4 / 25
本の中では敵対していた存在
しおりを挟む
神殿に到着すると、見覚えのある神官がやってきた。
本の中でも何度か登場した人物だ。
アイオラに強く当たられて、恨みを持っていたはずだ。
名前は確か、アンヌだった。
アンヌはくすんだ茶色の髪の毛と瞳をしている。
小説では、ドブネズミのようだと表現されていたが、リスのような可愛らしさと溌剌とした雰囲気を出していた。
年齢は20歳くらいだろうか。
アンヌは、私の顔を見るなり目を見開き驚いた顔をして、眉を顰めた。
声すらかけていないが、「悪役」という私の立ち位置から、もしかしたら、理不尽だが初対面でも嫌われるような呪いでもかけられているのかもしれない。
もしそうなら、どうしようもないわね。
でも、何もしないままでは、良い方向には進まない。
「お祈りをしたくて、あの、私がいたらダメでしょうか?」
恐る恐る声をかけると彼女は、ハッと何かに気がついた様子で取り繕ったような笑みを浮かべた。
「いえ、こちらにきてください」
言うなり彼女は私の腕を掴んだ。
おそらく女神アルナを祀っている祭壇へと案内してくれるのだろう。
私は、アンヌにつれられるままに歩き出す。
身長の差があるが、ゆっくりと歩いてくれているので、歩きやすかった。
私のいるザルツ王国は、女神アルナを一神教として信仰している。
物語上としてのざっくりとした設定として、女神アルナが現れるまでこの世界では、瘴気により変異した禍々しい土地や、魔獣が多く存在していたらしい。
それを女神アルナが浄化してこの世界が作られた。
しかし、それでも人の汚れた心から瘴気は発生して、人々を脅かす。
それを憂いた女神アルナが、浄化のために定期的に少女に神聖力を与えるのだ。
力を与えられた少女が聖女になるのだ。
そして、神聖力を与えられた聖女は、世界の安寧のために祈りを捧げるのだ。
こうして、世界の安寧は成り立っている。
と、アルナ教は謳っている。
ちなみに、神殿は私が住んでいる王都と、東西南北の主要都市と自治区に存在している。
神聖力を持つ少女が現れる周期はかなりまちまちで、100年現れない事もあるようだ。
そのせいで、聖女が現れるとかなり祭り上げられる。
聖女になる少女の大半は性格が悪く、アイオラも例に漏れずそうだった。
今まで踏みつけにされて生きた少女が国を救う聖女だと知ったら、そうなるのも仕方ない気がする。
……自分は、死にたくないのでそうならないように気をつけたい。
考えている間にアンヌの足が止まった。
「着きましたよ」
「あ、ありがとうございます」
しかし、到着した場所は祭壇というよりも、誰かの私室の扉の前にしか見えなかった。
「あの、ここは?」
私の問いかけに、アンヌは何も言わずに部屋のドアをノックし始めた。
「マリネッタ様!」
予想していない人物の名前を聞いて、私は背中に汗をかく。
神殿には何度も通い地道に神官に認知されて、マリネッタに顔を覚えてもらおうと考えていたのだ。
なぜ、アンヌはマリネッタを呼び出すのか。
「どうしたの?」
マリネッタは、何か作業でもしていたのだろう。急に呼び出されて不機嫌そうな顔をしてドアを開けた。
マリネッタは、二十代半の女性で、金色の髪と藍色の瞳をしている。
本の中では、カオリをとても大切にしていた。
それを思い出すと途端に不安になった。
もしかしたら、神殿には来るなと言われてしまうかもしれない。
愛され聖女の物語。というタイトルから私の「何か」が誰かを不快にさせてしまうかもしれない。
「あの、私、何かしましたか?何か悪い事でも」
私が不安になってマリネッタを見つめると、彼女もアンヌと同じように眉を顰めた。
本の中でも何度か登場した人物だ。
アイオラに強く当たられて、恨みを持っていたはずだ。
名前は確か、アンヌだった。
アンヌはくすんだ茶色の髪の毛と瞳をしている。
小説では、ドブネズミのようだと表現されていたが、リスのような可愛らしさと溌剌とした雰囲気を出していた。
年齢は20歳くらいだろうか。
アンヌは、私の顔を見るなり目を見開き驚いた顔をして、眉を顰めた。
声すらかけていないが、「悪役」という私の立ち位置から、もしかしたら、理不尽だが初対面でも嫌われるような呪いでもかけられているのかもしれない。
もしそうなら、どうしようもないわね。
でも、何もしないままでは、良い方向には進まない。
「お祈りをしたくて、あの、私がいたらダメでしょうか?」
恐る恐る声をかけると彼女は、ハッと何かに気がついた様子で取り繕ったような笑みを浮かべた。
「いえ、こちらにきてください」
言うなり彼女は私の腕を掴んだ。
おそらく女神アルナを祀っている祭壇へと案内してくれるのだろう。
私は、アンヌにつれられるままに歩き出す。
身長の差があるが、ゆっくりと歩いてくれているので、歩きやすかった。
私のいるザルツ王国は、女神アルナを一神教として信仰している。
物語上としてのざっくりとした設定として、女神アルナが現れるまでこの世界では、瘴気により変異した禍々しい土地や、魔獣が多く存在していたらしい。
それを女神アルナが浄化してこの世界が作られた。
しかし、それでも人の汚れた心から瘴気は発生して、人々を脅かす。
それを憂いた女神アルナが、浄化のために定期的に少女に神聖力を与えるのだ。
力を与えられた少女が聖女になるのだ。
そして、神聖力を与えられた聖女は、世界の安寧のために祈りを捧げるのだ。
こうして、世界の安寧は成り立っている。
と、アルナ教は謳っている。
ちなみに、神殿は私が住んでいる王都と、東西南北の主要都市と自治区に存在している。
神聖力を持つ少女が現れる周期はかなりまちまちで、100年現れない事もあるようだ。
そのせいで、聖女が現れるとかなり祭り上げられる。
聖女になる少女の大半は性格が悪く、アイオラも例に漏れずそうだった。
今まで踏みつけにされて生きた少女が国を救う聖女だと知ったら、そうなるのも仕方ない気がする。
……自分は、死にたくないのでそうならないように気をつけたい。
考えている間にアンヌの足が止まった。
「着きましたよ」
「あ、ありがとうございます」
しかし、到着した場所は祭壇というよりも、誰かの私室の扉の前にしか見えなかった。
「あの、ここは?」
私の問いかけに、アンヌは何も言わずに部屋のドアをノックし始めた。
「マリネッタ様!」
予想していない人物の名前を聞いて、私は背中に汗をかく。
神殿には何度も通い地道に神官に認知されて、マリネッタに顔を覚えてもらおうと考えていたのだ。
なぜ、アンヌはマリネッタを呼び出すのか。
「どうしたの?」
マリネッタは、何か作業でもしていたのだろう。急に呼び出されて不機嫌そうな顔をしてドアを開けた。
マリネッタは、二十代半の女性で、金色の髪と藍色の瞳をしている。
本の中では、カオリをとても大切にしていた。
それを思い出すと途端に不安になった。
もしかしたら、神殿には来るなと言われてしまうかもしれない。
愛され聖女の物語。というタイトルから私の「何か」が誰かを不快にさせてしまうかもしれない。
「あの、私、何かしましたか?何か悪い事でも」
私が不安になってマリネッタを見つめると、彼女もアンヌと同じように眉を顰めた。
563
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
謹んで、婚約破棄をお受けいたします。
パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる