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17.不意の遭遇
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「うぅ……、ここまでありがとうございました」
ユーリがウィングタイガーの耳の辺りを強く撫でながら感謝の言葉を告げるのを、フィルは一歩離れたところから眺めていた。
初日こそ自分の何倍もある巨体に怯えの色を見せていたユーリだったが、どうやら知性ある者なら騎獣とも言葉を交わすことができるようで、ウィングタイガーとも打ち解けてしまったのだ。どちらかというと、その毛並みに癒されていたようだったが。
「ユーリ、そろそろいいだろうか」
「あ、はい、フィルさん」
フィルが王子だと知られた直後は、「フィル殿下」「フィル様」と呼んで、せっかく少しは縮まった気がした距離が余計に開いてしまって泣きたくなったが、何度も頼みこんだ結果、再び「さん」付けに戻してもらえた。ユーリは畏れ多いと何度も言ったが、懇願するフィルに押し負けた形だ。
店を出て少し歩けば国境の町を出る。そこからはすぐにフィルの国――シドレンへ入ることができるのだ。シドレン側の国境の町は丘を一つ越えた先だが、国境線まで彼の相棒は迎えに来ているはずだ。
「国境の町から歩くのって、なんだか不思議です」
「そうか?」
「だって、商売している人の行き来とかを考えたら、国としては出入りする人のチェックとか、通行税で稼いだりとか、そういう人を置くことで大きな街に発展していったりしませんか?」
「ユーリの言う通りに発展している街もあるが、ここは滅多に往来がない上に、そもそも国同士の関係も微妙だからな。摩擦を避けるために物理的な距離を置いているんだ」
なるほど、と素直に頷くユーリと手を繋ぎながら、フィルは馬車が一台通れるかという狭い道をゆっくりと歩く。ユーリを疲れさせたくはないフィルにしてみれば、国境線になっている丘の頂きまで彼女を抱き上げて運びたいところなのだが、そういった好意を「申し訳ないから」の一言で拒絶するユーリの自主性を尊重している。もちろん、疲れた素振りを見せればいつだって運ぶ気満々である。
「ユーリ」
「はい」
「ちょっと厄介な魔物がいる。ここで待っていてくれるか」
「え!? 魔物がいるんですか!」
「俺がいるから襲っては来ないだろうが、ここまで街道近くをうろつかれると、今後被害が出る可能性がある。早めに駆除しておきたい」
往来が少ないといっても、ゼロというわけではない。魔物の大侵攻が収束し、各国がどう動いていくのか分からない以上、国境のしかも相手国側であっても、危険な魔物は駆除しておくべきだろう。
「わ……かりました。でも、大丈夫ですよね? 怪我とか気をつけてくださいね」
「その言葉だけで十分だ。ここに簡単な防壁を張っておくから、待っていてくれ」
彼女が心配してくれるだけで、問題の魔物が潜んでいる林全てを焼き尽くせそうな程に力が漲ってきたが、あまり荒事に慣れていなさそうなユーリを不安にさせるわけにはいかないと思いとどまる。たぶん、こういう気持ちの働きをさせるのが番なのだろう。
「――トライホーンベアか。もう少し山奥にいる種のはずだが……同族との縄張り争いに負けた個体か?」
藪の中に潜むベアに向けて、フィルは足下から拾った小石を投げつける。小石をはたき落としたベアは、格上であるはずのフィルに対して、後ろ足で立ち上がり、威嚇をしてきた。
「ベア種は本当に好戦的だな」
大侵攻の折りにも、ベア種を挑発して同士討ちにしていくらか負担を減らしたことを思い出し、フィルは苦笑いする。後回しにせず、ここで狩っておく判断は妥当なものだ、と。
「さて、ユーリに心配をかけないように、とっとと終わらせるとしよう」
ユーリがウィングタイガーの耳の辺りを強く撫でながら感謝の言葉を告げるのを、フィルは一歩離れたところから眺めていた。
初日こそ自分の何倍もある巨体に怯えの色を見せていたユーリだったが、どうやら知性ある者なら騎獣とも言葉を交わすことができるようで、ウィングタイガーとも打ち解けてしまったのだ。どちらかというと、その毛並みに癒されていたようだったが。
「ユーリ、そろそろいいだろうか」
「あ、はい、フィルさん」
フィルが王子だと知られた直後は、「フィル殿下」「フィル様」と呼んで、せっかく少しは縮まった気がした距離が余計に開いてしまって泣きたくなったが、何度も頼みこんだ結果、再び「さん」付けに戻してもらえた。ユーリは畏れ多いと何度も言ったが、懇願するフィルに押し負けた形だ。
店を出て少し歩けば国境の町を出る。そこからはすぐにフィルの国――シドレンへ入ることができるのだ。シドレン側の国境の町は丘を一つ越えた先だが、国境線まで彼の相棒は迎えに来ているはずだ。
「国境の町から歩くのって、なんだか不思議です」
「そうか?」
「だって、商売している人の行き来とかを考えたら、国としては出入りする人のチェックとか、通行税で稼いだりとか、そういう人を置くことで大きな街に発展していったりしませんか?」
「ユーリの言う通りに発展している街もあるが、ここは滅多に往来がない上に、そもそも国同士の関係も微妙だからな。摩擦を避けるために物理的な距離を置いているんだ」
なるほど、と素直に頷くユーリと手を繋ぎながら、フィルは馬車が一台通れるかという狭い道をゆっくりと歩く。ユーリを疲れさせたくはないフィルにしてみれば、国境線になっている丘の頂きまで彼女を抱き上げて運びたいところなのだが、そういった好意を「申し訳ないから」の一言で拒絶するユーリの自主性を尊重している。もちろん、疲れた素振りを見せればいつだって運ぶ気満々である。
「ユーリ」
「はい」
「ちょっと厄介な魔物がいる。ここで待っていてくれるか」
「え!? 魔物がいるんですか!」
「俺がいるから襲っては来ないだろうが、ここまで街道近くをうろつかれると、今後被害が出る可能性がある。早めに駆除しておきたい」
往来が少ないといっても、ゼロというわけではない。魔物の大侵攻が収束し、各国がどう動いていくのか分からない以上、国境のしかも相手国側であっても、危険な魔物は駆除しておくべきだろう。
「わ……かりました。でも、大丈夫ですよね? 怪我とか気をつけてくださいね」
「その言葉だけで十分だ。ここに簡単な防壁を張っておくから、待っていてくれ」
彼女が心配してくれるだけで、問題の魔物が潜んでいる林全てを焼き尽くせそうな程に力が漲ってきたが、あまり荒事に慣れていなさそうなユーリを不安にさせるわけにはいかないと思いとどまる。たぶん、こういう気持ちの働きをさせるのが番なのだろう。
「――トライホーンベアか。もう少し山奥にいる種のはずだが……同族との縄張り争いに負けた個体か?」
藪の中に潜むベアに向けて、フィルは足下から拾った小石を投げつける。小石をはたき落としたベアは、格上であるはずのフィルに対して、後ろ足で立ち上がり、威嚇をしてきた。
「ベア種は本当に好戦的だな」
大侵攻の折りにも、ベア種を挑発して同士討ちにしていくらか負担を減らしたことを思い出し、フィルは苦笑いする。後回しにせず、ここで狩っておく判断は妥当なものだ、と。
「さて、ユーリに心配をかけないように、とっとと終わらせるとしよう」
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