婚約者の番

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レオン3

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屋敷に帰ると父親が怯え切った様子で俺の方へ近づいてきた。

「粗相はしなかったか?」

その一言に苛立ちを覚えながら父親を睨みつける。

「そんな事するわけがありません」

粗相はしなかったが、あと少しで彼女の逆鱗に触れて殺される所だった。

「気に入られたか」

父親の質問の仕方は、下級貴族の祖が女に上級貴族の息子に気に入られたかどうか聞くような口調だ。
実際に、家格はこちらが上ではあるが、資産的には向こうの方が遥かに上だ。
その気になれば、この家……。どころか、この国を潰す事だって彼女ならば出来るだろう。

「ええ、まあ」

「竜の生贄はお前か……」

父親は、染み染みと呟く。
竜の生贄という物騒な単語に背中から汗が出て来るのがわかる。
自分は獣人として上位種だと自覚も誇りもあるが、サラの気迫はそんなもの吹き飛ばしてしまうくらいに恐ろしかったのだ。

「彼女の家はなぜ名ばかりの子爵だと思う?」

「自称没落寸前だからですか?」

あくまで、自称だ。
彼女の家が没落寸前ならば、この国はすでに終わっている。

「なぜ、そのような資産があると思う?」

「さあ?」

そう言われて、確かに尋常ではない資産はどこからきたのか私は知らないことに気がつく。

「この国の成り立ちは彼女の家が深く関わっていると言えばわかるか?」

「つまり、土地で財を成したと」

「そんな所だ」

土地で財を成せるなど、何の末裔なのか容易に想像できる。
とんでもない人が婚約者になってしまった。

「つまり龍の末裔と?」

「そうなるな。しかし、彼女達は人間に近い。番というものはいないんだ」

「そうですか」

「しかしな、執着心が強すぎる」

つまり、尋常ではないくらいの嫉妬深さなのだろう。先ほどの反応を見ていれば嫌でもわかる。
浮気なんてすれば、きっと殺される。
女性と目線を合わせただけで殺されるかもしれない。

「彼女からただならぬ気配を感じただろう?」

あの時の、気迫は人ならざる者だった。

「はい」

「基本的に大人しいが。愛する人の心変わりには敏感で、実際にそれで死ぬ奴らも多いし」

さっき、殺されかけた。
もしも、心変わりしたら本当に殺されるだろう。

「なぜ、婚約を打診したんですか!私よりも人間の方がいいじゃないですか!」

番がいる獣人よりも、人間の方が適任だ。
番と出会った獣人の面倒くささは他でもない自分がよく知っている。
妻子すら捨てて、番のもとに走っていくのだ。何もかも全て捨て去り。

「あの一族は強い者しか惹かれないのだよ」

「つまり、私は生贄と」

「なに、番に目移りなどしなければいい」

父親は、身勝手な事を言い出す。私の人生はそれで大丈夫なのだろうか?
いつ、殺されるかわからない恐怖に怯えて、日々過ごさなくてはならないのだろうか?

「そんな、無茶苦茶な!」

「愛か本能をとるかだな。まあ、がんばれ番なんてめったに表れない」

父親はあまりにも呑気だった。
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