デネブが死んだ

7

「本当に！？」

　それは、とてもいい知らせだった。
　アークの死の原因でもある難病の治療薬が出来上がったそうだ。
　買えない人には無料で配布するという形で、少しずつ薬が広まるようにと医師にお願いした。

　それと、同時進行でデネブの病状が回復していった。

　アルビレオとデネブの関係も少しずつ元に戻っていくだろうと思っていた。そんなある日だった。

「デネブが死んだ」

　アルビレオは青ざめた顔で、私の屋敷へとやって来た。

「そんな……」

　あまりにも突然すぎる死に、私は言葉を失った。

「違うんだ」

　アルビレオは、デネブが死んだ。と言ったのに違うと言い出した。

「デネブがいなくなったんだ」

「え？」

「デネブが死んだ。と思ってください。とさ。これ、君宛に」

　だから、アルビレオはそんな事を言ったのか、と、変に納得してしまった。

　渡された手紙には色々と記されていた。

　私は、貴女の事を初めて会った時から嫌いでした。

　デネブの手紙の始まりはそうあった。
　身体が弱くて幼少期から辛かった事、私が何もかも持っているくせに、デネブを羨ましい。と言うことが許せなかった。
　アルビレオの心を奪ったことが許せなかった。

　何よりも、自分の病の治療薬の開発費用を出していたのが私であったことが一番精神的に堪えた。とあった。

「これからどうするつもりですか？」

「故郷にでも帰るよ」

　アルビレオのあまりにも冷たい考え方に、私は少なからず腹が立った。
　きっと、デネブは探して欲しいと思っているはずだから。

「デネブさんを探さないの？」

「本人が嫌がっているのに探すことなんてできない」

「夫婦でしょう？」

　夫婦なのに、これじゃあ、まるで逃げているように見える。

「僕たちがそういうふうに見えていたのか？」

　アルビレオの酷く驚いた反応に私は戸惑う。

「デネブさんがそうだって言ったから」

　デネブは、アルビレオの事を夫だと話していた。

「僕は、デネブの兄だよ」

　すとんと腑に落ちたような気がした。二人はどこか似ていたけれど、それは、夫婦だからではなくて兄妹だったからなのか。

「……僕が悪かったんだ」

　アルビレオは、淡々と話し始めた。
　デネブに難病が見つかった時、彼女は先がないならアルビレオの恋人にして欲しい。と、頼んだようだ。

「悔いなくいきたい。と、言われると断る事なんてとてもできなかったんだ」

　デネブのしたことは、自分の命をかけた脅迫のようなものだった。
　私は彼女の裏の一面に驚いていた。
　アルビレオはとても苦悩していたように思える。

「彼女の病が治って、ある日、僕の寝室へとやって来た。ちゃんとした恋人にして欲しい。と」

「……」

「断ったよ。無理だ。と伝えた。その答えがこれだ」

　アルビレオは苦笑いを浮かべていた。

「何が正しかったんだろう」

　アルビレオは、膝から崩れ落ちた。

「泣かないで」

　私はアルビレオを抱きしめた。
　肉親を亡くす悲しみは私も知っている。

　でもいつかデネブは、何もなかったかのような顔をして戻って来そうな気がするのだ。
　アークを亡くした時もそう感じた。

「大丈夫よ。私がいるから、デネブが帰ってくるまで待ちましょう。時間はたくさんあるわ。ねぇ、思い出話をしましょう」

　それは、ただの傷の舐めあいだ。
　わかっている。それでも、一人で耐えるにはあまりにも辛すぎるから、アルビレオと分かち合いたかった。

　











　お読みくださりありがとうございました

　カリフラワーの収穫で疲れていて、なんて書くつもりだったのか忘れてしまいました

　こんな結末になったのは全てカリフラワーのせいです
　私は悪くないです