悪役令嬢が出演しない婚約破棄~ヒロインの勘違い~

鷲原ほの

文字の大きさ
3 / 10
本編

3. 未読だったんだよねー……

しおりを挟む
 
「え、あー、あれでしょ……、恋愛小説の登場人物を基本にしているけど、ヒロイン側がざまぁされちゃうっていう新作」

 エミリアの指摘に、アルバートの記憶が底の方から可能性を引っ張り出してきた。
 それは、日本の記憶として残る最終日の、お昼休みの出来事。
 残念な転生者を絡めて、努力する方向を間違えた成り上がり令嬢が破滅する方向で書き進めてみたとお知らせが入っていた、そんな文章を見た覚えがある。

「そう、何故かそっちの展開もあったらしいのよね?」
「わたくし、さすがにそっちは未読だったんだよねー……」

 社会人一年目には帰宅するまで余裕なんてなくて、作者から届いたお知らせの内容しか掴めていない。
 とは言え、作品群を全て積極的に読んでいたわけでもなく、時間があっても未読だった可能性はかなりある。書籍になっていない作品は感想を聞かれることも稀だったわけだし。

「オリヴィアに、もう少し詳しく聞いておけば良かったかな」

 エミリアが日の昇る、王都ステファードの方角に顔を向けた。
 同席していないオリヴィア・マークシアとは、ステファント王国の貴族令嬢だ。
 幼少期の交流会にて出会い、彼女に物語の世界かもという情報を初めて提供してくれた転生者でもある。

「強制力がないと思い込んでいたのは我々も、だったと……」
「判断に困りますよね、我々だけだと」

 エミリアには、彼女がお知らせを受けて直後に読み始めていたと、そう話していた覚えがある。悪役令嬢に貶められた主人公がやり返す展開も口にしていたはずなのだ。
 だから、舞台の高等学院から遠い場所にいる彼女を、あまり投稿小説を読んでいなかった自分より詳しく分析できるだろうと縋りたくて名前を出してしまった。
 ちなみに、努力が実り王子様と結ばれてハッピーエンドを迎えたヒロインがやり返される投稿小説が、何故作者本人によって描かれたのか。
 それは、ヒロインの子爵令嬢をだんだん実在の誰かと結び付けてしまい、書き進めてエンディングへ近付くたび、漂い始めたぶりっ子具合に腹が立つようになったという作者自信の鬱憤を晴らすためだ。
 八つ当たりだと分かっていても、すっきりするために性格がさらに寄せられていたとかいないとか。

「そうなんだけど……、だからといって卒業式までに会う機会を設けるのも難しいよね?」
「そうなのですよね、あちらはあちらで重要な式典の準備に携わっていますから」

 頼りたいが、馬車で三日掛かる王都ステファードにいる彼女と顔を合わせるためには時間が足りない。
 そもそも、隣国の皇太子や侯爵令嬢とはいえ、要望を出したその日に会合というのは難しいだろう。

「姉上に手紙を出すにしてもなー」
「卒業式までにお返事が届きませんからね」

 国境を越えてアリストラス王国の王都まで、早馬でも七日は掛かってしまう。
 もう一人の理解していそうな相手と手紙を往復させる時間も残されていなかった。

「どちらにせよ、あの方達は周囲の話を聞いてくださいませんからねぇ」

 当人達にしてみれば、運命を左右する作戦を実行中なのである。他国の人間に横槍を入れられたくはないと拒絶しそうだ。

「そうか、詳しく分かったところで面倒事が起こることは変わらない、かぁ……」
「なのですよねぇ……」
「近付く学院生を選り好みするようにもなっていたもんね」

 お仲間から拙いかもしれないと問題の報告を聞いたときには、周囲の取り巻き子弟が役に立たなそうな下級貴族などを排除するようになっていた。
 自分達の取り分を減らさないためなのか、漏洩を恐れ慎重になっているのかは分からない。それでも、首謀者を中心にして結束は強くなっているだろう。
 影響力のありすぎる隣国の王子や侯爵令嬢の接近には必要以上に警戒するのだ。己の疚しさを探られていると思うのかもしれない。

「本当に、ざまぁされちゃう方なんじゃないかって思えてきたよ」
「舞踏会で騒ぎ出したら、あなたに間違いを訂正する役目がお願いされそうね」
「え……? ぅえ、マジで……?」

 チョコムースを咥えようとしたところで動きが止まった。
 あいつらと話し合う役目が回ってくるのと驚きが駆け巡る。

「だって、対等な立場で間違いを訂正できるとしたら、大国の王子という身分が必要だと思いますよ」

 背筋を伸ばすようなエミリアの変化に、アルバートの背中が丸まっていく。

「この国の王子様だもんなぁ……」

 影響力のあるステファント王国の王子は、どれほど残念王子と馬鹿にされていようとそれなり以上の遠慮を引き出してしまう。
 都合の悪いことに、王宮へ戻ってから改めて祝いの席を設けるらしく、息子の卒業式に国王陛下の臨席は予定されていない。
 叱り付けられる良識の保護者が参加しないのだ。そうなると、事実を語れる人物は限られてくる。

「一応みたいな認識ですけど、まだ殿下ですからね」
「そうか、会場入りして待機をしているときに騒ぎ出すと、たぶん学院長が来ていないから……」

 徐々にそうなるかもという気がしてきて、アルバートはちょっとだけ覚悟を決めるか迷う。
 しかし、もうそうなるような予感しかしていないことは、心のどこかで認めている、無駄な抵抗を試みているだけで。

(さすがに、巻き込まれる流れじゃ、ないはずだよな……、誰かそう言っておくれぇ……)

 傍観者の気分だったのにと、小さく溜め息を漏らした彼は気が付いていない。
 この世界が、元々感想を強要していた姉君が生み出していた物語が基礎となっていることを。
 そして、その創造主げんさくしゃが登場人物に転生していないのなら、おかしな強制力はなさそうねと判断して、現世も姉上として君臨しながら、のんびりと王家の別荘で婚約者と土弄りを楽しんでいることを。
 すなわち、アルバート君はとっくに巻き込まれているのである、これ幸いと面倒なことを弟に押し付けた姉によって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

婚約破棄された公爵令嬢は数理魔法の天才

希羽
ファンタジー
この世界では、魔法は神への祈りとされる神聖な詠唱によって発動する。しかし、数学者だった前世の記憶を持つ公爵令嬢のリディアは、魔法の本質が「数式による世界の法則への干渉」であることを見抜いてしまう。 ​彼女が編み出した、微分積分や幾何学を応用した「数理魔法」は、従来の魔法を遥かに凌駕する威力と効率を誇った。しかし、その革新的な理論は神への冒涜とされ、彼女を妬む宮廷魔術師と婚約者の王子によって「異端の悪女」の烙印を押され、婚約破棄と国外追放を宣告される。 ​追放されたリディアは、魔物が蔓延る未開の地へ。しかし、そこは彼女にとって理想の研究場所だった。放物線を描く最適な角度で岩を射出する攻撃魔法、最小の魔力で最大範囲をカバーする結界術など、前世の数学・物理知識を駆使して、あっという間に安全な拠点と豊かな生活を確立する。 ​そんな中、彼女の「数理魔法」に唯一興味を示した、一人の傭兵が現れる。感覚で魔法を操る天才だった彼は、リディアの理論に触れることで、自身の能力を飛躍的に開花させていく。 ​やがて、リディアを追放した王国が、前例のない規模の魔物の大群に襲われる。神聖な祈りの魔法では全く歯が立たず、国が滅亡の危機に瀕した時、彼らが頼れるのは追放したはずの「異端の魔女」ただ一人だった。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?

だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。 七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。 え?何これ?私?! どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!? しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの? しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高! ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!? 悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

リンダの入念な逃走計画

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
愛人の子であるリンダは、先妻が亡くなったことで母親が後妻に入り侯爵令嬢となった。  特に家族との確執もないが、幼い時に受けた心の傷はリンダの歩みを決めさせる。 「貴族なんて自分には無理!」  そんな彼女の周囲の様子は、護衛に聞いた噂とは違うことが次々に分かっていく。  真実を知った彼女は、やっぱり逃げだすのだろうか? (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)

処理中です...