聖女様の生き残り術

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キレイゴトは難しい

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「何か持って行きたいもがあったら取りに行きましょう」

 マリネッタと応接間から出ると、ゾロゾロと神官達もそれについてきた。
 ただ、持っていきたい物は一つもなかった。
 思い入れのある物なんてなかったのだ。
 クロードがくれたアクセサリーも、正直返したいくらいだ。

「大丈夫です。思い入れのある物なんてないので、何人か、使用人にお礼を言いたいです。たぶん、こっそり食事を用意してくれた事があったので」

 何もいらない。と、返すとマリネッタか何か言いたげな顔をして俯く。
 私はこっそりと気にかけてくれていた使用人にお礼だけ伝えた。

「それでは馬車に乗りましょう」

 馬車はマリネッタの希望で二人きりで乗り込むことになった。
 マリネッタは、何か言いたいことでもあるのかどこかそわそわとしていた。
 どうしたのか、聞くととても言いにくそうに「あの」と言いさらに続いた。

「少し話を聞いてくれますか?」

 私が聖女だったなんて思いもしなかった。と話がしたいのだろう。
 彼女は私が聖女でもそうでなくても態度を変えるような人ではない。と、今まで接してきてそれを感じている。
 できれば、カオリが来る前に聖女として信頼されればいいのだけれど。
 そんなことを考えていると、マリネッタはある告白を始めた。

「……貴女が酷い扱いをされているのを知っていて、何もできませんでした」

 でしょうね。と、私は思った。
 マリネッタは、私が神殿に行くたびにかなり気にかけてくれていた。
 そういった子供を見かけると、彼女は何かしら声をかけているようだった。

「知ってます。でも、それは貴女が謝ることではありません。それをしたのは血が繋がっただけの人達がしたことですから」

「痩せているとはいえ、食べ物には困っていないようですし、たまに叩かれたようなアザがあるのには気がついていたけど、何もできなかったのです」

 気がついていたけれど、「何もしなかった」と「何もできなかった」結果は同じでも意味は全く違う。
 それに、私の状態に気がついていても、何もできないのは仕方ない。
 子供を保護するような機関も、法律もないのだ。
 だから、マリネッタを責めることはできなかった。

「殺されないだけ、世話をしてもらえるだけマシですよ。貴女を責める事はできません」

「そうですね。私も同じ考えでした。神官の権限では、この家から籍を抜いて神殿に置くことはできないから、せめて、神殿にいる時だけは楽しく過ごせればいいと思ってました」

 だから、マリネッタは何かと私の事を気にかけてくれたのか。
 それでも、十分すぎるくらいに私は嬉しかった。

「神託で貴女が聖女だと知って迎えに行った時、あの人達の口から出てきた聞くに耐えない言葉に、自分の考えはあまりにも身勝手だと気がついたのです」

 マリネッタは、自分の考えが間違っていた。と、涙を浮かべた。

「ごめんなさい。もっと早く貴女を連れ出せばよかった。どんな処罰でも受けます」

 それは、聖女に向けられた言葉なのか、アイオラに向けられたものなのか、わからない。
 彼女の人柄から、我が身が可愛くて言ったわけでないと私にはわかる。

「私も同じ立場だったら、きっと何もできなかったと思います。だから、あまり自分を責めないでください。それと、この話はこれでおしまいにしましょう」

 私がそう返すと、マリネッタは「はい」と言い頷く。
 まだ、しばらく彼女はモヤモヤしそうな様子だが、それは自分の力でどうにかするべきだと私は思う事にした。

 やはり、綺麗事はとても難しいのだ。
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