オネエな幼馴染と男嫌いな私

麻竹

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「気持ちいい風ね。」

「はい、お嬢様。」

フォレス家の領地にある別荘の一つである屋敷に辿り着くと、ヴィヴィアーナは早速屋敷の目の前にある湖へと足を運んでいた。
避暑地でもあるここは、日差しがきつくなってきた王都とは違い気温が低いせいか、時折涼しい風が吹いてヴィヴィアーナの頬を擽っていく。
その気持ちの良い風に上機嫌になったヴィヴィアーナは、ついはしゃいでしまった。
思わず別荘を振り返り兄へと勢いよく手を振ってから、すぐに後悔したのだった。

――忘れてたわ……。

バルコニーから、こちらを見ていた兄の隣に居る人物に気づき、思わず眉間に皺が寄ってしまう。

――そういえば、あいつも来ていたんだっけ。

途端に楽しかった気分は急降下してしまい、美しく見えていた湖が只の水溜まりにしか見えなくなってしまった。

「部屋に戻るわ。」

「お、お嬢様?」

急に気分が落ち込んでしまったヴィヴィアーナに、メイドは困惑しながら早足で部屋へと戻る主人の後ろ姿を慌てて追いかけて行くのであった。




「はあ、もう最悪よ……。」

ヴィヴィアーナは、別荘で宛がわれた自分の部屋へ戻ると、ソファに腰掛け溜息を吐いていた。

「なんで、あいつも一緒なのかしら……。お兄様ったら、いくら仲が良いからって、プライベートな旅行だったのに……。」

婚約者が来ることを事前に知らされていなかった事もショックだったが、何より兄がジュリアスを誘った事へのショックが大きかった。
自分がジュリアスを苦手にしている事を知っている筈なのに何故?と、ヴィヴィアーナは胸中で溜息を吐く。
その時、部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。

ヴィヴィアーナが返事をすると、兄が部屋へと入って来たのであった。

「やあ、ヴィヴィ久しぶりの別荘はどうだい?」

「ええ、とっても快適よ。」

兄はヴィヴィアーナの向かい側のソファに腰掛けると、長い脚を組みながらそう訊ねてきた。
ヴィヴィアーナは、そんな兄の言葉に複雑な心境のままニコリと笑顔で返す。

「ふふ、不満があり過ぎて変な笑い方になっているよ。」

「それは……お兄様のせいでしょう!」

折角頑張って笑顔で返したのに、そうやって揶揄ってくる兄に、ヴィヴィアーナはプイッと横を向いてしまった。
臍の曲がってしまった妹に、ストラウスは「ごめん、ごめん」と肩を竦めながら謝ってきたのだった。

「ジュリアスを、相談も無しに勝手に誘ってしまった事は謝るよ。でも、婚約者同士なんだから仲良くしないとね。」

そう言ってニッコリと笑う兄に、ヴィヴィアーナは目を見開きながら振り返ると抗議の声を上げてきた。

「仲良くですって?お兄様、本気で言っていらっしゃるの?わたくしに、いつも嫌がらせをしてくるのは、あっちなのよ!」

そう言ってプリプリと怒りだす妹に、ストラウスは困ったように眉根を下げてきた。

「ははは、そうだね。ジュリアスも、ちょっと悪いかな。」

「ちょっと所では無いわ!」

兄のフォローに、ヴィヴィアーナは腕を組むと横を向いてしまう。

全身で怒りを現す妹に、ストラウスは苦笑を零しながらソファから立ち上がった。

「とりあえず、ジュリアスには言っておくよ。ヴィヴィも折角ここへ来たんだから、楽しまないとね。明日は馬に乗って、遠出でもしよう。」

兄はそう言うと、部屋を出て行ってしまったのであった。

「もう、あいつが居たんじゃ楽しめないわよ!」

ヴィヴィアーナは頬を膨らませたまま、悪態を吐くのであった。
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