58 / 63
35
しおりを挟む
35
手にかかる力が弱まったのを感じた。
ジークムントを見ると、彼の目には光が戻っており、この状況に明らかに戸惑っているのが見えた。
「……クラリス?」
一番聞きたかった声で、私の名前を呼ばれて目頭が熱くなってきた。
涙が溢れそうになりながら頷くと、ジークの大きな手が私の肩を掴んだ。
「き、君は何でこんなところに来たんだ!危ないじゃないか!」
すんっと驚いたことに涙が引っ込んだ。
何なんだこいつ。感動の再会なのに、いい雰囲気もぶち壊しだ。
「開口一発でそれかよ!」
子供扱いにも程があるじゃないか。
「君のことが心配でどれほど……」
ジークムントは、力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
「あ、ごめん。ごめんって」
「すまない。本当に申し訳ない。大切な君を殺そうとして」
ジークムントは自分のことが許せないのか俯いた。
このままいじけられても困る。
「ああ、もう、大丈夫だから、死んでないし、お前が私を殺しても許したよ」
ジークムントに首に手をかけられた時、怒りや悲しみよりも、正気に戻った彼のことの方が心配だった。
「君が僕を許しても僕は自分を許せないよ」
顔を上げたジークムントは涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「え、本当に泣いてるの?」
大の大人が泣くなんて、よほど堪えているようだ。
この男が泣く姿なんて全く想像ができなかった。
「泣くよ。泣かしてくれ!自分が許せない」
ジークムントは、グズグズと泣きながら私に抱きついてきた。
私もそれに応えるように腕をジークムントの背中に伸ばした。
「大丈夫だ」と、安心させるように声をかけると「元凶に言われても困る」と言い返された。
この男は私のことを何だと思っているのだろうか。
『なぜ……?』
声がして目線を向けると、そこにはアルネがいた。
そういえば、ジークムントを洗脳しようとしてたのを思い出す。
ジークムントの事しか見ていなかったから、存在を忘れていた。
「偽物アルネ!」
私は「偽物アルネ」を指差した。
私から見れば、最初に出会ったアルネが本物だからこのアルネは「偽物アルネ」でしかないのだ。
「偽物?」
「そうなんだよ。こいつが偽物で本当のアルネを異世界から呼び出して……!」
「落ち着いて話そうかクラリス」
説明しようとするが、自分でも何を言っているのかよくわからない。
『ジークは、私のものよ!』
アルネの指先から黒い影が出てきて、ジークムントの額に触れる。
しかし、ジークムントには何の変化もない。
『ど、どうして!言うことを聞かないの!?』
おそらくだが、瘴気でジークムントの心を操ろうとしているのだろう。
「なあ、そんなことして人の心手に入れてお前は幸せなのか?」
思わずこぼれ出た言葉。
心を持たぬ人形になったジークムントを手に入れて何が幸せなのだろうか。
そんなのハリボテの幸せでしかない。
『ジークが変わってしまったのか貴女のせいよ!』
偽物アルネは、言うことを聞かなくなったジークムントに何かするのを諦めて私に目を向けてきた。
『消えなさい』
偽物アルネが完全に黒い影になった。
黒い影は、私たちを包み込んだ。
その瞬間だ。急に胸が苦しくなった。
「っ、はぁ」
ジークムントの腕の力が強くなる。
少しだけ胸の苦しさが減ったような気がした。
「クラリス、君は絶対に死なせない」
このままではジリ貧な気がする。
それでも、ジークムントは根拠なんてないのに、私を死なせない。と、言い切る。
彼がそう言うのなら、そうなのかもしれない。
「……私が死んだら誰よりも先にお前に会いにいくよ」
私にはまだ恋愛感情がどんなものなのかわからない。でも、何かあった時、一番最初に会いたいと思う相手はジークムントだけだとキッパリと言い切れる自信があるから。
多分、それが好きという感情なのだと思う。
「ありがとう。嬉しい」
ジークムントが、私の頬に口付けを落とした。
砕け散ったローズクォーツが、再び光出した。
その光は偽物アルネを追い払うように私たちを包み込んだ。
手にかかる力が弱まったのを感じた。
ジークムントを見ると、彼の目には光が戻っており、この状況に明らかに戸惑っているのが見えた。
「……クラリス?」
一番聞きたかった声で、私の名前を呼ばれて目頭が熱くなってきた。
涙が溢れそうになりながら頷くと、ジークの大きな手が私の肩を掴んだ。
「き、君は何でこんなところに来たんだ!危ないじゃないか!」
すんっと驚いたことに涙が引っ込んだ。
何なんだこいつ。感動の再会なのに、いい雰囲気もぶち壊しだ。
「開口一発でそれかよ!」
子供扱いにも程があるじゃないか。
「君のことが心配でどれほど……」
ジークムントは、力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
「あ、ごめん。ごめんって」
「すまない。本当に申し訳ない。大切な君を殺そうとして」
ジークムントは自分のことが許せないのか俯いた。
このままいじけられても困る。
「ああ、もう、大丈夫だから、死んでないし、お前が私を殺しても許したよ」
ジークムントに首に手をかけられた時、怒りや悲しみよりも、正気に戻った彼のことの方が心配だった。
「君が僕を許しても僕は自分を許せないよ」
顔を上げたジークムントは涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「え、本当に泣いてるの?」
大の大人が泣くなんて、よほど堪えているようだ。
この男が泣く姿なんて全く想像ができなかった。
「泣くよ。泣かしてくれ!自分が許せない」
ジークムントは、グズグズと泣きながら私に抱きついてきた。
私もそれに応えるように腕をジークムントの背中に伸ばした。
「大丈夫だ」と、安心させるように声をかけると「元凶に言われても困る」と言い返された。
この男は私のことを何だと思っているのだろうか。
『なぜ……?』
声がして目線を向けると、そこにはアルネがいた。
そういえば、ジークムントを洗脳しようとしてたのを思い出す。
ジークムントの事しか見ていなかったから、存在を忘れていた。
「偽物アルネ!」
私は「偽物アルネ」を指差した。
私から見れば、最初に出会ったアルネが本物だからこのアルネは「偽物アルネ」でしかないのだ。
「偽物?」
「そうなんだよ。こいつが偽物で本当のアルネを異世界から呼び出して……!」
「落ち着いて話そうかクラリス」
説明しようとするが、自分でも何を言っているのかよくわからない。
『ジークは、私のものよ!』
アルネの指先から黒い影が出てきて、ジークムントの額に触れる。
しかし、ジークムントには何の変化もない。
『ど、どうして!言うことを聞かないの!?』
おそらくだが、瘴気でジークムントの心を操ろうとしているのだろう。
「なあ、そんなことして人の心手に入れてお前は幸せなのか?」
思わずこぼれ出た言葉。
心を持たぬ人形になったジークムントを手に入れて何が幸せなのだろうか。
そんなのハリボテの幸せでしかない。
『ジークが変わってしまったのか貴女のせいよ!』
偽物アルネは、言うことを聞かなくなったジークムントに何かするのを諦めて私に目を向けてきた。
『消えなさい』
偽物アルネが完全に黒い影になった。
黒い影は、私たちを包み込んだ。
その瞬間だ。急に胸が苦しくなった。
「っ、はぁ」
ジークムントの腕の力が強くなる。
少しだけ胸の苦しさが減ったような気がした。
「クラリス、君は絶対に死なせない」
このままではジリ貧な気がする。
それでも、ジークムントは根拠なんてないのに、私を死なせない。と、言い切る。
彼がそう言うのなら、そうなのかもしれない。
「……私が死んだら誰よりも先にお前に会いにいくよ」
私にはまだ恋愛感情がどんなものなのかわからない。でも、何かあった時、一番最初に会いたいと思う相手はジークムントだけだとキッパリと言い切れる自信があるから。
多分、それが好きという感情なのだと思う。
「ありがとう。嬉しい」
ジークムントが、私の頬に口付けを落とした。
砕け散ったローズクォーツが、再び光出した。
その光は偽物アルネを追い払うように私たちを包み込んだ。
582
あなたにおすすめの小説
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。
ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。
オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。
「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」
別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。
身勝手な要求にアイラは呆れる。
※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。
もうあなた達を愛する心はありません
佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。
差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。
理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。
セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる