16 / 67
16.常識を持たない
しおりを挟む
「あの、これからのことも聞いていいですか?」
「構わないが、何が聞きたい?」
「明日もあのウィングタイガー、でしたっけ? あの子に乗るのか、とか、そもそも地理が全く分かっていないので、どこをどう移動してるのか分からなくて、……地図があれば、見せてもらえたらな、って」
指折り数えながら疑問を口にするユーリに、フィルはこれまで「違う世界から来たこと」を隠していた彼女の賢さを褒め称えたくなった。
(なるほど、常識が違うのは確かに危ういな。これでは良からぬ輩に目をつけられる)
フィルはユーリに許可を得てから投影の魔術を使った。小さな机の上に少し浮かせるように、フィルの記憶にある空からの視点を映像化したのだ。
「えっ! 立体映像? すごい!」
目を輝かせて喜ぶユーリに気を良くしながら、フィルはシュルツの王都の場所に赤い球を浮かせる。
「ここがユーリと出会った場所、シュルツという国の王都だ」
「はい」
映像を食い入るように見るユーリの前で、今度は昨日泊まった国境の町の上と、現在位置、レンタルしているウィングタイガーを返却する予定の街の上に黄色い三角錐を浮かせながら説明を続ける。
「明日の午前中はこの町で少し買い物をして。昼頃に出発するつもりだ。もう一日はこの国で泊まることになるだろうが、明後日には東側の国境の町に到着するだろう。そこで騎獣は返却する」
「はい」
「それで、ここから先はうちの国だから、俺の相棒を呼ぶ予定だ」
「相棒……ですか?」
「あぁ、俺の騎獣だ。ウィングタイガーに負けず劣らずの体格だから、二人で乗っても問題ない。どういう種類の騎獣かは、見てのお楽しみだ」
「分かりました。楽しみにしておきます」
騎獣の正体については食い下がろうとしないユーリだったが、フィルが投影した地図には食いついているようで、じっと凝視している。
「これ、空から見た地上ですよね。こういう魔術って普通にあるんですか?」
「記憶を可視化させるものは、そう難しくない。あと、俺のように空を飛べる種族は、国境をしっかり覚えておく必要があるから、こうしてはっきり明瞭に投影できるんだ」
フィルが指で空間をなぞる。すると、赤い線で映像の中の地上が区切られていく。
「これが国境線。うっかり越えると国家間の問題になるから、しっかり叩き込まれた。――――あと、ここからが大事なことなんだが」
「はい」
「一般的に地図は流通していない。街道やおおまかな位置関係の分かるものぐらいは売られているのかもしれないが、詳細な地図は軍事的に重要なものだから、むしろ規制されている」
ユーリは目を見開いて驚いたが、ふ、と自分の知識の中の何かを見つけたのだろう。半目になって「あー、シーボルトか……」と呟いた。
「あれ、でもそうすると、こうしてフィルさんが詳細に覚えていることも、問題になってしまうんじゃないですか?」
「大侵攻の対処のために特例で上空を通過させてもらったときの記憶だ。自国でも隣接国のおおまかな地理は頭に叩き込まれていたから、それとすり合わせて覚えるのは比較的簡単だったな」
「……あの、もしかしてフィルさんて、外交官とか、そういう偉い地位の人だったりします?」
今更と言えば今更な質問だったが、そういえば自分がユーリのことについて尋ねるばかりで、逆に尋ねられたのは初めてだったとフィルは気がついた。
「英傑がどうの、とは言われてたので、魔物の大侵攻で活躍した人なのかな、とは思っていたんですけど、そういえばちゃんと聞いたことありませんでしたよね」
「……それは、地位や功績で見られたくなかったのもあって、今までちゃんと名乗ってはいなかった。ユーリが尋ねるのなら、改めて名乗ろう。俺の名前はフィル・リングルス。俺のような竜人が大半を占めるシドレンという国で軍務についていた」
「軍人さんだったんですね。それなら英傑という話も納得です」
「外交を担っているのは、むしろ次兄だな。長兄を補佐するためにと軍に籍を置くことにしたが、思った以上に性に合っていたようだ」
「……え、待ってください。お兄さんが二人、いえ、一番上のお兄さんを補佐するというのは」
「父も健在なので代替わりはまだ先だが、国王という重責を長兄一人に背負わせるわけにはいかないだろう?」
フィルの決定的な言葉に、ユーリの目は限界まで開かれた。今にも黒い瞳がこぼれおちそうだな、という感想を、フィルはそっと飲み込む。
「フィルさん、もしかして、王子様だったんですか!?」
その大声に、こっそり遮音の魔術を掛けておいてよかったな、とフィルは場違いなことを思った。
「構わないが、何が聞きたい?」
「明日もあのウィングタイガー、でしたっけ? あの子に乗るのか、とか、そもそも地理が全く分かっていないので、どこをどう移動してるのか分からなくて、……地図があれば、見せてもらえたらな、って」
指折り数えながら疑問を口にするユーリに、フィルはこれまで「違う世界から来たこと」を隠していた彼女の賢さを褒め称えたくなった。
(なるほど、常識が違うのは確かに危ういな。これでは良からぬ輩に目をつけられる)
フィルはユーリに許可を得てから投影の魔術を使った。小さな机の上に少し浮かせるように、フィルの記憶にある空からの視点を映像化したのだ。
「えっ! 立体映像? すごい!」
目を輝かせて喜ぶユーリに気を良くしながら、フィルはシュルツの王都の場所に赤い球を浮かせる。
「ここがユーリと出会った場所、シュルツという国の王都だ」
「はい」
映像を食い入るように見るユーリの前で、今度は昨日泊まった国境の町の上と、現在位置、レンタルしているウィングタイガーを返却する予定の街の上に黄色い三角錐を浮かせながら説明を続ける。
「明日の午前中はこの町で少し買い物をして。昼頃に出発するつもりだ。もう一日はこの国で泊まることになるだろうが、明後日には東側の国境の町に到着するだろう。そこで騎獣は返却する」
「はい」
「それで、ここから先はうちの国だから、俺の相棒を呼ぶ予定だ」
「相棒……ですか?」
「あぁ、俺の騎獣だ。ウィングタイガーに負けず劣らずの体格だから、二人で乗っても問題ない。どういう種類の騎獣かは、見てのお楽しみだ」
「分かりました。楽しみにしておきます」
騎獣の正体については食い下がろうとしないユーリだったが、フィルが投影した地図には食いついているようで、じっと凝視している。
「これ、空から見た地上ですよね。こういう魔術って普通にあるんですか?」
「記憶を可視化させるものは、そう難しくない。あと、俺のように空を飛べる種族は、国境をしっかり覚えておく必要があるから、こうしてはっきり明瞭に投影できるんだ」
フィルが指で空間をなぞる。すると、赤い線で映像の中の地上が区切られていく。
「これが国境線。うっかり越えると国家間の問題になるから、しっかり叩き込まれた。――――あと、ここからが大事なことなんだが」
「はい」
「一般的に地図は流通していない。街道やおおまかな位置関係の分かるものぐらいは売られているのかもしれないが、詳細な地図は軍事的に重要なものだから、むしろ規制されている」
ユーリは目を見開いて驚いたが、ふ、と自分の知識の中の何かを見つけたのだろう。半目になって「あー、シーボルトか……」と呟いた。
「あれ、でもそうすると、こうしてフィルさんが詳細に覚えていることも、問題になってしまうんじゃないですか?」
「大侵攻の対処のために特例で上空を通過させてもらったときの記憶だ。自国でも隣接国のおおまかな地理は頭に叩き込まれていたから、それとすり合わせて覚えるのは比較的簡単だったな」
「……あの、もしかしてフィルさんて、外交官とか、そういう偉い地位の人だったりします?」
今更と言えば今更な質問だったが、そういえば自分がユーリのことについて尋ねるばかりで、逆に尋ねられたのは初めてだったとフィルは気がついた。
「英傑がどうの、とは言われてたので、魔物の大侵攻で活躍した人なのかな、とは思っていたんですけど、そういえばちゃんと聞いたことありませんでしたよね」
「……それは、地位や功績で見られたくなかったのもあって、今までちゃんと名乗ってはいなかった。ユーリが尋ねるのなら、改めて名乗ろう。俺の名前はフィル・リングルス。俺のような竜人が大半を占めるシドレンという国で軍務についていた」
「軍人さんだったんですね。それなら英傑という話も納得です」
「外交を担っているのは、むしろ次兄だな。長兄を補佐するためにと軍に籍を置くことにしたが、思った以上に性に合っていたようだ」
「……え、待ってください。お兄さんが二人、いえ、一番上のお兄さんを補佐するというのは」
「父も健在なので代替わりはまだ先だが、国王という重責を長兄一人に背負わせるわけにはいかないだろう?」
フィルの決定的な言葉に、ユーリの目は限界まで開かれた。今にも黒い瞳がこぼれおちそうだな、という感想を、フィルはそっと飲み込む。
「フィルさん、もしかして、王子様だったんですか!?」
その大声に、こっそり遮音の魔術を掛けておいてよかったな、とフィルは場違いなことを思った。
34
あなたにおすすめの小説
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する
藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。
彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。
そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。
フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。
だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。
柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。
三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。
公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる