私が消えたその後で(完結)

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
14 / 21

14

しおりを挟む
それから、数日後、私宛に仮面が届いた。
真っ白な仮面はオリハルコンを加工したものらしい。シンプルだが黒曜石とアメジストが埋め込まれていてとても綺麗だった。
気に入ったので私は毎日それをつけることにした。
綺麗な仮面を見ると、なんだか自分の醜さを誤魔化せるような気分になる。
嬉しかったので、ケネスには長文にはなってしまったけれど感謝の手紙を送った。

そして、私にも専属の侍女が就くことになった。

「今日から、お嬢様の侍女になりました。アンヌです。よろしくお願いします!」

アンヌは顔を紅潮させて興奮している様子で挨拶をしてくれた。
この屋敷で悪意を持たずに接してくれるのはアンヌくらいだ。
新人だから私の専属になってくれたのだろう。

「よろしくね」

「今日からは支度などは私が全て行いますから。何かあったら言ってください」

アンヌはにっこりと笑う。ようやく自分の仕事ができると言わんばかりだ。
今後一緒に過ごすのだから顔は隠すことはできない。彼女には素顔を見せようと私は思った。

どのみち、隠すこともできないだろうし……。

「ありがとう。そうね、とりあえず、前髪を切ってもらえるかしら」

私はケネスから贈られた仮面に手をかける。
ジョンと悪魔に顔を見られて以降、こういう場に少しだけ慣れた気がする。

「今、仮面を外すわ」

「え?」

アンヌが仮面を外すと言った私を驚いた顔で見ている。

「私の顔の事を誰にも言わないでね」

ゆっくりと仮面を外すと、顎が外れそうなくらいにアンヌは口を開いた。

「じゃあ、前髪を切ってくれる?」

「……は、はい」

アンヌはしばらく私の顔を見て、それから、前髪を切り出した。
前髪を切り終えて、私は自分の顔を記憶のある限りで初めて鏡で見た。

そこに映し出されていたのは、誰もが忌み嫌うような醜い顔ではなかった。

すくなくとも私にとってはだけれど。

ミラベルになんの意図があって顔を隠せと言い出したのかわからない。
言われた通りにした方がいいのだろうと私は思った。

アンヌが侍女になってから生活面ではかなり変化があった。
食事が温かいうちに届けられるとか、髪の毛の艶が以前より良くなったとか。いろいろあるけれど。
そういう事よりも、心の拠り所が出来たことが一番の変化だった。

アンヌもケネスも私の事を絶対に否定しなかった。
ジョンと悪魔と同じように。

たまに、ジョンと悪魔のことを思い出すと寂しくて辛かった。
しかし、彼らに会うことはもう二度とないと私は思っていた。

その日が来るまでは……。

ある日、ケネスは思い詰めた様子でこんなことを言い出した。

「シビル、僕と君との婚約発表の場が設けられることになった」

「そうですか」

「少し、嫌な気分になると思う。僕は立場のない王子だから」

ケネスは申し訳なさそうにそう言って俯いた。
その沈みっぷりに私はなんと声をかけたらいいのか、わからなくて困ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...