128 / 202
病院 ②
しおりを挟む
看護師と晴人が血液検査に行った後の、処置室の前の廊下は鎮まりかえっていた。
瑞稀と昴は二人並んで椅子に座る。
時折、看護師や医師が出入りするとき処置室のドアが開く。
中に千景がいると思うと、居ても立ってもいられず、瑞稀はその度に腰を上げ、様子を聞きたい気持ちになるが、今は廊下で千景が適切な処置をしてもらい、無事であることを祈ることしかできない。
今まで千景が怪我をしないよう、細心の注意を払ってきた。
でも千景が大きくなるにつれ、動きも行動範囲も大きく広くなる。
それを制御する方法はなく、ただ本人と周りの大人たちが気をつけるしかなくなってきていた。
僕がもっとちゃんとしていれば……。
家でできる仕事ができていれば、千景とずっと一緒にいられたのにと、何度思ったことか。
でもそんなことをしてしまっては、千景はずっと瑞稀がつくった檻の中で生活しないといけなくなる。
外の世界。
千景だけの世界。
そんな世界との関わりを潰してしまう。
「僕は一体どうすれば……」
不安で押しつぶされそうになる。
「千景……」
祈る思いで、瑞稀は処置室見続ける。
まだ3月末。
日がかけて、廊下の寒さは増してくる。
気をしっかり持とうしていても、どうしても完全には不安は拭いされない。
その不安からなのか、寒さからなのか、瑞稀の体は震え、指先は冷え切っていた。
そんな時、昴が瑞稀の肩に自分が着ていた上着を、ふわっとかけた。
え?
瑞稀が昴の方を見ると、
「震えてたから」
昴が微笑む。
「変な意味はないんだ。ただ、こういう時、誰かそばにいて欲しいかな?って思って」
昴は微笑んだが、その微笑みの中にもどこか不安が見え隠れする。
「千景君なら大丈夫」
そんなこと、どこにも根拠なんてないのに、瑞稀はその言葉に縋りたかった。
朝「いってきます」と元気に保育園に通い、夕方「ママ、おかえりなさい」と出迎えてくれていた日々が当たり前だと思っていたが、それは当たり前のことではないと実感させられる。
僕にできることはないだろうか?
してあげられることはないだろうか?
できれば苦しんでいる千景と変わってあげたい。
それができなければ、自分の血がなくなったとしても、千景に輸血してあげたい。
千景が怪我をした状況を保育士が説明するが、何も頭に入ってこず、瑞稀のかわりに昴が話を聞いた。
1分1秒が永遠のように長い。
静まり返ったい病院の廊下がどこまでも続いている気がする。
処置室と廊下の長椅子の距離は離れていないはずのなのに、時間が経つにつれ、その間の距離はどんどん開いていく。
手を伸ばしても、千景はもう手のとどかにいところに行ってしまいそうで、恐ろしい。
瑞稀と昴は二人並んで椅子に座る。
時折、看護師や医師が出入りするとき処置室のドアが開く。
中に千景がいると思うと、居ても立ってもいられず、瑞稀はその度に腰を上げ、様子を聞きたい気持ちになるが、今は廊下で千景が適切な処置をしてもらい、無事であることを祈ることしかできない。
今まで千景が怪我をしないよう、細心の注意を払ってきた。
でも千景が大きくなるにつれ、動きも行動範囲も大きく広くなる。
それを制御する方法はなく、ただ本人と周りの大人たちが気をつけるしかなくなってきていた。
僕がもっとちゃんとしていれば……。
家でできる仕事ができていれば、千景とずっと一緒にいられたのにと、何度思ったことか。
でもそんなことをしてしまっては、千景はずっと瑞稀がつくった檻の中で生活しないといけなくなる。
外の世界。
千景だけの世界。
そんな世界との関わりを潰してしまう。
「僕は一体どうすれば……」
不安で押しつぶされそうになる。
「千景……」
祈る思いで、瑞稀は処置室見続ける。
まだ3月末。
日がかけて、廊下の寒さは増してくる。
気をしっかり持とうしていても、どうしても完全には不安は拭いされない。
その不安からなのか、寒さからなのか、瑞稀の体は震え、指先は冷え切っていた。
そんな時、昴が瑞稀の肩に自分が着ていた上着を、ふわっとかけた。
え?
瑞稀が昴の方を見ると、
「震えてたから」
昴が微笑む。
「変な意味はないんだ。ただ、こういう時、誰かそばにいて欲しいかな?って思って」
昴は微笑んだが、その微笑みの中にもどこか不安が見え隠れする。
「千景君なら大丈夫」
そんなこと、どこにも根拠なんてないのに、瑞稀はその言葉に縋りたかった。
朝「いってきます」と元気に保育園に通い、夕方「ママ、おかえりなさい」と出迎えてくれていた日々が当たり前だと思っていたが、それは当たり前のことではないと実感させられる。
僕にできることはないだろうか?
してあげられることはないだろうか?
できれば苦しんでいる千景と変わってあげたい。
それができなければ、自分の血がなくなったとしても、千景に輸血してあげたい。
千景が怪我をした状況を保育士が説明するが、何も頭に入ってこず、瑞稀のかわりに昴が話を聞いた。
1分1秒が永遠のように長い。
静まり返ったい病院の廊下がどこまでも続いている気がする。
処置室と廊下の長椅子の距離は離れていないはずのなのに、時間が経つにつれ、その間の距離はどんどん開いていく。
手を伸ばしても、千景はもう手のとどかにいところに行ってしまいそうで、恐ろしい。
49
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで
るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。
「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」
記憶を失ったベータの少年・ユリス。
彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。
封じられた記憶。
拭いきれない心の傷。
噛み合わない言葉と、すれ違う想い。
謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、
ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。
触れたいのに、触れられない。
心を開けば、過去が崩れてしまう。
それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。
――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。
過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。
許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。
孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。
これは、ふたりの愛の物語であると同時に、
誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。
運命に抗うのは、誰か。
未来を選ぶのは、誰なのか。
優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる