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61.諦めが悪い
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目を開けた時、ユーリは「これ、夢かな」と疑った。
昨晩はいつも通り、ふかふかのベッドで寝たはずだ。なのに、どうだろう。視界に広がるのは薄ら明るい洞窟だ。どういう鉱石の作用か分からないが、壁も天井も床も斑にぼんやりと光を放っている。その幻想的なようすに声を失って見惚れてしまった。
「ようやくお目覚め? アンタ、ちょっと寝坊が過ぎるわよ」
腰のあたりをつつかれて、声の主かと振り向いた所に、頬杖をついてこちらを眺めるイングリッドと目が合った。
「それは、疲れることが多いからでしょう。どなたかが戻って来るかもしれないとフィルさんも言ってましたし」
言外にまだ警戒されてることをほのめかしたところ、鼻で笑われる。結局、こうなっているじゃないか、と。
「ところで……、結局、あなたはどこのどなたなんでしょうか。結局、前回も自己紹介をしてもらえていないのですけど」
「アンタもめんどいわね。まぁ、いいわ。あたしはイングリッド・フォレスター。それでアンタは?」
「ユーリ、です」
「家名は? それにその名前は真名じゃないでしょ」
「……」
ユーリは躊躇するように視線を彷徨わせた。ここがどこなのか分からない以上、前回のように助けを待って時間稼ぎをするのは意味がない。
「それが、分からないんです」
「はァ?」
「フィルさんと会う前の記憶がなくて……」
もちろん口から出任せ嘘八百だ。あれこれ追究されてその都度、嘘とごまかしで切り抜けるよりは、1つ大きな嘘をついてしまおうと決めたのだ。……エクセが。
「マジで? うーん、無理矢理記憶をこじ開けたいとこだけど、フィルの守護を破るの面倒だし。あの気持ち悪い魔力の流れのことをもっと知りたかったんだけど……って、あれ?」
じっとユーリを見つめたイングリッドは、突然、ユーリの頭を両手で鷲掴みした。
「は? ちょっと意味わかんないんだけど!?」
「え、えっと、何が、ですか?」
「あのぐるぐるの魔力どこいっちゃったわけ? っていうか魔力すっからかんじゃん!」
ぐいぐいと頭を揺らされ、そんなことされても何も出ないし、と目を回しながらユーリは何とか声を出す。
「そんな、こと、言われましても、私、魔術なんて、使ったこと、ないので……っ」
「そういえば月齢で魔力量が変わる種族がいたって記述があったわね。それともこの場所の問題かしら? 保有量が極小なら周囲の魔蛍石に吸われてゼロになってる可能性も否定できないし……」
ぶつぶつとああでもない、こうでもない、と仮説を立てていたイングリッドだったが、「ま、いいわ」とユーリの頭を解放した。
「それで、番と離された気分はどう?」
「どう……と言われても、私は番とかよく分からないので」
「あー、そうだった。観察するならフィルの方じゃないと意味ないんだっけ。でもフィルは防御がゴリッゴリに硬いからなぁ」
ぶつぶつとボヤきながら、イングリッドは懐から薄い金属の板を取り出した。不思議なことに、それは地面に置かれた途端、浅い盆に変わっていた。イングリッドの手のひらから湧いた水で満たされると、それはゆるゆると映像を映し始めた。詠唱もなく目の前で次々と繰り出される魔術に、ユーリは思わず見入ってしまっていた。
(五英傑とか魔女とか、色々と肩書きは聞いていたけど、呼吸をするように魔法を使うなぁ)
これで性格がまともなら、是非ともお近づきになりたいところだったが、既に本性は分かっているのでそんな未来はない。
「あれ、フィルさん……?」
「あははっ、あんな情けない顔しちゃって。闇雲に探したところで、こんな場所だし見つかるわけもないけどね」
心底楽しそうに笑うイングリッドに嫌悪感を抱いたが、それを表情に出さないように努めながら、ユーリは自分の足首を見つめた。
「あ、それに『追跡』が仕込まれてても無駄だよ。これだけの魔蛍石の鉱脈だからね」
「その『マケイセキ』ってなんですか?」
「なんだ、そんなことも知らないの? あっちこっちの壁で光ってる石だよ。魔力に反応して光る性質があるから、今はあたしの魔力に反応しちゃって薄明るいんだよ。探知魔術で探そうとしても、この鉱脈の中は魔術が乱反射しちゃうから無理なんだー」
遠くの映像を映す水面を覗き込みながら、イングリッドはあちこちを映しては「特に目立った動きはないね」と頷いた。
「でさー、番ちゃん。率直なところを聞きたいんだけど、ラカダ文明って聞いたことある?」
「ラカダ……? いえ、不勉強なもので……?」
「ふぅん? まぁ嘘は言ってなさそーかな。でも【クレットのとこで働いてた女性って、番ちゃんのことでしょ?】」
「? 【クレット殿下のところでですか?】」
あまりに自然に言葉が続いたので、ユーリは自らの失態に気付くのが遅れた。途中から全く別の言語で話しかけられていたというのに。
「うん、やっぱり思った通りだね。あの『あがり症のあなたに教える3つのこと』を翻訳したのって、アンタでしょ」
「っ!」
ようやく失態に気付いたユーリが自分の口元を押さえても、もう遅かった。
「城で働いてた人から聞いた話をまとめて、推理してみたけど、アタリだったね」
まずい、とユーリの首筋を冷や汗がつたう。そこまで推測しているということは、当然――――
「ねぇ、アンタさ、彷徨い人でしょ」
そこまで予測を立てられている、ということだった。
昨晩はいつも通り、ふかふかのベッドで寝たはずだ。なのに、どうだろう。視界に広がるのは薄ら明るい洞窟だ。どういう鉱石の作用か分からないが、壁も天井も床も斑にぼんやりと光を放っている。その幻想的なようすに声を失って見惚れてしまった。
「ようやくお目覚め? アンタ、ちょっと寝坊が過ぎるわよ」
腰のあたりをつつかれて、声の主かと振り向いた所に、頬杖をついてこちらを眺めるイングリッドと目が合った。
「それは、疲れることが多いからでしょう。どなたかが戻って来るかもしれないとフィルさんも言ってましたし」
言外にまだ警戒されてることをほのめかしたところ、鼻で笑われる。結局、こうなっているじゃないか、と。
「ところで……、結局、あなたはどこのどなたなんでしょうか。結局、前回も自己紹介をしてもらえていないのですけど」
「アンタもめんどいわね。まぁ、いいわ。あたしはイングリッド・フォレスター。それでアンタは?」
「ユーリ、です」
「家名は? それにその名前は真名じゃないでしょ」
「……」
ユーリは躊躇するように視線を彷徨わせた。ここがどこなのか分からない以上、前回のように助けを待って時間稼ぎをするのは意味がない。
「それが、分からないんです」
「はァ?」
「フィルさんと会う前の記憶がなくて……」
もちろん口から出任せ嘘八百だ。あれこれ追究されてその都度、嘘とごまかしで切り抜けるよりは、1つ大きな嘘をついてしまおうと決めたのだ。……エクセが。
「マジで? うーん、無理矢理記憶をこじ開けたいとこだけど、フィルの守護を破るの面倒だし。あの気持ち悪い魔力の流れのことをもっと知りたかったんだけど……って、あれ?」
じっとユーリを見つめたイングリッドは、突然、ユーリの頭を両手で鷲掴みした。
「は? ちょっと意味わかんないんだけど!?」
「え、えっと、何が、ですか?」
「あのぐるぐるの魔力どこいっちゃったわけ? っていうか魔力すっからかんじゃん!」
ぐいぐいと頭を揺らされ、そんなことされても何も出ないし、と目を回しながらユーリは何とか声を出す。
「そんな、こと、言われましても、私、魔術なんて、使ったこと、ないので……っ」
「そういえば月齢で魔力量が変わる種族がいたって記述があったわね。それともこの場所の問題かしら? 保有量が極小なら周囲の魔蛍石に吸われてゼロになってる可能性も否定できないし……」
ぶつぶつとああでもない、こうでもない、と仮説を立てていたイングリッドだったが、「ま、いいわ」とユーリの頭を解放した。
「それで、番と離された気分はどう?」
「どう……と言われても、私は番とかよく分からないので」
「あー、そうだった。観察するならフィルの方じゃないと意味ないんだっけ。でもフィルは防御がゴリッゴリに硬いからなぁ」
ぶつぶつとボヤきながら、イングリッドは懐から薄い金属の板を取り出した。不思議なことに、それは地面に置かれた途端、浅い盆に変わっていた。イングリッドの手のひらから湧いた水で満たされると、それはゆるゆると映像を映し始めた。詠唱もなく目の前で次々と繰り出される魔術に、ユーリは思わず見入ってしまっていた。
(五英傑とか魔女とか、色々と肩書きは聞いていたけど、呼吸をするように魔法を使うなぁ)
これで性格がまともなら、是非ともお近づきになりたいところだったが、既に本性は分かっているのでそんな未来はない。
「あれ、フィルさん……?」
「あははっ、あんな情けない顔しちゃって。闇雲に探したところで、こんな場所だし見つかるわけもないけどね」
心底楽しそうに笑うイングリッドに嫌悪感を抱いたが、それを表情に出さないように努めながら、ユーリは自分の足首を見つめた。
「あ、それに『追跡』が仕込まれてても無駄だよ。これだけの魔蛍石の鉱脈だからね」
「その『マケイセキ』ってなんですか?」
「なんだ、そんなことも知らないの? あっちこっちの壁で光ってる石だよ。魔力に反応して光る性質があるから、今はあたしの魔力に反応しちゃって薄明るいんだよ。探知魔術で探そうとしても、この鉱脈の中は魔術が乱反射しちゃうから無理なんだー」
遠くの映像を映す水面を覗き込みながら、イングリッドはあちこちを映しては「特に目立った動きはないね」と頷いた。
「でさー、番ちゃん。率直なところを聞きたいんだけど、ラカダ文明って聞いたことある?」
「ラカダ……? いえ、不勉強なもので……?」
「ふぅん? まぁ嘘は言ってなさそーかな。でも【クレットのとこで働いてた女性って、番ちゃんのことでしょ?】」
「? 【クレット殿下のところでですか?】」
あまりに自然に言葉が続いたので、ユーリは自らの失態に気付くのが遅れた。途中から全く別の言語で話しかけられていたというのに。
「うん、やっぱり思った通りだね。あの『あがり症のあなたに教える3つのこと』を翻訳したのって、アンタでしょ」
「っ!」
ようやく失態に気付いたユーリが自分の口元を押さえても、もう遅かった。
「城で働いてた人から聞いた話をまとめて、推理してみたけど、アタリだったね」
まずい、とユーリの首筋を冷や汗がつたう。そこまで推測しているということは、当然――――
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そこまで予測を立てられている、ということだった。
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