聖女様の生き残り術

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三途の川を渡りかけるという不安

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「こちらに来なさい」

「は、はい」

 言われるままに椅子に座らせると、マリネッタの手が私の顔に近づいてきた。
 叩かれる。そう思い。咄嗟に目を閉じるが、痛みは頬に襲いかかってこなかった。
 代わりに温かくて柔らかな感触がした。

 それが、マリネッタの手だと気がつくには少しだけ時間がかかった。

「痛かったでしょう?大丈夫?」

 言いながら、テキパキとマリネッタは私の頬を手当てし始めた。

「へ、平気です」

「強いのね。少し、お祈りを込めましょう」

 言いながら、マリネッタは目を閉じた。
 実は聖女じゃなくても、信心深い神官なら神聖力を持っている。
 といってもとても小さなもので、気休めにしかならないのだけれど。
 聖女も同じだが、病を治すことはできない。
 聖女ができるのは瘴気を払うことだ。
 痛みを少し和らげる程度の力しか持っていないのだ。
 それでも、人はそれを求めて神殿へとやってくるのだ。

「あの、ありがとうございます」

 マリネッタの祈りのおかげか、頬の痛みは少しだけ良くなったような気がした。

「また来てね」

 マリネッタは、先ほどの不機嫌そうな顔など嘘のように微笑んだ。

「あ、あのこれ!」
 
 感謝の気持ちでお布施を渡そうとしたら断られた。

 こうして、私は思っていたよりも早くマリネッタと知り合う事ができた。
 
 それから、私は定期的に神殿に行くようにした。
 信心深いと認識される程度でよかったのだけれど、思いがけず交流を深める事ができた。

 祈りを捧げに行くと必ずマリネッタが声をかけてきて、私室でお茶をすることが習慣になっていた。
 マリネッタは、何かを探ろうと私によく質問してきた。

「貴女のご両親は、一人で神殿に来ていることは知っているの?」
「知らないと思います」
「そう、貴女の家は」
「あの、それより……」
 
 主に親のことが多く。私はうまく話を逸らすのに苦労した。
 貴族であることを知られるのが嫌だった。

 知られたとして、マリネッタの態度は変わらないと思うけれど、それでも、「傲慢な貴族」だとイメージを持たれたくなかったのだ。

 家族との関係は変わらず。

 神殿がある意味で私にとっての逃げ場にもなっていた。
 マリネッタやアンヌは、私に無関心ではなかったし、必ず目を見て挨拶をしてくれる。
 それに、怪我をするとすぐに手当をしてくれた。

 神殿は心の拠り所になっていた。

 気がつけば、私は15歳になっていた。

 神聖力が出現する年齢になっていたのだ。

 一般的に、聖女になる人間は2パターンある。

 生まれながらに神聖力を持っているパターンと、後天的に神聖力を持つパターンだ。
 アイオラは後者の方だった。

 聖女にはわかりやすい目印のようなものがある。

 手の甲に、聖石という神聖力の塊でもある石が出現するのだ。

 本の設定によると、後天的に神聖力を身につけた人は、三途の川を渡りかけるような経験の後に、聖石が手の甲に出現していたらしい。

 あくまで、「らしい」ので、事実なのかはわからない。
 後天的に神聖力を身につけて聖女になる事は、とても珍しいので情報があまりないのだ。

 つまり、私は一度死にかける経験をするようだ。

 ……正直、不安しかない。
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