両手で抱えきれないほどの愛を君に

まつぼっくり

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 スヤスヤと穏やかな寝息をたてる愛しいユイリナに喜びが涌き出てくる。あれから十二年、ずっとずっと逢いたくて、焦がれていたのに今は腕の中にいる。それが堪らなく嬉しい。

 リオネルがオルガの事を一目見て気に入ったときにはお互いの両親が仲が良かった事もあり直ぐに婚約の運びとなった。それなのに俺がユイリナと結婚したいと言った時には陛下は首を縦に振ってはくださらなかった。
 これからの事を考えて、溺愛されていたユイリナを思い出して苦笑いが漏れるが離してやる気は更々ない。
 決意を新たに。だが今は、この腕の中の温かさに喜びを噛み締めた。


 王都に入ると道を開けてくれる人々。あれから俺がユイリナを想い続けているのは有名な話らしく皆が辛そうな、気遣うような顔を向けてくる。そして腕の中のユイリナに気づくと疑視、そして口を開けてぽかんとしている姿に笑みが浮かぶ。その中には若い男の姿もあり、片手でマントを外すとユイリナの頭からかぶせた。不服そうな男たちの顔に満足して王宮を目指す。





 二人がリナに揺られている頃、王宮ではユイリナの家族と親しかった者たちだけでの晩餐が行われていた。

「カルヴィンがいないようだが何かあったのか?」

 宰相はばつが悪そうに答える。

「陛下、愚息が申し訳ありません。昼過ぎにリナを連れて何処かへ行ったようなのですが…」

 その答えにアルベルトは不満そうに言う。

「ライオス、今は私たちしか居ないのだ。畏まった話し方は止めてくれないか…カルヴィンもずっと待っているからな。色々と思うところがあるのだろう。」

 ライオスは不満そうなアルベルトに楽しそうに笑いかける。

「では有り難くそうさせて頂きます。
 ユイリナも十六か。さぞかし愛らしく成長しているだろうなぁ。早く我がバティスタ家に嫁に来て貰いたいものだがな。」

「ユイリナはアンリナにとても似ていたからな。愛らしく成長していると言うのには同意するが嫁にはやらん。」

 アルベルトの物言いに皆が穏やかに微笑んだ時、ガシャンッと食器の割れる高い音がした。それと同時にカルヴィン様っと言う誰かの泣きそうな声。扉の外が騒がしくなった。

 ライオスの「またあいつが何か仕出かしたか。」というため息混じりの言葉にリオネルとオルガが顔を見合わせて苦笑い。だが、おかしい。物にぶつかって移動したり、使用人を泣かせたりするような人柄ではない。

 バンッと乱暴に扉が開いた。

「帰ってきました!」

 入室して直ぐに顔をくしゃくしゃにして笑って、言い放つ。
 皆、意味がわからなかった。そして腕の中の黒髪の少年を見て時間が止まったかのように動けなくなった。顔はカルヴィンの胸の方を見ているので見えないが、誰が?とは思わなかった。カルヴィンの嬉しそうな顔と大事そうに抱いている姿を見れば一目瞭然であった。

 最初に動いたのはアンリナである。
 フラフラと2人の元へ行き、カルヴィンに抱かれているユイリナの頬を触るとポタポタと涙がユイリナの顔に落ちる。
 カルヴィンからユイリナを渡されるとそのまま座り込んだ。

「ッユイリ。あぁ、私の愛しい子。アル、リオネル、ユイリナですよっ。ユイリナが帰ってきました!」

 涙でぐしゃぐしゃな顔で満面の笑みを浮かべ、未だに此方を見て放心している二人を呼ぶ。

 アンリナの声に2人は我に返り椅子を倒しながら駆けてくる。

 アルベルトに抱き直され震える手でリオネルは頭を撫でる。
 するとユイリナは身動いで目を開けると、ふにゃっとした笑顔を浮かべ、アルベルトの胸に顔を埋めてまたスヤスヤと穏やかな寝息をたてた。
 寝ぼけていたのか夢だと思ったのかその愛らしい仕草に笑顔を浮かべる。

「リナと泉まで散歩していましたら急にリナが走り出し、追いかけましたら、ユイリナがいたのです。」

「この子は十六にしては小さく華奢過ぎる様に見えるが満足な暮らしができていなかったのだろうか。」

「この星とは違う星のニホンという国に落ち、初めて出会った夫婦になに不自由なく、たくさんの愛情をかけて育ててもらったそうです。幸せだったと言っていましたよ。後は自分で話したいことが沢山あると思いますので聞いてあげてください。私もまだ見ていませんがこの本も見せたいとずっと抱き締めていました。」

 そういってアルバムと絵本を渡す。

「そうか。幸せだったか。その言葉だけで十分だ。晩餐の途中であったがアンリナ、そろそろ休むとしよう。今日は良く眠れそうだ。」

「そうですね。明日から忙しくなりそうですし早く休みましょう。」

 リオネルにも声をかけるが、抱き締めて眠るよりこの親友と酒を酌み交わしたいと答えると、ユイリナを抱いたまま二人はとても嬉しそうに、幸せそうに部屋を出ていった。









 幸せな夢を見ていた気がした。


 夢と現実の狭間をフワフワと漂っている感覚。頭は起きている筈なのに心地好い微睡みから覚めたくなくて、起きてしまったら嫌でも突き付けられるお父さんとお母さんが死んだという現実を受け入れたくなくて。自然とあがってくる瞼に抗う。
 暫くそうしていると昨日の出来事が脳裏を駆け巡る。

 あぁ、そっか。と納得して頬が緩む。リナに揺られて寝てしまった筈なのに目を開くと飛び込んでくる広い胸板。目線を上に上げると僕が幼い頃より少し目尻に皺ができた父上の寝顔。背中の温もりの正体を寝返りを打ってちゃんと確かめたいのにしなやかな腕が僕のお腹に回っていて振り返れない。

 久しぶりの父上と父様の優しい匂いと、もう離さないと言わんばかりの強すぎる締め付けが心地よくて暫く幸せを感じていた。






 二人が起きてからはもう大変だった。
 涙ぐんでいる両親に強く強く抱き締められて顔中へキスされ僕も嬉しいのと懐かしいのとが混ざって泣いたり笑ったりしながら離れていた間の話をたくさんした。

 アルバムを見せるとこちらの世界には写真がないからかとても驚かれたけれど、1枚1枚、この時何をしたかなどを詳しく説明しながら一緒に楽しんだ。

 お父さんとお母さんとの別れの話はやはりまだ辛くて言葉が詰まってしまったり、涙が溢れてしまったりしたけれどその度に父様が手を握ってくれて父上が背中を優しく擦ってくれた。

 父様が写真の中のお父さんとお母さんを見て「二人は異性愛者なんだね」と言うから僕のいたところでは異性愛者が大多数を占めている事、同性同士では子供が出来ない事などを話した。
 幼かった頃、両親は男の人。周りにも男同士、女同士の方が多かったという事を伝えた時のお父さんとお母さんと同じような顔をされる。

 僕は四歳までしかアルヴェに居なかったから此方の詳しい事情は分からなかったけれど、ただ単に同性同士の方が惹かれ合う事が多いらしい。同性同士の方が出生率が高い事も一因ではあるけれど異性同士でも結婚できるし子供も出生率は低いながらも出来ない訳ではないそうだ。

 素朴な疑問が沸き上がる。

「同性同士だとどうすれば子供ができるの?」

 父上は難しそうな顔をして

「…ユイリにはまだ早い。」と一言。

 父様はクスクス笑いながら耳元で「後で教えてあげるね。」と小さい声で囁いた。

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