6 / 9
国を捨てたあと
しおりを挟む
▫︎◇◻︎
後に、『混沌との結婚式』と呼ばれることになるジュリアンヌとレアンドルの結婚式、否、ミュリエラとレアンドルの結婚式から1年という月日が流れた。
結婚式前に用意していた馬車に乗り込み隣国へと逃げ込んだジュリアンヌとアレクサンドルは、家名を捨て、名誉を捨て、一回の平民として自然が豊かなとある領地でのんびりと暮らしていた。
膝裏まで長く伸ばしていた黒髪を胸下でバッサリと切り揃えたジュリアンは木陰に置いた木製の揺り椅子に座り、穏やかな表情で眠っている。そんな彼女の腹は大きく膨らんでおり、彼女が出産間近の妊婦であることが伺えた。
そんな領地で1番の美女であり、才女であると言っても過言ではない彼女の寝姿を拝もうと彼女たちの住む屋敷の柵の前に立った男たちは、一瞬の後に全てを諦める。
何故なら、美しい彼女の隣には、今日もグレーアッシュの髪を持つ美丈夫が佇んでいるからだ。
穏やかな表情で一切の隙のない立ち居振る舞いをするアレクサンドルに、領地の若い男たちはほぼ全員コテンパンにされた経験を持つ。いわばトラウマが彼女を拝むことを拒むのだ。
男たちは渋々自らの家へと帰宅する。
淡い恋心が、いつか過去のものになることを願って———。
そんな男たちを穏やかな表情かつ冷たい瞳で見つめていたアレクサンドルは、むにゅむにゅとくちびるを動かしたジュリアンヌの美しい藍玉の瞳が、望洋に開かられるのを見つめる。
「おはよう、アンヌ」
「ん、おはよう。アレク」
ふぁうっと間抜けな欠伸をこぼした彼女の手には、1組の新聞が握られている。
「? それは?」
「読みたい?」
「俺には読ませたくないの?」
自分の頭に顎を乗せすりすりと甘えてきたアレクサンドルの頭を優しく撫でたジュリアンヌは、自分の手に持っていた新聞を彼に手渡す。
「———これは………、」
紙面に大きく書かれているのは、レアンドルの自殺を報じるゴシップ。
そこに描かれている題名は『リスカ令嬢の華麗なる復讐劇』。
「………今すぐにコレを書きやがった記者を」
「待ちなさい」
殺気立って出て行こうとしたアレクサンドルの腕を素早く掴んだジュリアンヌは、ころころと愛らしく苦笑する。
「何も、リストカットをしている少女がわたくしだけというわけがないでしょう?」
「ん?」
困惑顔の大好きな夫の頭をわしゃわしゃと撫でながら、ジュリアンヌは歌うように言葉を紡ぎ始めた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
後に、『混沌との結婚式』と呼ばれることになるジュリアンヌとレアンドルの結婚式、否、ミュリエラとレアンドルの結婚式から1年という月日が流れた。
結婚式前に用意していた馬車に乗り込み隣国へと逃げ込んだジュリアンヌとアレクサンドルは、家名を捨て、名誉を捨て、一回の平民として自然が豊かなとある領地でのんびりと暮らしていた。
膝裏まで長く伸ばしていた黒髪を胸下でバッサリと切り揃えたジュリアンは木陰に置いた木製の揺り椅子に座り、穏やかな表情で眠っている。そんな彼女の腹は大きく膨らんでおり、彼女が出産間近の妊婦であることが伺えた。
そんな領地で1番の美女であり、才女であると言っても過言ではない彼女の寝姿を拝もうと彼女たちの住む屋敷の柵の前に立った男たちは、一瞬の後に全てを諦める。
何故なら、美しい彼女の隣には、今日もグレーアッシュの髪を持つ美丈夫が佇んでいるからだ。
穏やかな表情で一切の隙のない立ち居振る舞いをするアレクサンドルに、領地の若い男たちはほぼ全員コテンパンにされた経験を持つ。いわばトラウマが彼女を拝むことを拒むのだ。
男たちは渋々自らの家へと帰宅する。
淡い恋心が、いつか過去のものになることを願って———。
そんな男たちを穏やかな表情かつ冷たい瞳で見つめていたアレクサンドルは、むにゅむにゅとくちびるを動かしたジュリアンヌの美しい藍玉の瞳が、望洋に開かられるのを見つめる。
「おはよう、アンヌ」
「ん、おはよう。アレク」
ふぁうっと間抜けな欠伸をこぼした彼女の手には、1組の新聞が握られている。
「? それは?」
「読みたい?」
「俺には読ませたくないの?」
自分の頭に顎を乗せすりすりと甘えてきたアレクサンドルの頭を優しく撫でたジュリアンヌは、自分の手に持っていた新聞を彼に手渡す。
「———これは………、」
紙面に大きく書かれているのは、レアンドルの自殺を報じるゴシップ。
そこに描かれている題名は『リスカ令嬢の華麗なる復讐劇』。
「………今すぐにコレを書きやがった記者を」
「待ちなさい」
殺気立って出て行こうとしたアレクサンドルの腕を素早く掴んだジュリアンヌは、ころころと愛らしく苦笑する。
「何も、リストカットをしている少女がわたくしだけというわけがないでしょう?」
「ん?」
困惑顔の大好きな夫の頭をわしゃわしゃと撫でながら、ジュリアンヌは歌うように言葉を紡ぎ始めた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
36
あなたにおすすめの小説
自称聖女の従妹に陥れられ婚約破棄追放されましたが、私が真の聖女だったようです。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『邪悪な人間は守護神が滅ぼすそうですよ』
エドムンド公爵家の令嬢ルイーセは、王家の舞踏会で急に従妹のアストリッドに冤罪をかけられた。分家に生まれたアストリッドは本家のルイーセが妬ましく、いつか陥れたやろうと狙っていたのだ。いや、アストリッドだけでなく父親のダニエルも兄のフレゼリクを陥れてエドムンド公爵の爵位を奪おうと狙っていたのだ。アストリッドが聖女を自称し、ダニエルが伯爵家の権力と金を使ってアストリッドの神託を実現されるとい行為で徐々に周りを信用させていた。そして堕落した教会を味方につけてルイーセに悪魔と情を通じたというとんでもない冤罪を被せたのだった。
婚約破棄ですって? 1回くらい復讐してもいいですよね?
tartan321
恋愛
王子様はいつでも自由奔放。
婚約も、そして、婚約破棄も。
1回くらい復讐したって、罰は当たりませんよね?
その後は、別の世界の住人に愛されて??
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~
琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。
自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌!
しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。
「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。
ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──
愛に代えて鮮やかな花を
ono
恋愛
公爵令嬢エリシア・グローヴナーは、舞踏会の場で王太子アリステアより婚約破棄を言い渡される。
彼の隣には無垢な平民の娘、エヴァンジェリンがいた。
王太子の真実の愛を前にしてエリシアの苦い復讐が叶うまで。
※ハッピーエンドですが、スカッとはしません。
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?
水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。
王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。
しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。
王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。
ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる