【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
51 / 86
星司と月歌(スピンオフ1)

6. お花見

しおりを挟む
 この島に来て、だいぶ人間らしくなったと思った星司せいじくんだけど、二人の愛の結晶である我が子が、僕のお腹に舞い降りてきてくれてから、ますます人間らしさを感じるようになっていた。
 人間である星司くん相手におかしいと思うけど、でもそんなことを思ってしまうくらい、以前の星司くんは完璧すぎて、本当の心が見えていなかった気がする。
 星司くんの家はあまりにも大きすぎて、いずれはそのトップにと言われ続けたことは、プレッシャーがすごいなんてものではなかったのだと思う。そのしがらみから解き放たれた今の星司くんが、本当の星司くんなんだ。

月歌るか、廃材もらってきたから、ベビーベッド作ってる途中なんだけど、ちょっと見てくれないか?」

 僕の妊娠が判明したのはまだ寒い頃だったけど、今はすっかり春の陽気になっていた。
 桜も咲き始め、満開まであと少しというところまで来ていた。お花見に行く約束をしているから楽しみだ。

 庭の方から、首にかけたタオルで汗を拭きながら星司くんがやってきた。その笑顔はとてもキラキラしていて、僕が喜ぶだろうと想像しながらこちらに向かってるのだろうと思うと、僕も嬉しくなって笑顔で言葉を返す。

「すごい! ベビーベッドなんて作れるの?」

 人間らしくなったとはいえ、何でもこなしてしまうところは相変わらずで、今は日曜大工に精を出している。
 赤ちゃんをお迎えするためのものが中心で、ベビーベッドを始め、収納棚や、木製のおもちゃなど。町の人達に端材などをいただいて、色々と作っている。

「まだ木枠だけなんだけど、どうだろう? とても良い感じだと思う」

 にこにこしながら庭に案内された僕は、星司くんについて行った。庭には、作りかけのベビーベッドと、他にもなにか準備中らしき木材たち。

「とっても素敵だよ。ありがとう。完成が楽しみだな」
「月歌に喜んでもらえてよかった」

 少し休憩をしようと僕から提案して、いただいた和菓子とお茶を準備した。
「ベビーサークルも作りたいと思っているんだ」という星司くんに、「僕はおくるみとかスタイとか作っている最中だよ」と応えた。
 ぽかぽかの日差しの中で、これから生まれてくる我が子のための準備の話をする。
 こんなに幸せでよいのだろうか。

 僕は、わずかに湧き出た不安を抑え込むと、隣の星司くんにぴとっと寄り添い、「楽しみだね」と微笑んだ。



 桜も満開となり、そのタイミングを見計らって、近くの公園にお花見に行くことにした。
 行き交う町の人々と「お散歩かい?」「はい、公園でお花見をしようと思って」「ちょうど満開できれいだったわよー」なんて会話をしながら公園に向かう。ここの町人たちはとても気さくで、町全体がひとつの家族のようだ。

 公園に到着すると、見慣れた人々が集まってきていた。みんなお花見に来たのだろうか。そう思っていたら向こうから声をかけられた。

「星司くん、月歌くん、お花見かい?」

 この町に来たときも、こうやって一番に声をかけてくれた、町長さんだ。

「はい。ちょうど満開だと聞いて、天気もいいし散歩がてらお花見に来ました」
「そうかいそうかい。もし良かったら、一緒にお昼食べないか? 家内自慢の料理があるんだ」

 町長さんは愛妻家で有名で、会うたびに惚気を聞かされるくらいだ。僕はそんな関係に憧れている。
 隣りにいる星司くんに確認するように視線を向けると、ニコニコしながらうなずいた。

「ありがとうございます。僕の作ってきたのもあるので、良かったら食べてください」
「月歌くんの料理も美味しいのよねー。ありがとう、いただくわ」

 少し離れたところから声がしたので振り返ると、席を外していただろう奥さん、百合子ゆりこさんがニコニコしながらこちらに向かって歩いていた。
 百合子さんは、初めて会ったとき『私のことは百合子って呼んで』というので、お言葉に甘えて百合子さんと呼ばせてもらっている。
 ちなみに、町長さんの名前は『椿原一郎つばきはらいちろう』さんというのだけど、一郎さんではなくそのまま町長さんと呼んでいる。町長さんは少し不満げだけどね。
 百合子さんも揃ったところで、ふたつのレジャーシートを広げ、四人で一緒にお花見をすることになった。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...