【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
5 / 86

4. 記憶喪失

しおりを挟む
「一時的な記憶喪失かもしれません」

 女性と少年が固唾をのんで見守る中、先生の出した答えは『記憶喪失』だった。

「記憶喪失……?」
「ミッチが……?」

 困惑の表情を隠せない二人は、僕と先生の顔を交互に見ながら、戸惑いの声を漏らした。

「自分の名前どころか、姿にも見覚えがない。家族のこともすっかり忘れている。この街どころかこの国のこともわからない。何ひとつ思い出せないような状態なんです。……記憶喪失だと考える他に、何があると?」

 冷静だと思っていた先生も、実はかなり困惑しているのが見て取れた。少し苛立ちさえ感じるような言葉に、二人は黙ってしまった。

「おそらく一時的なものだと思いますし、今までと変わらぬ生活をする中で、思い出していくはずです。無理強いすることなく、わからないことは根気よく教えていってあげてください」

 先生はそういうと、「それでは失礼します。お大事に……」と、部屋を出ていった。
 
 診察だからと、いくつか質問に答えていく中で、ここはホテルではなく、この女性と少年の家だということがわかった。

 目の前にいる二人は、僕にとっては、今日初めて会った赤の他人だ。
 かといってここから出ていっても行くあてはないし、僕自身のこともこの家のことも、この世界のことも全くわからないから、この二人に頼るしかないのだろう。

 目覚めたばかりの時に脳裏に浮かんだ映像が、夢なのか現実なのか分からなくて、僕の記憶は混濁しているのかと思っていた。……けれど、そうではないと先生との会話で確信した。

 僕は、目の前にいる少年の双子の兄に転生したんだ──。

 だからここにいる三人は家族。双子の兄が僕で、目の前にいるのは双子の弟と僕たちの母親なんだと思う。
 今僕に分かっている情報は、それだけだった。





「ごめんね、なんか迷惑かけちゃうけど……」

 僕はメモを用意してもらって、そこにこれから色々と記していくことにした。
 先生が言っていた『記憶喪失』ではないから、僕の中にあるこの子の記憶が蘇ることは多分無いと思う。

 そして、『ミチ』と呼ばれていた日本人の僕が、元の身体に戻ることも、絶対に有り得ない。

 僕は、少女を助けたあの時、そのまま人生を終えたはずだから──。

 でも良かった。
 今僕が違う姿で、でも前世の記憶を持ってここに存在するということは、リクとの約束を破ることなく、生まれ変わることができたということ。
 また、リクに巡り会えるかもしれない……そう思ったら、暗闇の中で彷徨うような状況の中、希望の光が見えてきた気がした。



「ミッチ! きいてるの?」

 目の前でプーッと頬を膨らますのは、僕の双子の弟で『フィラット・ハイネル』愛称はフィル。そして僕は『ミッチェル・ハイネル』愛称はミッチ。
 ストロベリーブロンドのやわらかい猫っ毛で、肩に届かないくらいの細い髪がサラサラと揺れる。瞳の色はフィルが淡いブルーで、僕は髪色に似た淡いピンクだ。
 全く同じかと思っていたけど、細かいところで個性が出ているようだった。瞳の色は違うけど、ふたりともくりっとした瞳は、小動物のような印象を与える。

「ごめんね。まだ全然思い出せないから、フィルにたくさん協力してもらいたいんだ」

 弟のフィルに向かって、僕は謝った。手間を掛けさせてしまっているのは事実だ。
 それでも、「しょうがないなぁ……」と言いながら、照れ隠しのように向こうを向いてしまう弟の横顔を盗み見ると、わずかに口元が緩んでいた。
 前世でとても可愛がっていた弟がそうだったように、きっと、頼られているのが嬉しいのだと思う。そんな様子を見ていた僕の口元も、わずかに緩んだ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...