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time.18
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せっかく千晃くんが教えてくれたのに、何も頭に入らずに、
結局いつも通り残業することになった。
「千晃さんてめちゃめちゃ優しいですね。1度だけならお願い聞いてくれそうじゃないですか?」
「優しい人は彼女泣かせるようなことしないんじゃない?」
香恋ちゃんとまりな先輩が私を挟んで会話しながら帰り支度をしている。
「でもどこか寂しそうっていうか。佐倉先輩なんかに構ってたし。…彼女に満足してないんじゃないですかね?」
「さあね。単にここちゃんがタイプなのかもしれないしね」
…これは。
絶対に顔を上げられない。
香恋ちゃんサイドからの視線が痛すぎて穴があく。
「…お荷物のくせに」
え? 何、今の低い声。 空耳?
「高野さーん、私、手空いたんで、手伝えますよーぅ?」
「ああ、お疲れ。帰っていいよ」
恐る恐る顔を上げると、香恋ちゃんが高野チーフにすり寄って行くところだった。
なんだろう、この。
頭も見た目も生き抜く力も何もかも遠く及ばない感じ。
呆然と打ちのめされていると、
「ここちゃん、また明日ね」
まりな先輩が私のデスクにミルクキャンディを置いてくれた。
「せんぱ―――いい」
抱きついた私の頭を撫でて、まりな先輩が帰って行く。
うん。何のスキルもないけど、いろいろ足りてないけど、
これからも頑張ろう。
ミルクキャンディでパワーチャージしていたら、向かいの席からシュート先輩の恨めしそうな視線が刺さった。
「なあ、佐倉。女子ってやっぱり見た目にだまされるのかな?」
…いや、お前がな。
すっかり辺りが暗くなり、フロアも閑散として、
残っているのは高野チーフと他の課の数名だけになった頃。
やっと業務の目途が付いてパソコンを閉じた。
「佐倉、ちょっと来い」
帰ろうとしたら高野チーフに呼ばれて、そんなのいつものことなのに、急に心臓が騒ぎ出した。
「あ、の。スーツの上着は、クリーニング、…」
なぜか持ったままの上着の言い訳をしながら近づくと、
「手、出せ」
強引に手を取られてじっと見られた。
『痕が残ったら、俺が責任取ってやる』
いや。いやいやいや。
触れ合う手のひらの感触とか体温とか柔らかさとか、
変に意識しちゃダメなんだって。
男っぽい手だな、とか、余計な感想いらないんだって。
高野チーフは少し骨ばった指で私の手を一度撫でてから、
「やる」
小さな紙包みを手の上に載せた。
「…これっ!? 超人気スイーツガーデンの並んでも買えない幻のメレンゲじゃないですかっ」
急に自分の手から後光がさした。
すっごい美味しいんだって。死ぬまでに一度は食べてみるべきなんだって。
「…10年先まで食べられないと思ってたのに」
信じられなくて、二度見どころか何度も見直す。
「…もらい物だ」
高野チーフが用は済んだとばかりに、追い払うように手を振った。
「…パワーチャージだぁ」
嬉しくなってつぶやいたら、チーフの瞳が優しく緩んだ。
不意打ちの笑顔に心臓が音を立てて舞い上がる。
「あっ、…あ、ありが、…っ、おおお疲れ、っ」
逃げるようにメレンゲをつかんで立ち去った。
パンダのくせに。
無駄にドキドキさせるの止めて欲しい。
結局いつも通り残業することになった。
「千晃さんてめちゃめちゃ優しいですね。1度だけならお願い聞いてくれそうじゃないですか?」
「優しい人は彼女泣かせるようなことしないんじゃない?」
香恋ちゃんとまりな先輩が私を挟んで会話しながら帰り支度をしている。
「でもどこか寂しそうっていうか。佐倉先輩なんかに構ってたし。…彼女に満足してないんじゃないですかね?」
「さあね。単にここちゃんがタイプなのかもしれないしね」
…これは。
絶対に顔を上げられない。
香恋ちゃんサイドからの視線が痛すぎて穴があく。
「…お荷物のくせに」
え? 何、今の低い声。 空耳?
「高野さーん、私、手空いたんで、手伝えますよーぅ?」
「ああ、お疲れ。帰っていいよ」
恐る恐る顔を上げると、香恋ちゃんが高野チーフにすり寄って行くところだった。
なんだろう、この。
頭も見た目も生き抜く力も何もかも遠く及ばない感じ。
呆然と打ちのめされていると、
「ここちゃん、また明日ね」
まりな先輩が私のデスクにミルクキャンディを置いてくれた。
「せんぱ―――いい」
抱きついた私の頭を撫でて、まりな先輩が帰って行く。
うん。何のスキルもないけど、いろいろ足りてないけど、
これからも頑張ろう。
ミルクキャンディでパワーチャージしていたら、向かいの席からシュート先輩の恨めしそうな視線が刺さった。
「なあ、佐倉。女子ってやっぱり見た目にだまされるのかな?」
…いや、お前がな。
すっかり辺りが暗くなり、フロアも閑散として、
残っているのは高野チーフと他の課の数名だけになった頃。
やっと業務の目途が付いてパソコンを閉じた。
「佐倉、ちょっと来い」
帰ろうとしたら高野チーフに呼ばれて、そんなのいつものことなのに、急に心臓が騒ぎ出した。
「あ、の。スーツの上着は、クリーニング、…」
なぜか持ったままの上着の言い訳をしながら近づくと、
「手、出せ」
強引に手を取られてじっと見られた。
『痕が残ったら、俺が責任取ってやる』
いや。いやいやいや。
触れ合う手のひらの感触とか体温とか柔らかさとか、
変に意識しちゃダメなんだって。
男っぽい手だな、とか、余計な感想いらないんだって。
高野チーフは少し骨ばった指で私の手を一度撫でてから、
「やる」
小さな紙包みを手の上に載せた。
「…これっ!? 超人気スイーツガーデンの並んでも買えない幻のメレンゲじゃないですかっ」
急に自分の手から後光がさした。
すっごい美味しいんだって。死ぬまでに一度は食べてみるべきなんだって。
「…10年先まで食べられないと思ってたのに」
信じられなくて、二度見どころか何度も見直す。
「…もらい物だ」
高野チーフが用は済んだとばかりに、追い払うように手を振った。
「…パワーチャージだぁ」
嬉しくなってつぶやいたら、チーフの瞳が優しく緩んだ。
不意打ちの笑顔に心臓が音を立てて舞い上がる。
「あっ、…あ、ありが、…っ、おおお疲れ、っ」
逃げるようにメレンゲをつかんで立ち去った。
パンダのくせに。
無駄にドキドキさせるの止めて欲しい。
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