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私は母を連れてホテルへに到着した。
ホテルの外観をみながら、私はふと不安になった。
貧乏貴族が宿泊するにはあまりにも豪華すぎないか?
「なあ、母さん、うち貧乏なのにこんないいホテルに泊まっていいの?」
つい、不安になってしまい。母さんにそんなことを聞いてしまう。
子供の時からそうだったが、何か欲しい。と母に言うたびに「うちは貧乏だから買えないわ」と涙目で言われ続けて育った。
金銭感覚はそれなりにあるので、貧乏人にここの宿泊費が払えるのか少し不安になったのだ。
「大丈夫よ。お金の心配はしないで、お父さんがお金を現地で稼ぐって話していたから」
日雇いということは肉体労働をしているのだろうか。
親父はヘタレだが、体力はある方だ。
だから、仕事はできるとは思うが問題は賃金のほうだ。
こちらの方が賃金が田舎に比べて高いとはいえ。
「日雇いでそんなに稼げないと思うんだけど」
平民のような暮らしをしているからか、賃金の相場は何となくわかるもので。
父が日雇いで必死に働いても、宿泊費にとてもではないが足りないと思う。
「私もビジネスをするつもりよ」
野生という言葉がぴったりの母の口から出てくる。「ビジネス」という知的なワードに私は不安を覚えた。
この人ビジネスのビの字もわからないでしょ。考えるな感じろ。という思考回路じゃない。
フィーリングで生きる母には、考えるという行為が必要なビジネスなんて絶対に無理だ。
これ、ビジネスを謳った詐欺じゃないのかしら。
田舎者が「ビジネス」という言葉に憧れてるのをわかってて、詐欺師がここぞとばかりに声をかけてくるアレだ。
「母さん、融資とか投資とかそういったものはね。よくわかってる人ですら失敗するのよ。だから、安易に手を出したらダメだ」
私は小さな子に言って聞かせるように、母に懇々と融資や投資の危険性について説明した。
自分もそれが何なのかよくわかっていないけれど、よくわからないものに手を出すな。と、他でもない母に言われているのだ。
まあ、よくわからないもの。というのは、野生生物のことではあるけれど。
「……わかったわ。融資も投資もしないわ」
母はすんなりと引き下がったが、なんだか不安である。
子供は静かな時が一番やべーことをやらかしているから注意して見ろ。と、以前リアが話していた。
母の物言いが、何だかそれに近い気がした。
何だか嵐の前の予兆のように思えて怖い。
……そういえば、クソ漏らし親父とも合流できていない。
兄者には、情報収集を頼んでいるので、まだ戻って来ないのはわかるけれど。
親父、まさかカツアゲとかしてないよな。
ふとそんな不安がよぎったが、あの気の小さな男にそんな気概などないと気がついて、考えるのをやめた。
考えるのはやめよう。考えたらその時に全てが終わってしまうから。
わかってる。私がファイヤ家の唯一の常識人であることを。
父は救いようのないヘタレ。
母は猛者。
兄者はなかなかアレな男。
コイツらのフォローができるのは私しかいないのだ。
私が結婚して消えたら彼らはどうやって生きていくのだろうか。
「本当に本当にやめてね。もう何もない家だけど破産したら被害が出るんだからね!」
もしも、ただの平民で破産したなら迷惑をかけるのは身内だけで済む。
しかし、これでも貴族させてもらっているファイヤ家は、破産してしまったら領民に迷惑をかけてしまうのだ。
それだけは絶対に避けたい。
「わかってるから、大丈夫よ」
母は、本当に軽く受け流している。
またそれが不安につながる。
結局、親父と合流することはなかった。
そして、顔合わせの日。
私は母に見送られて、フリージア家へと向かった。
フリージア家に到着すると、執事が出迎えてくれた。
しかし、何というか面倒くさそうな顔をして対応をされた。
応接間へと案内されて、ソファに腰をかけると。
「アレクト様が来るまでしばらくお待ちください」
とだけ言われた。
いつやってくるのか、それすらも説明がない状況だ。
「アレクト様とはいつお会いできますか?」
「はぁ、知りませんよ」
執事は苛立った様子で頭を掻きむしった。
うちの執事ですらもう少しマシな対応をする。
少なくとも客人に対して、こんなにも無礼な態度を取ることは絶対にしない。
「……」
「身の程知らずが」
身の程知らずはお前だろ!そう言おうと口を開く前に、ドアをかなり乱雑に閉められた。
胸ぐら掴んでぶん殴りたかった……!
恐ろしいほどの燃焼不良な怒りを抱えたまま。私は、アイツを「地獄に叩き落としてやる奴リスト」に加えた。
ガチャリとドアが小さく開いて、私はそちらに目線をやった。
しかし、そこにいたのはこの屋敷のメイドたちだ。
「アレが婚約者?」
「まあ、アレでも貴族でしょう?」
口々に出てくる嫌味に、そろそろ私の我慢が限界にきてきた。
このテーブルひっくり返すか、アイツらにぶん投げてやろうか。
そんなことを考えていると、メイド達がスッと消えた。
私は母を連れてホテルへに到着した。
ホテルの外観をみながら、私はふと不安になった。
貧乏貴族が宿泊するにはあまりにも豪華すぎないか?
「なあ、母さん、うち貧乏なのにこんないいホテルに泊まっていいの?」
つい、不安になってしまい。母さんにそんなことを聞いてしまう。
子供の時からそうだったが、何か欲しい。と母に言うたびに「うちは貧乏だから買えないわ」と涙目で言われ続けて育った。
金銭感覚はそれなりにあるので、貧乏人にここの宿泊費が払えるのか少し不安になったのだ。
「大丈夫よ。お金の心配はしないで、お父さんがお金を現地で稼ぐって話していたから」
日雇いということは肉体労働をしているのだろうか。
親父はヘタレだが、体力はある方だ。
だから、仕事はできるとは思うが問題は賃金のほうだ。
こちらの方が賃金が田舎に比べて高いとはいえ。
「日雇いでそんなに稼げないと思うんだけど」
平民のような暮らしをしているからか、賃金の相場は何となくわかるもので。
父が日雇いで必死に働いても、宿泊費にとてもではないが足りないと思う。
「私もビジネスをするつもりよ」
野生という言葉がぴったりの母の口から出てくる。「ビジネス」という知的なワードに私は不安を覚えた。
この人ビジネスのビの字もわからないでしょ。考えるな感じろ。という思考回路じゃない。
フィーリングで生きる母には、考えるという行為が必要なビジネスなんて絶対に無理だ。
これ、ビジネスを謳った詐欺じゃないのかしら。
田舎者が「ビジネス」という言葉に憧れてるのをわかってて、詐欺師がここぞとばかりに声をかけてくるアレだ。
「母さん、融資とか投資とかそういったものはね。よくわかってる人ですら失敗するのよ。だから、安易に手を出したらダメだ」
私は小さな子に言って聞かせるように、母に懇々と融資や投資の危険性について説明した。
自分もそれが何なのかよくわかっていないけれど、よくわからないものに手を出すな。と、他でもない母に言われているのだ。
まあ、よくわからないもの。というのは、野生生物のことではあるけれど。
「……わかったわ。融資も投資もしないわ」
母はすんなりと引き下がったが、なんだか不安である。
子供は静かな時が一番やべーことをやらかしているから注意して見ろ。と、以前リアが話していた。
母の物言いが、何だかそれに近い気がした。
何だか嵐の前の予兆のように思えて怖い。
……そういえば、クソ漏らし親父とも合流できていない。
兄者には、情報収集を頼んでいるので、まだ戻って来ないのはわかるけれど。
親父、まさかカツアゲとかしてないよな。
ふとそんな不安がよぎったが、あの気の小さな男にそんな気概などないと気がついて、考えるのをやめた。
考えるのはやめよう。考えたらその時に全てが終わってしまうから。
わかってる。私がファイヤ家の唯一の常識人であることを。
父は救いようのないヘタレ。
母は猛者。
兄者はなかなかアレな男。
コイツらのフォローができるのは私しかいないのだ。
私が結婚して消えたら彼らはどうやって生きていくのだろうか。
「本当に本当にやめてね。もう何もない家だけど破産したら被害が出るんだからね!」
もしも、ただの平民で破産したなら迷惑をかけるのは身内だけで済む。
しかし、これでも貴族させてもらっているファイヤ家は、破産してしまったら領民に迷惑をかけてしまうのだ。
それだけは絶対に避けたい。
「わかってるから、大丈夫よ」
母は、本当に軽く受け流している。
またそれが不安につながる。
結局、親父と合流することはなかった。
そして、顔合わせの日。
私は母に見送られて、フリージア家へと向かった。
フリージア家に到着すると、執事が出迎えてくれた。
しかし、何というか面倒くさそうな顔をして対応をされた。
応接間へと案内されて、ソファに腰をかけると。
「アレクト様が来るまでしばらくお待ちください」
とだけ言われた。
いつやってくるのか、それすらも説明がない状況だ。
「アレクト様とはいつお会いできますか?」
「はぁ、知りませんよ」
執事は苛立った様子で頭を掻きむしった。
うちの執事ですらもう少しマシな対応をする。
少なくとも客人に対して、こんなにも無礼な態度を取ることは絶対にしない。
「……」
「身の程知らずが」
身の程知らずはお前だろ!そう言おうと口を開く前に、ドアをかなり乱雑に閉められた。
胸ぐら掴んでぶん殴りたかった……!
恐ろしいほどの燃焼不良な怒りを抱えたまま。私は、アイツを「地獄に叩き落としてやる奴リスト」に加えた。
ガチャリとドアが小さく開いて、私はそちらに目線をやった。
しかし、そこにいたのはこの屋敷のメイドたちだ。
「アレが婚約者?」
「まあ、アレでも貴族でしょう?」
口々に出てくる嫌味に、そろそろ私の我慢が限界にきてきた。
このテーブルひっくり返すか、アイツらにぶん投げてやろうか。
そんなことを考えていると、メイド達がスッと消えた。
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====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
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