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落とし所
「貴女たちはアイオラさんの事を一度でも考えた事はありますか?」
「考えない日なんてありませんでした」
マリネッタの声は恐ろしいほどに落ち着いていた。
それは、静かに怒りに耐えているように見えた。
私を産んだ人の発言に、マリネッタは大きく息を吐いた。
「それ、本気で言ってます?あなた達は、一度もまともにアイオラさんのことを見ていません」
マリネッタの断言に私は驚いていた。
少なくとも表面上は、綺麗な格好をして上手に取り繕う事ができていると思っていたからだ。
「だっておかしいでしょう。丈が短くてぶかぶかのワンピースを着ているのに、それに対して何も思わなかったのですか?」
マリネッタに指摘されて、着ているワンピースの丈が短い事に気がついた。
「そ、それは、アイオラが、元々痩せているから」
「神殿に来始めた時から痩せていましたけど、今日ほどではありませんでした。どれだけ彼女を放置したのですか?あまり会っていない私ですら、かなり痩せた事に気がついているのに」
「……」
マリネッタの指摘に母だった人は黙り込んだ。
反論したらボロが出ると思ったからだろう。
「後天的に聖女になる条件を知っていますか?」
「……」
マリネッタの質問に、母は答えられない。
当然だ。それを知っているのはごく少数だからだ。
なぜ知られていないかというと、それを試そうとする人たちが出るかもしれないから。
「一度死にかける事ですよ。彼女が今際の際を彷徨っていた時、あなた達はアイオラさんを気にかけましたか?」
血が繋がっただけの人たちは何も言えずに顔を見合わせるだけだった。
「それに、もしも、まともな親だったら、アイオラさんをこんな場所に呼び出したりなんてしませんよ。歩いて立っているのもやっとでしょう!」
「そ、それは」
「まだ、私に言わせたいんですか?」
マリネッタは、まるで私のことを全て知っているかのような口調だった。
「アイオラさんは、定期的に神殿に祈りをしに来てました。何度か頬にアザがありましたよ」
「そ、それは、教育のために、この子は少し傲慢だから、何度もやったわけじゃないわ」
「私が頬に触れようとした時、怯えた顔をしましたよ。虐待が日常的に行われていた証拠です」
マリネッタは本当に私のことをよく見てくれていたのだ。
そして、自分が想像している以上に気にかけてかけてくれていた。
「これ以上私が発言したらあなた達の不利になりますよ。アイオラ様の親だから、私はまだ言いたいことを我慢しているんです。アイオラ様どうしたいですか?」
「私はこの家から籍を抜きます」
あくまで私の考えを優先して聞いてくれるマリネッタに、自分の思いを口にする。
もう、ずっと前から考えていたことだった。
こんな家いらない。こんな家族いらない。
私の気持ちはシンプルにそれだけだった。
「み、未成年は籍を抜ける事はできない」
「……そうなんですよね。ですから、アイオラ様の身柄は神殿預かりとします」
父の指摘はごもっともで、実際に法律上ではそう決まっている。抜け道がないわけではないけれど。それをするには労力が必要だ。
「正直なところ、貴族籍があった方が何かと便利ではあるんですよね。今、勢いだけで籍を抜いて後悔するかもしれませんし」
家族だった人たちが、籍を絶対に抜くな。というのなら死んでも籍を抜こうと思うが、マリネッタがそう言うのなら、素直に従おうと思った。
実際に持ち帰って何年も考えた上で決めても遅くはない。
「それなら、成人してから決めます。でも、ここに二度と戻ってくるつもりはありません」
「わかりました。神殿はアイオラ様の考えに寄り添います」
マリネッタは、にっこりと微笑んだ。
「考えない日なんてありませんでした」
マリネッタの声は恐ろしいほどに落ち着いていた。
それは、静かに怒りに耐えているように見えた。
私を産んだ人の発言に、マリネッタは大きく息を吐いた。
「それ、本気で言ってます?あなた達は、一度もまともにアイオラさんのことを見ていません」
マリネッタの断言に私は驚いていた。
少なくとも表面上は、綺麗な格好をして上手に取り繕う事ができていると思っていたからだ。
「だっておかしいでしょう。丈が短くてぶかぶかのワンピースを着ているのに、それに対して何も思わなかったのですか?」
マリネッタに指摘されて、着ているワンピースの丈が短い事に気がついた。
「そ、それは、アイオラが、元々痩せているから」
「神殿に来始めた時から痩せていましたけど、今日ほどではありませんでした。どれだけ彼女を放置したのですか?あまり会っていない私ですら、かなり痩せた事に気がついているのに」
「……」
マリネッタの指摘に母だった人は黙り込んだ。
反論したらボロが出ると思ったからだろう。
「後天的に聖女になる条件を知っていますか?」
「……」
マリネッタの質問に、母は答えられない。
当然だ。それを知っているのはごく少数だからだ。
なぜ知られていないかというと、それを試そうとする人たちが出るかもしれないから。
「一度死にかける事ですよ。彼女が今際の際を彷徨っていた時、あなた達はアイオラさんを気にかけましたか?」
血が繋がっただけの人たちは何も言えずに顔を見合わせるだけだった。
「それに、もしも、まともな親だったら、アイオラさんをこんな場所に呼び出したりなんてしませんよ。歩いて立っているのもやっとでしょう!」
「そ、それは」
「まだ、私に言わせたいんですか?」
マリネッタは、まるで私のことを全て知っているかのような口調だった。
「アイオラさんは、定期的に神殿に祈りをしに来てました。何度か頬にアザがありましたよ」
「そ、それは、教育のために、この子は少し傲慢だから、何度もやったわけじゃないわ」
「私が頬に触れようとした時、怯えた顔をしましたよ。虐待が日常的に行われていた証拠です」
マリネッタは本当に私のことをよく見てくれていたのだ。
そして、自分が想像している以上に気にかけてかけてくれていた。
「これ以上私が発言したらあなた達の不利になりますよ。アイオラ様の親だから、私はまだ言いたいことを我慢しているんです。アイオラ様どうしたいですか?」
「私はこの家から籍を抜きます」
あくまで私の考えを優先して聞いてくれるマリネッタに、自分の思いを口にする。
もう、ずっと前から考えていたことだった。
こんな家いらない。こんな家族いらない。
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「み、未成年は籍を抜ける事はできない」
「……そうなんですよね。ですから、アイオラ様の身柄は神殿預かりとします」
父の指摘はごもっともで、実際に法律上ではそう決まっている。抜け道がないわけではないけれど。それをするには労力が必要だ。
「正直なところ、貴族籍があった方が何かと便利ではあるんですよね。今、勢いだけで籍を抜いて後悔するかもしれませんし」
家族だった人たちが、籍を絶対に抜くな。というのなら死んでも籍を抜こうと思うが、マリネッタがそう言うのなら、素直に従おうと思った。
実際に持ち帰って何年も考えた上で決めても遅くはない。
「それなら、成人してから決めます。でも、ここに二度と戻ってくるつもりはありません」
「わかりました。神殿はアイオラ様の考えに寄り添います」
マリネッタは、にっこりと微笑んだ。
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