オネエな幼馴染と男嫌いな私

２

もう既にお気づきかと思うが、ジュリアスのアレとは彼の独特な話し方の事だ。
いつからかは忘れてしまったが、ジュリアスは女言葉を使うようになったのである。

俗に云うオカマという生き物らしい……。

見た目は立派な紳士なのに中身は女性という、ややこしい事この上ないモノに成り下がってしまったそうなのだ。
しかも一部の人間には、この事をぶっちゃけているらしい。
職場はもちろん、親しい間柄の友人や知人はジュリアスの性癖を受け入れ理解してくれているのだという。
その事について本人からは「日頃の行いの成果よね～♪」とドヤ顔で自慢されたが、そんな奴の婚約者にされてしまったヴィヴィアーナとしては堪ったものではなかった。

『あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ！！』

と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨したのだった。
そして、その事について怒っている事を何処からか聞きつけたジュリアスが、ヴィヴィアーナに言ってきた言葉も衝撃だった。

「あら貴女、あたしがこうなったお陰で、あたしと話せるようになったからいいじゃない？前は、委縮しちゃって話も出来なかったんだから。」

である。
いや、お前のせいで男性恐怖症になったんですが、お忘れですか？と胸倉を掴みながら声を大にして言いたかった。
言いたかったが、話が出来るようになっただけで触れる事は出来ないので、心の中だけで締め上げる事にしておく。
そして、このオネエの婚約者は何を思ったのか、毎日のように会いに来ては揶揄うだけ揶揄って帰って行くようになったのであった。
毎回人を怒らせて喜んでいるドS野郎に、ヴィヴィアーナは内心で「早く帰れ」と念じているが、なかなか帰る気配がない。
いや、「もう来るな」と願った方が建設的かもしれないのだが……。
とにかく、この厄介な婚約者にヴィヴィアーナは毎回振り回されているのであった。



そんな嫌な思い出ばかりの回想に、ヴィヴィアーナは深い溜息を吐くと、メイドに薬を持ってくるよう頼んだあと、ジュリアスを見ないようにしながら近くのベンチに移動し腰を下ろしたのだった。

「あら？逃げないの？」

「…………。」

珍しく逃げて行かない婚約者に、ジュリアスは小首を傾げながら訊ねてきた。
そんな彼に、ヴィヴィアーナは目を閉じて聞こえないフリをする。
暫く無視を決め込んでいると、隣に人の気配がした。
慌てて振り向くと、案の定ジュリアスが隣に座ってきたのであった。

「ちょっと！」

ヴィヴィアーナが文句を言う前に、ジュリアスはベンチの背凭れに長い腕を回して、ヴィヴィアーナを囲うような形で密着してきてしまったのであった。
その瞬間、ぞわっと治まりかけていた蕁麻疹が再発する。

「く、くっ付いて来ないで！！」

「あ～ら、婚約者に向かってそれは無いでしょう？」

「わかっててやってるんでしょう！！ほんと性格が悪い。」

「あら、あたしは一刻も早くヴィーが治るように協力してあげてるんじゃない。」

――嘘をつけ嘘を！！

ヴィヴィアーナは、寒気でざわざわする体を己の腕で庇うように抱きながら胸中で突っ込んだ。
その間にも、ジュリアスは容赦なくヴィヴィアーナに密着してくる。
いよいよ以て気が遠くなり始めた頃、メイドが薬を持って帰って来たため、拷問のような密着からようやく解放されたのであった。

「あら残念、時間切れね。じゃ、あたしは仕事があるから帰るわね。んじゃまたね、ヴィー♪」

ジュリアスは、わざとらしく残念そうに言いながらベンチから腰を上げると、満身創痍な様子でグッタリとするヴィヴィアーナに軽く手を挙げニッコリと微笑みながら、颯爽と帰って行ってしまったのであった。

「お嬢様、大丈夫ですか？」

項垂れたまま肩で息をするヴィヴィアーナに、メイドが心配そうに声をかけてくる。

「に、二度と来るな！！」

メイドに介抱されながら、ヴィヴィアーナは涙目で叫ぶのであった。