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絶望 ③
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エマ!
そこには懐かしいエマがいた。
「覚えていらっしゃいますか?オリバー家でレオナルド様の侍女をさせていただいておりました、エマでございます」
覚えている!もちろん覚えている!僕の味方になってくれたエマ。
僕が辛い時、表に立って僕を守ってくれたエマ。
ー会いたかったー
そう伝えたいのに、口がぱくぱく動くだけで言葉が出ない。
悔しい。言葉が出ない……。
でもどうしてここに?
ルーカス様の顔を見上げると、
「これからはレオナルド専属の侍女だ。何かあればエマに言えばいい」
僕の手をルーカス様が握る。
ーありがとうございます!ー
お礼を言いたかったが、また口がパクパク動くだけ。
そんな僕の姿を見てルーカス様は目を見開き、そして安心したように微笑まれた。
「これからはエマを困らせるほど、わがままを言うんだぞ」
ルーカス様は僕の頭を、ポンポンと優しく叩き部屋を出られた。
部屋には僕とエマの二人だけ。
懐かしさと、こんな姿を見られて恥ずかしさとが同時に僕を襲う。
エマは僕のこと幻滅していないだろうか?
チラリとエマを見ると、エマは部屋の中を見渡し腕まくりをしていた。
なにをするの?
僕が首をかしげると、
「掃除を致します」
と部屋の窓を開けていく。
「埃がたちますので、これで口を押さえていてください」
清潔なハンカチが手渡された。
清潔なハンカチなんていつぶりだろう……。
僕は『うん』と頷き、ハンカチを口に当てる。
「それでは用具を取って参ります」
元気に部屋を出ていくエマを、僕は笑顔で見送った。
有能なエマは、掃除の手際もいい。
僕がベッドで座って無駄のないエマの動きを見ていると、「ベッドメイキングをします」と容赦なく僕をベッドから追い出し、清潔なシーツに変えてくれる。
青い花が枯れてしまってからは何も飾られていなかった花瓶には、溢れんばかりの花が生けられ、櫛で僕の長い髪をとかしてくれる。
「私がいない間にレオナルド様は、髪のお手入れをサボられましたね」
エマは軽口を叩く。
ーだってそんなことしても仕方ないじゃないかー
心の中で言うと、
「またそんな言い訳を。レオナルド様の髪は絹のように美しいのですから、今日から私がお手入れをしていきますからね」
僕の気持ちがわかったようにエマは話す。
エマが来てくれて、部屋の中の空気が変わる。
エマ、来てくれてありがとう。
でも、エマが僕のところに来たということは、どうしても気になることがある。
「宮廷に着き、レオナルド様のお部屋の前に着くまで、何も聞かされていませんでした。だからご安心ください。サイモン様は何があったかはご存知ありません。……、レオナルド様、お一人でよく頑張られました。これからはエマがおそばにおります」
エマはとかしてくれていた櫛の手を止め、僕を抱きしめてくれた。
僕はエマのふくよかな胸の中に、すっぽり入ってしまう。
暖かくて優しい胸の中。
もし赤ちゃんが産まれていたら、赤ちゃんも僕の腕の中でそう思ったのかな?
僕の赤ちゃん。
僕達の赤ちゃん……。
「……、ぅっ……」
何も発せられなかった僕の口から、音が出た。
「ぅっ…、うっ…、ぅぅ……」
「泣いてください。エマの胸の中で泣いてください」
服が僕の涙で色が変わっていっても、それでもエマは僕を抱きしめ続けてくれた。
そこには懐かしいエマがいた。
「覚えていらっしゃいますか?オリバー家でレオナルド様の侍女をさせていただいておりました、エマでございます」
覚えている!もちろん覚えている!僕の味方になってくれたエマ。
僕が辛い時、表に立って僕を守ってくれたエマ。
ー会いたかったー
そう伝えたいのに、口がぱくぱく動くだけで言葉が出ない。
悔しい。言葉が出ない……。
でもどうしてここに?
ルーカス様の顔を見上げると、
「これからはレオナルド専属の侍女だ。何かあればエマに言えばいい」
僕の手をルーカス様が握る。
ーありがとうございます!ー
お礼を言いたかったが、また口がパクパク動くだけ。
そんな僕の姿を見てルーカス様は目を見開き、そして安心したように微笑まれた。
「これからはエマを困らせるほど、わがままを言うんだぞ」
ルーカス様は僕の頭を、ポンポンと優しく叩き部屋を出られた。
部屋には僕とエマの二人だけ。
懐かしさと、こんな姿を見られて恥ずかしさとが同時に僕を襲う。
エマは僕のこと幻滅していないだろうか?
チラリとエマを見ると、エマは部屋の中を見渡し腕まくりをしていた。
なにをするの?
僕が首をかしげると、
「掃除を致します」
と部屋の窓を開けていく。
「埃がたちますので、これで口を押さえていてください」
清潔なハンカチが手渡された。
清潔なハンカチなんていつぶりだろう……。
僕は『うん』と頷き、ハンカチを口に当てる。
「それでは用具を取って参ります」
元気に部屋を出ていくエマを、僕は笑顔で見送った。
有能なエマは、掃除の手際もいい。
僕がベッドで座って無駄のないエマの動きを見ていると、「ベッドメイキングをします」と容赦なく僕をベッドから追い出し、清潔なシーツに変えてくれる。
青い花が枯れてしまってからは何も飾られていなかった花瓶には、溢れんばかりの花が生けられ、櫛で僕の長い髪をとかしてくれる。
「私がいない間にレオナルド様は、髪のお手入れをサボられましたね」
エマは軽口を叩く。
ーだってそんなことしても仕方ないじゃないかー
心の中で言うと、
「またそんな言い訳を。レオナルド様の髪は絹のように美しいのですから、今日から私がお手入れをしていきますからね」
僕の気持ちがわかったようにエマは話す。
エマが来てくれて、部屋の中の空気が変わる。
エマ、来てくれてありがとう。
でも、エマが僕のところに来たということは、どうしても気になることがある。
「宮廷に着き、レオナルド様のお部屋の前に着くまで、何も聞かされていませんでした。だからご安心ください。サイモン様は何があったかはご存知ありません。……、レオナルド様、お一人でよく頑張られました。これからはエマがおそばにおります」
エマはとかしてくれていた櫛の手を止め、僕を抱きしめてくれた。
僕はエマのふくよかな胸の中に、すっぽり入ってしまう。
暖かくて優しい胸の中。
もし赤ちゃんが産まれていたら、赤ちゃんも僕の腕の中でそう思ったのかな?
僕の赤ちゃん。
僕達の赤ちゃん……。
「……、ぅっ……」
何も発せられなかった僕の口から、音が出た。
「ぅっ…、うっ…、ぅぅ……」
「泣いてください。エマの胸の中で泣いてください」
服が僕の涙で色が変わっていっても、それでもエマは僕を抱きしめ続けてくれた。
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