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「…ここちゃん、しっかり。常盤さん、視察に回ってるんだよ」
まりな先輩の気配が近づいて、こそっと囁きかけてくれた。
「あ、…どうも。お疲れ様です」
千晃くんに頭を下げながら、何だかまだ夢の中にいるような気分だった。
「表計算は、この機能使うと楽だよ」
後ろから千晃くんの手が私の前に回って、長い指が滑らかにパソコンのキーボードをたたく。
わー、うわー、…近い。
ちょっと息できない。
「これとこれを押して、こうすると、こうなる」
きれいな指が魔法みたいに動いて、耳元で甘い声がして、
目を上げるとすぐそこに千晃くんの整った顔がある。
これは息が出来ない。どうにも息が出来ない。
ずっと息を止めて固まっていたら、本気で苦しくなってきて、
「ぶっ、ふああ―――っ」
鼻と口を全開にしてあり得ない音を立てて深呼吸する羽目になった。
「……。」
千晃くんが動きを止めて私をじっと見ている。
ヤバい。引かれた。完全に引かれた。
ちょっと挙動不審過ぎた。
ていうか説明全然聞いてなかった。
だって。
『これがこうだから、こうなる』
ゼミのレポートが全然終わらない私に、丁寧に根気よく教えてくれた時と一緒なんだもん。
大学の図書室。乾いた紙の匂い。
不規則な筆記音。千晃くんの伏せたまつ毛。
『…聞いてる?』
シャーペンで小突かれて顔を上げたら、
千晃くんのきれいな顔が近づいて、甘い唇が一瞬、唇に触れた。
息が出来なくて、完全に固まって、気づいたら酸欠で、
目も鼻も口も限界まで広げて豪快に呼吸を繰り返したら、
千晃くんが笑いながら、また私の頭をシャーペンでコンコン叩いた。
「佐倉さん、って、…」
千晃くんの優しい手が私の頭にそっと触れる。
見上げると、
千晃くんの琥珀色の瞳が何かを探すようにゆらゆら揺れていた。
「常盤さん、このデータ処理って、こうでいいんですかー??」
隣のデスクから香恋ちゃんが白魚のような美しい手を伸ばして、
千晃くんのスーツを軽くつまんだ。
「あ、…はい」
千晃くんが我に返ったように香恋ちゃんに向き直り、パソコンをのぞき込みながら、何か丁寧に教えてあげている。
一瞬だけ、千晃くんが寂しそうに見えて、胸が痛んだ。
香恋ちゃんの傍らに立って優しく教えてあげている千晃くんを、
そっとうかがい見る。
そんなはずないけど、
千晃くんの記憶の片隅に、ほんの小さなひとかけら位、
何かが残っていて、それを探しているみたいに見えて、…
都合が良すぎる思い込みに、自嘲した。
まりな先輩の気配が近づいて、こそっと囁きかけてくれた。
「あ、…どうも。お疲れ様です」
千晃くんに頭を下げながら、何だかまだ夢の中にいるような気分だった。
「表計算は、この機能使うと楽だよ」
後ろから千晃くんの手が私の前に回って、長い指が滑らかにパソコンのキーボードをたたく。
わー、うわー、…近い。
ちょっと息できない。
「これとこれを押して、こうすると、こうなる」
きれいな指が魔法みたいに動いて、耳元で甘い声がして、
目を上げるとすぐそこに千晃くんの整った顔がある。
これは息が出来ない。どうにも息が出来ない。
ずっと息を止めて固まっていたら、本気で苦しくなってきて、
「ぶっ、ふああ―――っ」
鼻と口を全開にしてあり得ない音を立てて深呼吸する羽目になった。
「……。」
千晃くんが動きを止めて私をじっと見ている。
ヤバい。引かれた。完全に引かれた。
ちょっと挙動不審過ぎた。
ていうか説明全然聞いてなかった。
だって。
『これがこうだから、こうなる』
ゼミのレポートが全然終わらない私に、丁寧に根気よく教えてくれた時と一緒なんだもん。
大学の図書室。乾いた紙の匂い。
不規則な筆記音。千晃くんの伏せたまつ毛。
『…聞いてる?』
シャーペンで小突かれて顔を上げたら、
千晃くんのきれいな顔が近づいて、甘い唇が一瞬、唇に触れた。
息が出来なくて、完全に固まって、気づいたら酸欠で、
目も鼻も口も限界まで広げて豪快に呼吸を繰り返したら、
千晃くんが笑いながら、また私の頭をシャーペンでコンコン叩いた。
「佐倉さん、って、…」
千晃くんの優しい手が私の頭にそっと触れる。
見上げると、
千晃くんの琥珀色の瞳が何かを探すようにゆらゆら揺れていた。
「常盤さん、このデータ処理って、こうでいいんですかー??」
隣のデスクから香恋ちゃんが白魚のような美しい手を伸ばして、
千晃くんのスーツを軽くつまんだ。
「あ、…はい」
千晃くんが我に返ったように香恋ちゃんに向き直り、パソコンをのぞき込みながら、何か丁寧に教えてあげている。
一瞬だけ、千晃くんが寂しそうに見えて、胸が痛んだ。
香恋ちゃんの傍らに立って優しく教えてあげている千晃くんを、
そっとうかがい見る。
そんなはずないけど、
千晃くんの記憶の片隅に、ほんの小さなひとかけら位、
何かが残っていて、それを探しているみたいに見えて、…
都合が良すぎる思い込みに、自嘲した。
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