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途中場所の中で父親の一言に逆上した母が大暴れして、二人を馬車から引き摺り下ろすのに苦労してなんとか王都へと到着した。
予約していたホテルで荷物を預けて、私と兄者はなんとなくカフェに入ることにした。
カフェには、女だらけで兄は少し居心地が悪そうにしている。
「なんか、僕だけ場違いだし外で待ってようかな」
「わ、私を一人にする気なのか?兄者は……」
都会のレディは煌びやかでいい匂いがする。
田舎では熊殺しの娘と持て囃されるが、都会ではそんなことはない。
このカフェのオシャレさに戸惑っているのは、田舎者でしかない。
猪と向き合った時は的確に安全に逃げる方法を考えて実行できるのに、こういった場にいるとどう行動したら優雅でお洒落に見えるのか私には想像ができない。
場違いな田舎者の私は、ここに一人でいるのが怖いのだ。
私は必死になって「外で待つ」と言い出した兄者の腕を掴んだ。
二人でドタバタとしていると、三人組の女性達の話し声が耳に入る。
「ねぇ、ご存知ですか?」
そう口火をきる女性に私は耳を澄ませた。
だって、こういう内緒話というものはとても面白いからだ。
大体こういう時の話はゴシップだったりするのだ。
田舎にはこういった話しがあまりなく。最近あったのは農家に嫁いだ嫁がかなり酷使されてボロボロの状態になり実家に助けを求めたところ、そこの家の両親が激怒。
近所の人を引き連れて、釜とクワを持ち嫁いだ家を襲撃した。といったものだ。
その話を聞いた私は、手に汗を握り興奮したのをおぼえている。
娯楽のない田舎ではこういったゴシップは、生きる活力源にのるのだ。
私はこの話をリアにしてあげようと思っていた。
しかし、聞こえてきたものは予想外のものだった。
「氷華の騎士、アレクト様が婚約したんですって」
なんか、聞き覚えのある名前。というよりもその婚約者は私だ。
ま、まさか私が都会のゴシップになっているのではないか。
「そうみたいですね。なんでも田舎の貴族みたいで」
くすり。と、嘲るような笑い声が聞こえた。
こいつら、私のことを馬鹿にしている。
ここに私が居るのは気がついていないが、それでも、私という存在をダサくてイモくさい田舎女だと笑っているのだけはわかった。
「身の程を知らないって言うのかしら」
いや、身の程を知らないのは、こいつらの方ではないのか。
フリージア家は公爵家で、この国の中で一二を争うほどの権力の持ち主だ。
そんな家門が決めた婚約者を「身の程を知らない」と言うだなんて、そっちの方が「身の程を知らない」のではないだろうか。
「……なあ、アイツらぶん殴っていいか?」
もちろん、今からぶん殴るつもりで、兄者には事前に申請しておこうと思い。声をかける。
いつも何かする時は申請しなさい。と、兄者から言って聞かされているからだ。
しかし、いつもなら「行け」という兄者は、あろうことか慌てて私を引き止めた。
「ルビア、ハウス!ハウス!」
私は犬か!
思わずそう声を上げたくなってしまう。
兄者はうちの家訓を忘れてしまったようだ。
「はぁ?やられたら噛み付くがこの家の家訓でしょう?」
私が噛み付くつもりでガチガチと歯を鳴らしていると、別の声がした。
「それ、物理的に噛み付く方でしょう!?ルビアの歯が折れてしまったら大変よ。嫁入り前なのに」
なぜ、こんなところに母がいるのか、家から出て二日目で馬車から引き摺り下ろしたはずなのに。
馬車をチャーターしてやってきたのか、それとも走って追いかけてきたのか。
「な、なんでいるの!?馬車から降ろしたはずなのに!」
「走ってきたのよ」
さらりと走って追いかけた。と、教えてくれた母に私は恐怖を覚えた。
走って追いかけられるような距離なの……?
領地からここまで一ヶ月かかった。
普通なら、走って追いかける間に心が折れてしまう。
臨月でクマを殺したのもアレだけど、やっぱりこの人は人ではないのかも知れない。
「あんなのに噛みついてお腹を壊したら大変よ。美味しいものが食べられなくなってしまうわ」
……確かにその通りだ。
「……我慢する!」
私は怒りを引っ込めた。
美味しいものが食べられなくなったら、それは大問題だ。
生きる活力がなくなってしまう。
「アレクト様は、あの方とは婚姻されないのね」
「残念ですわ」
あの方とは、どの方なのだろうか。
もしかしたら、恋人か肉体関係をもった相手がいるのかもしれない。
「おい、兄者、調べてほしい事がある」
こういう時の兄者だ。
「あの方ってどの方か調べて欲しい。あと、アレクトの異性関係、性病の有無についても頼む」
「御意」
兄者は速やかに店から出た。
「え、待って、三人でお茶したかったのに」
母が何か言っているが、私は無視した。
彼女らの口ぶりから、アレクトには恋人がいるような気がしたのだ。
私の女の嗅覚はこういう時によく働くのだ。
途中場所の中で父親の一言に逆上した母が大暴れして、二人を馬車から引き摺り下ろすのに苦労してなんとか王都へと到着した。
予約していたホテルで荷物を預けて、私と兄者はなんとなくカフェに入ることにした。
カフェには、女だらけで兄は少し居心地が悪そうにしている。
「なんか、僕だけ場違いだし外で待ってようかな」
「わ、私を一人にする気なのか?兄者は……」
都会のレディは煌びやかでいい匂いがする。
田舎では熊殺しの娘と持て囃されるが、都会ではそんなことはない。
このカフェのオシャレさに戸惑っているのは、田舎者でしかない。
猪と向き合った時は的確に安全に逃げる方法を考えて実行できるのに、こういった場にいるとどう行動したら優雅でお洒落に見えるのか私には想像ができない。
場違いな田舎者の私は、ここに一人でいるのが怖いのだ。
私は必死になって「外で待つ」と言い出した兄者の腕を掴んだ。
二人でドタバタとしていると、三人組の女性達の話し声が耳に入る。
「ねぇ、ご存知ですか?」
そう口火をきる女性に私は耳を澄ませた。
だって、こういう内緒話というものはとても面白いからだ。
大体こういう時の話はゴシップだったりするのだ。
田舎にはこういった話しがあまりなく。最近あったのは農家に嫁いだ嫁がかなり酷使されてボロボロの状態になり実家に助けを求めたところ、そこの家の両親が激怒。
近所の人を引き連れて、釜とクワを持ち嫁いだ家を襲撃した。といったものだ。
その話を聞いた私は、手に汗を握り興奮したのをおぼえている。
娯楽のない田舎ではこういったゴシップは、生きる活力源にのるのだ。
私はこの話をリアにしてあげようと思っていた。
しかし、聞こえてきたものは予想外のものだった。
「氷華の騎士、アレクト様が婚約したんですって」
なんか、聞き覚えのある名前。というよりもその婚約者は私だ。
ま、まさか私が都会のゴシップになっているのではないか。
「そうみたいですね。なんでも田舎の貴族みたいで」
くすり。と、嘲るような笑い声が聞こえた。
こいつら、私のことを馬鹿にしている。
ここに私が居るのは気がついていないが、それでも、私という存在をダサくてイモくさい田舎女だと笑っているのだけはわかった。
「身の程を知らないって言うのかしら」
いや、身の程を知らないのは、こいつらの方ではないのか。
フリージア家は公爵家で、この国の中で一二を争うほどの権力の持ち主だ。
そんな家門が決めた婚約者を「身の程を知らない」と言うだなんて、そっちの方が「身の程を知らない」のではないだろうか。
「……なあ、アイツらぶん殴っていいか?」
もちろん、今からぶん殴るつもりで、兄者には事前に申請しておこうと思い。声をかける。
いつも何かする時は申請しなさい。と、兄者から言って聞かされているからだ。
しかし、いつもなら「行け」という兄者は、あろうことか慌てて私を引き止めた。
「ルビア、ハウス!ハウス!」
私は犬か!
思わずそう声を上げたくなってしまう。
兄者はうちの家訓を忘れてしまったようだ。
「はぁ?やられたら噛み付くがこの家の家訓でしょう?」
私が噛み付くつもりでガチガチと歯を鳴らしていると、別の声がした。
「それ、物理的に噛み付く方でしょう!?ルビアの歯が折れてしまったら大変よ。嫁入り前なのに」
なぜ、こんなところに母がいるのか、家から出て二日目で馬車から引き摺り下ろしたはずなのに。
馬車をチャーターしてやってきたのか、それとも走って追いかけてきたのか。
「な、なんでいるの!?馬車から降ろしたはずなのに!」
「走ってきたのよ」
さらりと走って追いかけた。と、教えてくれた母に私は恐怖を覚えた。
走って追いかけられるような距離なの……?
領地からここまで一ヶ月かかった。
普通なら、走って追いかける間に心が折れてしまう。
臨月でクマを殺したのもアレだけど、やっぱりこの人は人ではないのかも知れない。
「あんなのに噛みついてお腹を壊したら大変よ。美味しいものが食べられなくなってしまうわ」
……確かにその通りだ。
「……我慢する!」
私は怒りを引っ込めた。
美味しいものが食べられなくなったら、それは大問題だ。
生きる活力がなくなってしまう。
「アレクト様は、あの方とは婚姻されないのね」
「残念ですわ」
あの方とは、どの方なのだろうか。
もしかしたら、恋人か肉体関係をもった相手がいるのかもしれない。
「おい、兄者、調べてほしい事がある」
こういう時の兄者だ。
「あの方ってどの方か調べて欲しい。あと、アレクトの異性関係、性病の有無についても頼む」
「御意」
兄者は速やかに店から出た。
「え、待って、三人でお茶したかったのに」
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私の女の嗅覚はこういう時によく働くのだ。
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