オネエな幼馴染と男嫌いな私

麻竹

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「全く、やられたよ。まさか、こんな手を使ってくるとはね。」

急場で用意された慣れない既製品のスーツに、ストラウスは顔を顰めながら零す。

「意外と相手も、やり手の坊ちゃんだったみたいだな。」

ジュリアスは、珍しく苦虫を噛み潰したような顔をする幼馴染に苦笑を零しながら、手にしていた手紙を掲げてきた。

それは、夜会への招待状であった。

昼間の無礼のお詫びにと、ワグナー邸で催される夜会へのお誘いの手紙だった。
しかも伯爵家の刻印付きの正式な招待状の為、急な誘いではあったが無碍にも出来ず、参加することになったのである。
しかも、ご丁寧にストラウスとヴィヴィアーナだけではなく ”ご友人・・・も一緒に” と添えられていたのであった。

「やれやれ、俺も随分甘く見られたものだなぁ。」

そう言って笑うジュリアスの目は、笑っていなかった。
それもそうだろう、ジュリアスの家もストラウスの家と肩を並べる侯爵家である。
彼の事を知らない貴族は、国中探してもいないと言っても過言では無い位の認知度の筈だ。

それなのに、名を連ねず ”ご友人” ときたものだ。

「ははは、俺はヴィーの婚約者だと認識されてもいないらしいな。」

ビュオオオオと、背後にブリザードを吹き荒れさせる幼馴染に、笑顔が怖いからやめろと釘を刺しつつ可愛い妹を探すと、彼女は壁の花に徹していた。
そろそろ壁と同化してしまいそうな妹に、ストラウスは苦笑しながら声をかけようと近付く。
しかし、それよりも早くエバンスがヴィヴィアーナに声をかけてきた。

「こんにちは、昼間は申し訳ありませんでした。」

「え?あ……そ、その、だ、大丈夫です。」

突然話しかけられたヴィヴィアーナは、どう答えていいかわからなくなってしまい、しどろもどろになる。
そんなヴィヴィアーナに、エバンスは優しく話しかけてきた。

「失礼しました、僕としたことが……男性が苦手とお聞きしています。不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ありません。」

エバンスは、ヴィヴィアーナを案じながら改めて距離を取ると、にこりと笑いかけてきた。
その紳士的な気遣いに、ヴィヴィアーナは知らず頬を染めてしまった。

――ジュ、ジュリアス以外と、こんなに話せたのは初めてだわ……。

蕁麻疹の出ていない自分に驚きながら、エバンスをチラリと見る。
彼は昼間も見せた屈託の無い笑顔で、こちらを見ていた。

――か、彼は……こ、怖くないかも……。

適度な距離で気遣いをしてくれる相手に、ヴィヴィアーナは新鮮な気持ちになる。
今まで出会った貴族の青年達は、皆許可も無く近付こうとしてくる者ばかりだった。
目の前の青年の距離感に、なんだかホッとしてしまう。
ヴィヴィアーナの強張っていた表情が緩み始めた時、兄が声をかけてきた。

「ヴィヴィ、大丈夫かい?」

「お兄様。」

「ストラウス様、この度はお越し頂きありがとうございます。」

「ああ、招待ありがとう。妹の顔色が優れないようだから、そろそろお暇するよ。」

「そうですか、それは残念です。ヴィヴィアーナ様、お話して頂きありがとうございました。」

「それでは失礼するよ。」

ヴィヴィアーナに笑顔を向けるエバンスから妹を隠すようにエスコートすると、ストラウスは挨拶もそこそこにワグナー邸を後にしたのであった。
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