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しおりを挟む――早く終わらないかしら……。
ヴィヴィアーナは、憂鬱な気分で周りの景色を眺めていた。
彼女の目に映るのは、煌びやかな会場に煌びやかな紳士淑女たちが談笑する姿だった。
ヴィヴィアーナ達の住む帝都は今、社交の季節であった。
この時ばかりは貴族達も浮足立ち、淑女たちは流行のドレスに身を包み、紳士たちは自分の利益に繋がる話題に目を光らせ、蝶のように夜会会場を飛び回る。
ヴィヴィアーナの家も例に漏れず、懇意にしている貴族達に招待されたりしたりと、毎夜夜会に参加していたのであった。
男性恐怖症であるヴィヴィアーナは、貴族の間で最も活気に満ち溢れるこの季節が一番苦手だった。
殆どの夜会では、父や母や兄達が顔を出せば済むのだが、時々ヴィヴィアーナ宛に招待状が来ることがある。
そういう時は、仮病を使って断ることが多いのだが、国王主催のパーティーなどは、さすがに断る訳にはいかず参加しなければならなかった。
そして今回参加している夜会は、もちろん国王主催のもので――
ヴィヴィアーナは、顔面に貼り付けた淑女の笑顔で、なんとかこの場を持ち堪えていたのであった。
――ううう、早く家に帰りたいよぅ……。
ヴィヴィアーナは、引き攣りそうになる口元をなんとか誤魔化しながら、引っ切り無しにやって来る貴族達へ挨拶を交わしていた。
主役でもない自分は、両親の横で軽く会釈をするだけでいいのだが、これがなかなかに曲者なのであった。
時々、同じ年頃の貴族の令息たちが侯爵家の令嬢と接点を持とうと近付いて来る事がある。
しかも、隙を見て挨拶の時に触れてこようとしたり、ダンスに誘おうとしたりするので気が抜けないのだ。
さすがに国王の前で醜態を晒すわけにはいかない為、この時ばかりは全身を襲う鳥肌と戦いながら、なんとか平静を装うのに必死にならなければいけなかった。
「是非、僕とダンスを!」
「おほほほほほ、今日は足を痛めておりますので、ご遠慮いたしますわ。」
「そうですか……。」
両親を盾に何人目になるかわからないダンスの誘いを撃退し、ヴィヴィアーナは内心ホッと胸を撫で下ろす。
ようやく貴族達の挨拶が落ち着いた頃、心配した兄が声を掛けてきた。
「大丈夫かい、ヴィヴィ?」
「ええ、大丈夫よ、お兄様。」
そう言って、ニコリと笑みを作って答えた。
「全く……ヴィヴィには婚約者がいて、しかも男性が苦手な事を知っている筈なのに、しつこい奴らだ。」
「お兄様ったら……。」
兄の愚痴にヴィヴィアーナは苦笑する。
「いいかい、もししつこい奴が居たら、すぐ僕かジュリアスを呼ぶんだよ?」
「……ええ、わかったわ、お兄様。」
そう言って、兄はまた親しくしている貴族達の輪の中へ戻っていったのであった。
ヴィヴィアーナは、そんな兄の姿を眺めながら溜息を吐く。
――お兄様には悪いけど、ジュリアスを呼ぶ位なら帰った方がいいわ。
ヴィヴィアーナは、そう胸中で呟きながら、ちらりとバルコニーにあるサロンの方を見た。
すると、バチリと目が合う。
あろうことか、そこで談笑していたジュリアスと目が合ってしまったのだった。
――嫌だわ……さっきの遣り取りを見られていたかもしれないわ……。
また、揶揄われるかも……。
そう思った途端、ヴィヴィアーナの気分が急降下していく。
そして案の定、ジュリアスは友人たちに何やら話しかけた後、こちらへ向かって来たのであった。
――早く逃げなきゃ……。
ヴィヴィアーナは慌てて踵を返し、ホールの外にある中庭へと逃げ込んだのだった。
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