくないんだけど、
来ないと自社商品の配置がおかしなことになってるし、イベントも流されちゃうし、…今回みたいにクレームを付けられたりもする。

「え? …あ、いや。マネージャーさん? は、いえいえどうも。こちらこそ」

その店長が、高野チーフの冷静な物言いに一言も反論できずにひたすら縮こまっているのを見るのは、…まあ、正直ちょっと胸がすく。

「今後は私が挨拶に参りますので。詳細は担当から電話とメールを入れさせます」

流されかけてた展示会の話がトントン進み、店長がわき目も振らずに書類にサインしていく。

呆然と突っ立っているうちに、いつの間にか私はこの店舗に来なくてもいいようになっていた。

「それでは、今後ともよろしくお願いしますね」

極悪パンダらしからぬ爽やかな笑みを浮かべて、高野チーフがさっさと店舗を後にした。

店長はもう床に頭をつけそうな勢いで、太ったお腹を苦しそうに丸めながら全身をかがめて恐れ入っていた。

ていうか。

「謝りに来たんじゃなかったんですか?」

社用車に乗り込みながら高野チーフを見上げると、

「そうだけど?」

不敵な笑みを浮かべたパンダの流し目に射られた。

ぱっ、…

パンダのくせに。

帰りの車でもパンダが片手間にちょっかいを出してきて、
なんだか妙に緊張して無駄に消耗した。

けども。

やっぱり車線変更も車庫入れもスムーズで、到着時刻にも余裕があり、

「その感覚忘れんなよ」

鬼の高野は私の頭に手を置いてからスマートに車を降りた。

パンダのくせに、背が高くて手足が長くて駐車場に立ってるだけなのに絵になる。

「どっ、…」

だからってわけじゃないけど。

「同行して頂いてありがとうございましたっ」

頭を下げたら、

「報告書、今日中に出せよ。データは正確に。グラフは見やすく。所見に遠足の感想文は書くな」

高野チーフは口の端に嫌味な笑いを浮かべて、私の頭の上で書類をバウンドさせた。

遠足の感想文なんて書いてないよっ
もう―――――っ

「極悪パンダ、…」

つぶやいたら、長い腕にヘッドロックされて、

「いい度胸だな。パンダについてお前の持論をとことん聞いてやろう」

「ギブですっ、ギブギブっ‼」

そのままフロアまで引きずられた。

「ねー、高野チーフめっちゃ笑顔」
「なんか可愛い~~~」
「いいなぁ、佐倉さん」

いやいや、皆さん。
よーく考えてみて下さい。

苦しいからっ、普通に苦しいからね―――っ‼
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。

星乃和花
恋愛
【完結済:全8話】 ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて) 村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう! 問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。 半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!? 周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。 守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...