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本編
7. 本当に、卒業していると……?
しおりを挟む「悪戯されたという証拠品は、その全てが今年度の始まる前に改訂された教科書ばかりですね」
「そう新しい教科書ばかりだ……、だからこそ、オリヴィア嬢が関わっているとした発言は偽証されていると言わざるを得ないのだよ」
冷静に大嘘だと断定されて、慌てた首謀者に脇腹を叩かれ、共謀者が取り繕うことも忘れて口を挟む。
「何を言う! その行為を目撃した者だっているのだぞ!」
「それは、本当に?」
「そうだ!」
目撃者を仕立て上げているのだから、彼等にとっては存在していることが当然なのだ。
「そういえば、そこの切断されている上着ですけど、今年度の新入生向けにデザインを変更された制服みたいですけど、どなたの持ち物という主張でしたかしら?」
「は? ……いや、それは」
畳み掛けるように広げられたエミリアの指摘に、そんなことは聞いていないぞと、思っていたとおりに進まないと力を込めて絡み付く相棒に視線を送る。
「……そ、そんなの、前の制服を駄目にされたから、新しく用意したのよ!」
「ふーん、そうなのですか」
「それすらズタズタに切り刻まれたのよ! そんなに疑うなら、目撃者を取り調べてみればいいのよ!」
そんなことをしても無駄だけどと、言い訳を急遽作り出せたカトレアが軽快に叫び上げた。
しかし、事実を把握しつつある卒業生達からはさぞ滑稽に見えたことだろう。
「それも良いかもしれないけれど……、ふふ、何故こんなことを言い出したかというとね、オリヴィア嬢は一年前から高等学院に在籍していないので、主張していたような行為を行えるはずがないのだよ」
「「「……え、え?」」」
「オリヴィアは卒業しちゃっていますからね、いつくらいから証拠を捏造していたのかは分かりかねますけど、今年の教科書とか、先月の診断書とかでは糾弾する根拠にはなり得ませんよ」
「「「…………は、いっ?」」」
言われたことを噛み砕けない様子で、舞台上の全員が疑問符を乱舞させて動かなくなった。
用意してきた全てをあっさりと引っ繰り返された気分だろう。
在籍していなかったことを知る卒業生達が、呆れたように小さな笑い声を漏らす。
「……い、いや、あの女は同い年だったはずだ! 一年前に卒業しているはずがない!」
「そうよ! あの女だけなんておかしいじゃない!」
指名されて出て来られるはずがないことを示されても、納得できないと言い返す。
「普通に、単位さえ揃えられれば一年だけでも卒業できますよ」
「え……?」
エミリアが常識だと返答すれば、後ろから本当に知らないのかと嫌みまで投げ付けられた。
「二十人以上は、利用している制度のはずだよな」
「入学するときに説明されるからなー」
ステファント王国の貴族は、国立マギステラ高等学院を卒業していることが爵位を継ぐための必須条件だ。
だが、貴族らしい家の事情が関わることもあり、基本の三年間在学し続けなければならないわけはない。入学時から必死に単位を揃えようとする理由には、どうしても金銭的な事情が一番多くはなるけれど。
「だからだね、彼女は一学年のときに必要な単位を揃え、二学年では国家運営に関わるような専門的な知識を学んだ。そして、一年前の卒業式で国立マギステラ高等学院を巣立っているんだよ」
「う、そよ……」
悪役令嬢の抵抗として、舞台に上がらないという選択が許されていたことに、カトレアが信じられないと肩を落とす。
完璧に練ったはずの計画は、端から失敗に終わることが避けられなかったのだ。
「まぁ、そういうことだから、君達の主張には綻びがあると誰かが指摘する必要があったわけ」
卒業するための教科など、教育熱心な侯爵家や伯爵家の令息令嬢なら入学前に履修していてもおかしくない。この場に揃う卒業生には最低限の教養と言える。
文化都市マギステラに多くの留学生が集まるのは、より高度な専門的分野の情報に触れるためだけではなく、他国の貴族関係者と交流することも目的としている。
ちなみに、そんな基礎的な範囲を三年間も掛けて、辛うじて卒業に漕ぎ着けるような集団だから、用意した教科書が不完全だったり、いろいろと見落としていたりしたのかもしれない。
第三学年にもなって、大事に持ち込んでいる学院生は数えるほどしかいない。だから、投げ捨てられた表紙を不思議そうに見詰める卒業生もいたのだろう。
「本当に、卒業していると……?」
最後の希望に掛けるかの如く、苦しげにスティーブ王子が言葉を絞り出した。
「言ったとおりだよ、彼女は王妃継承者となり皇太子と婚約するため、ステファント王国の制度に則り、卒業してから王宮にて研鑽を積んでいる」
「申し訳ないですけど、彼女は高等学院にて青春ごっこを楽しんでいる余裕はなかったのですよ」
あなた達のようにねとエミリアが侮蔑を込めた。残念ながら、予想外の事態に誰もその意図を感じ取れていない様子だけど。
「それにしても、取り調べをしてみれば、だったか……。……いやはや、高等学院を卒業してからこの一年、実家のある文化都市にすら滞在していないはずの、ステファント王国の王宮で暮らしているはずのオリヴィア嬢の行動を、誰が目撃できたというのか、時間が許せばじっくりと、掘り下げて聞いてみたいものだね」
一人一人と視線を合わせるように、ゆっくりとアルバートが取り巻き達の顔を確認していった。
自分達が許されない振る舞いを取っていたと理解できたのか、全員が視線を逸らし青ざめていく。
「さらに、婚約者云々という話題も出ていたから、そちらも勘違いを指摘しておこうかな」
「え? まだ、何か……?」
勘弁してくれとスティーブ王子が疲れた顔を上げた。
「スティーブ殿下が婚約を破棄する、というようなことは無理というお話ですよ」
「端的に言うとそういうことになるのだけど、現状のオリヴィア嬢は皇太子の婚約者に内定している状態だ」
「内定……?」
何が違う、さほど変わらないではないかと眉間に皺を寄せて続きを待つ。
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