【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜

葉月

文字の大きさ
8 / 105

買い物 ②

しおりを挟む

「僕はあっちの通りを探すから、君たちは向こうを探して」
 路地の方を指差すと、
「お坊ちゃまを1人にできませんし、オメガであるお坊ちゃまも流行病にかかってしまうかもしれません。ミカエル様とサイモン様は私達で探しますので、お坊ちゃまは馬車でお待ちください」
「でも……」
「お坊ちゃまのお体を守ることも、私たちの役目です」
 使用人達は僕に付き添いを1人つけ馬車に乗せると、ミカとサイモンを探しに行った。

 どうか早く見つかりますように。
 胸に手を当て願う。
 太陽が傾きかけ、夕日で街がオレンジ色になった頃、ミカとサイモンが馬車に戻ってきた。

「ミカ!」
 馬車に乗り込んできたミカはをきつく抱きしめる。
 よかった。顔色もよくて咳もしていない。
「ミカ、気分悪くなったりしてない?」
「大丈夫だよ。でもレオもみんなも、僕に気分は悪くないかって聞くし、何かあったの?」 
「寒くなってきたから、ちょっと心配になっただけだよ」
 そう僕は微笑んだ。

 ミカには心配させたくなくて、流行病のことは話さない。
 サイモンをちらりと見ると、サイモンは小さく頷く。
 サイモンは使用人から聞いて、知ってるんだ。

「ねぇ、僕、今日は絶好調だから、もう少し違う場所に行きたいな。例えば街が見える丘の上とか」
 街が見える丘の上。
 僕とサイモンが行った、あの丘の上。
 ミカは僕とサイモンが、そこに行ったことを知っているんだ。
 ミカはきっと自分だけ仲間はずれにされたことが、悲しかったんだ。
 可愛くミカにお願いされて本当は連れて行ってあげたいけど、これ以上、ミカを連れ回せることはできない。

「でも今日はもう遅いから帰ろう」
 僕がそういうが、ミカは頬を膨らませ唇を尖らせ「嫌だ!」とそっぽを向く。
「ごめんねミカ。本当は僕も連れて行ってあげたいんだ。でも今はだめ。もし無理して体調を崩してしまったら大変なことになってしまう」
「そんなこと言って、本当はサイモンと2人きりで行ったところに、僕を連れて行きたくないだ!」
 ミカの目に涙が浮かぶ。

「そんなこと思ってない!本当はミカとも一緒に行きたいよ。それでも、それでも、もう家帰らないと」
「嫌だ、帰らない!」
 イヤイヤとミカは頭をブンブン振る。
 こうなるとミカは意地を張ってしまって、どうしようもなくなる。
「お願いだよミカ……」
「……」
 返事をする代わりに、ミカはそっぽを向いたまま。
 どうしよう……。
 チラリとサイモンを見ると、
「今日は遅いから行けないけど、明日の朝、俺が出発する前に連れて行ってあげるよ」
 サイモンがミカの頭を撫でる。

「あそこは馬車では行きずらいから、俺の馬に乗せてあげるよ。だから今日はもう帰ろう」
「約束だからね」
 ミカが小指を差し出すと、
「ああ約束」
 サイモンはその小指に自分の小指を絡ませた。

 どうしよう。
 2人を見ていると胸が苦して、涙が溢れそう。
 僕の初恋がもうすぐ終わるカウントダウンが近づいてくるたび、サイモンとミカの笑顔を見るのが辛い。
 大丈夫。大丈夫。きっと僕は大丈夫。
 この恋が終わっても、きっと次に進んでいける。
 早く誕生日がきて欲しい。
 こんな苦しい気持ちは早くなくなって欲しい。
 永遠に誕生日なんてこなければいい。
 そうすればサイモンとずっといられる。
 誕生日なんて……。
 誕生日なんて……。
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

処理中です...