氷華の騎士と言われた婚約者様がこんなにゲラなはずがない

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
4 / 5

4

しおりを挟む
4

 途中場所の中で父親の一言に逆上した母が大暴れして、二人を馬車から引き摺り下ろすのに苦労してなんとか王都へと到着した。
 予約していたホテルで荷物を預けて、私と兄者はなんとなくカフェに入ることにした。
 カフェには、女だらけで兄は少し居心地が悪そうにしている。

「なんか、僕だけ場違いだし外で待ってようかな」
「わ、私を一人にする気なのか?兄者は……」

 都会のレディは煌びやかでいい匂いがする。
 田舎では熊殺しの娘と持て囃されるが、都会ではそんなことはない。
 このカフェのオシャレさに戸惑っているのは、田舎者でしかない。
 猪と向き合った時は的確に安全に逃げる方法を考えて実行できるのに、こういった場にいるとどう行動したら優雅でお洒落に見えるのか私には想像ができない。
 場違いな田舎者の私は、ここに一人でいるのが怖いのだ。
 私は必死になって「外で待つ」と言い出した兄者の腕を掴んだ。
 二人でドタバタとしていると、三人組の女性達の話し声が耳に入る。

「ねぇ、ご存知ですか?」

 そう口火をきる女性に私は耳を澄ませた。
 だって、こういう内緒話というものはとても面白いからだ。
 大体こういう時の話はゴシップだったりするのだ。
 田舎にはこういった話しがあまりなく。最近あったのは農家に嫁いだ嫁がかなり酷使されてボロボロの状態になり実家に助けを求めたところ、そこの家の両親が激怒。
 近所の人を引き連れて、釜とクワを持ち嫁いだ家を襲撃した。といったものだ。
 その話を聞いた私は、手に汗を握り興奮したのをおぼえている。
 娯楽のない田舎ではこういったゴシップは、生きる活力源にのるのだ。
 私はこの話をリアにしてあげようと思っていた。
 しかし、聞こえてきたものは予想外のものだった。
 
「氷華の騎士、アレクト様が婚約したんですって」

 なんか、聞き覚えのある名前。というよりもその婚約者は私だ。
 ま、まさか私が都会のゴシップになっているのではないか。
 
「そうみたいですね。なんでも田舎の貴族みたいで」

 くすり。と、嘲るような笑い声が聞こえた。
 こいつら、私のことを馬鹿にしている。
 ここに私が居るのは気がついていないが、それでも、私という存在をダサくてイモくさい田舎女だと笑っているのだけはわかった。

「身の程を知らないって言うのかしら」

 いや、身の程を知らないのは、こいつらの方ではないのか。
 フリージア家は公爵家で、この国の中で一二を争うほどの権力の持ち主だ。
 そんな家門が決めた婚約者を「身の程を知らない」と言うだなんて、そっちの方が「身の程を知らない」のではないだろうか。

「……なあ、アイツらぶん殴っていいか?」

 もちろん、今からぶん殴るつもりで、兄者には事前に申請しておこうと思い。声をかける。
 いつも何かする時は申請しなさい。と、兄者から言って聞かされているからだ。
 しかし、いつもなら「行け」という兄者は、あろうことか慌てて私を引き止めた。

「ルビア、ハウス!ハウス!」

 私は犬か!
 思わずそう声を上げたくなってしまう。
 兄者はうちの家訓を忘れてしまったようだ。

「はぁ?やられたら噛み付くがこの家の家訓でしょう?」

 私が噛み付くつもりでガチガチと歯を鳴らしていると、別の声がした。

「それ、物理的に噛み付く方でしょう!?ルビアの歯が折れてしまったら大変よ。嫁入り前なのに」

 なぜ、こんなところに母がいるのか、家から出て二日目で馬車から引き摺り下ろしたはずなのに。
 馬車をチャーターしてやってきたのか、それとも走って追いかけてきたのか。

「な、なんでいるの!?馬車から降ろしたはずなのに!」
「走ってきたのよ」

 さらりと走って追いかけた。と、教えてくれた母に私は恐怖を覚えた。
 走って追いかけられるような距離なの……?
 領地からここまで一ヶ月かかった。
 普通なら、走って追いかける間に心が折れてしまう。
 臨月でクマを殺したのもアレだけど、やっぱりこの人は人ではないのかも知れない。

「あんなのに噛みついてお腹を壊したら大変よ。美味しいものが食べられなくなってしまうわ」

 ……確かにその通りだ。

「……我慢する!」

 私は怒りを引っ込めた。
 美味しいものが食べられなくなったら、それは大問題だ。
 生きる活力がなくなってしまう。
 
「アレクト様は、あの方とは婚姻されないのね」
「残念ですわ」

 あの方とは、どの方なのだろうか。
 もしかしたら、恋人か肉体関係をもった相手がいるのかもしれない。

「おい、兄者、調べてほしい事がある」

 こういう時の兄者だ。

「あの方ってどの方か調べて欲しい。あと、アレクトの異性関係、性病の有無についても頼む」
「御意」

 兄者は速やかに店から出た。

「え、待って、三人でお茶したかったのに」

 母が何か言っているが、私は無視した。
 彼女らの口ぶりから、アレクトには恋人がいるような気がしたのだ。
 私の女の嗅覚はこういう時によく働くのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄させた本当の黒幕は?

山葵
恋愛
「お前との婚約は破棄させて貰うっ!!」 「お義姉樣、ごめんなさい。ミアがいけないの…。お義姉様の婚約者と知りながらカイン様を好きになる気持ちが抑えられなくて…ごめんなさい。」 「そう、貴方達…」 「お義姉様は、どうか泣かないで下さい。激怒しているのも分かりますが、怒鳴らないで。こんな所で泣き喚けばお姉様の立場が悪くなりますよ?」 あぁわざわざパーティー会場で婚約破棄したのは、私の立場を貶める為だったのね。 悪いと言いながら、怯えた様に私の元婚約者に縋り付き、カインが見えない様に私を蔑み嘲笑う義妹。 本当に強かな悪女だ。 けれどね、私は貴女の期待通りにならないのよ♪

早く婚約解消してください!

鳴哉
恋愛
自己評価の低い子爵令嬢 と その婚約者の侯爵令息  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、6話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

一年付き合ってるイケメン彼氏ともっと深い関係になりたいのに、あっちはその気がないみたいです…

ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢のウラリーは伯爵令息のビクトルに告白され、付き合うことになった。彼は優しくてかっこよくて、まさに理想の恋人!だが、ある日ウラリーは一年も交際しているのにビクトルとキスをしたことがないことに気付いてしまった。そこでウラリーが取った行動とは…?!

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

裏切られた令嬢は婚約者を捨てる

恋愛
婚約者の裏切りを知り周りの力を借りて婚約者と婚約破棄をする。 令嬢は幸せを掴む事が出来るのだろうか。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

処理中です...