私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

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 さくらが先導する形で歩くことになった。
 
「僕の考えを聞いてくれないか?」

 歩きながらさくらが唐突に話し出した。

「なんだよ」

 こんな時に、だが、断ったところで勝手に話し出しそうなので好きにさせることにした。

「アルネはおそらく魔女になったんだと思う」
「絶望するような奴か?あの女が?」

 チラリと側にいるアルネを見る。
 こいつが絶望するようには見えない。メンタルつよすぎるし。

「私を見ないでくれる?」

 アルネは、居心地悪そうに私に言ってきた。
 私は比べる対象が違うことに気がつく。
 さくらが言っているのは本当のアルネの事だろう。

「ご、ごめん」

 思わず謝ると、アルネは、「私も悪かったし」とバツが悪そうな顔をした。
 
「君の身体は瘴気に対しての耐性がある。だから、アルネはその身体に瘴気を溜め込んだんだ。瘴気でジークムントの心を手に入れるために」

 つまり、ここにいるアルネは、偽物のアルネ(私が勝手に決めた)によって、ジークムントを手に入れるために顎でこき使うために異世界から呼び出したということなのだろうか。
 それで、瘴気を身体に溜め込んで、ジークムントの精神を操って自分のものにするつもりだった。と。
 何という身勝手なのか。

「瘴気で人の心を手に入れて何が楽しいんだよ」

 理解ができない。
 そんなことして幸せになんてなれるはずがないのに。

「……そういう人だったのよ」

 アルネは、偽物アルネに対してそんなことを言う。
 諦めが大きいのかもしれない。

「君を異世界から連れてきたのは、自分の手を汚したくなかったから」
「とことんクズじゃないか!信じられない。お前、アイツ殴っていいからな!」

 ダメだ。偽物アルネは絶対に好きになれないタイプの人間だ。
 話を聞くだけで嫌悪感が強い。

「うん。ありがとう、……ごめんね。本当に」

 アルネはまた泣き出した。
 そりゃ泣きたくなる。彼女は元いた場所に帰れるのだろうか。
 本来なら待っている人がいるはずじゃないのか。
 彼女にとってこの世界はあまりにも孤独なものではないのか。

「お、おい、泣くなよ。私がいるからさ、そんな泣くなよ。見捨てないから一人にしないから」

 私はアルネの背中を摩った。
 元の場所に帰してやれる。と、言い切れないのがとても悔しい。

「っ……」

 空気が重たくなるを感じた。
 これがおそらく直に感じる瘴気というものなのだろう。
 不安なのかアルネが私の手をギュッと握りしめた。
 そのおかげなのか、少しだけ息苦しさを感じなくなった気がする。
 歩みを進めると、黒い影に覆われたジークムントが立っていた。
 虚な表情で目には光がなかった。

「ジーク!」

 名前を呼んでも、ぴくりとも反応しない。
 どうしたらいいんだ。ジークムントを正気に戻さないと、偽物アルネの思うままになってしまう。

「で、どうするつもり?」

 魔女が悪戯っぽく笑った。

「今考えてるところだ!何とかなる!絶対に」

 本当はどうしたらいいのかわからないし、どうしようもない状況だけれど、精一杯の虚勢を張ることしかできなかった。

「君って絶対に絶望しないね」
「あ、当たり前だ!」
「……ヒントをあげる。魔女は、人の想いが込められたものが力の原動力でもある。その人の想いの強さで使える力が出せるんだ。だから、僕たちは対価をもらって願いを叶えることができるんだ」

 さくらは私に魔女になれと言いたいのだうか。
 でも無理だ。私にはなれない。そんな気がするんだ。

「どうせ、私は無力だよ!」
「そうだね。無力だね。でも、強い想いは魔女に対抗できるすべでもあるんだよ」

 何が言いたいのか、ジークムントに「愛している」と、叫べばいいのか。
 愛の力で偽物アルネを倒せと言いたいのか。
 どんな三文文学なんだよ。

「何が言いたいんだよ!ちゃんと説明しろ!」

 私が、さくらに怒るとやれやれと言わんばかりに首を振った。
 
「ヒントはここまで、そういえば、この子を守るための対価をもらってなかったね。この指輪を借りようか。大丈夫、最後まで守ってあげるから」

 さくらは、そう言い残すなりアルネと共に消えてしまった。

「あ、さくら!」

 そして、私は残されてしまった。
 アルネはさくらがついているので、おそらく大丈夫だろう。
 さくらは、約束は守る奴だ。
 もしかしたら、何か考えているのかもしれない。

 私がしないといけないことは、ジークムントの目を覚ましてやることだ。

「ジーク!おい、目を覚ませよ。約束を守れよ」

 ジークムントに呼びかけても反応はなく、無表情でゆっくりと私に近付いてくる。
 大きな手が私の首に伸びた。
 逃げるつもりはない。逃げる意味なんてないから。

「……」

 本当に操られているんだな。
 ジークムントの手がゆっくりと私の首を絞めていく。

「……ジーク、お前が死んだら一番最初に私に会いに来い。殴ってやる。ずっと待ってるから」

 胸のローズクォーツのブローチがほんの少しだけ輝いたのが見えた。

「私は、お前に殺されても絶対に恨みはしない」

 偽物に操られていても、まだちゃんと持っていてくれたんだな……。
 酸欠の頭で考えがまとまらない。
 もう、眠ろう。
 目を閉じようと思った時、それを邪魔するようにローズクォーツが光輝き砕きちった。


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あと10話以内に終わらせたいです……
終わらせたい
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