33 / 86
32. 再会の扉
しおりを挟む
目が覚めるとすぐに扉の前まで行き、向こうにいるはずの監視役の使用人に声をかけた。
「おはようございます。昨日は、フレッドの無事を教えてくれてありがとうございました」
いつもなら、返事はないものの、使用人がそこにいることを示す僅かな足音や衣擦れの音が聞こえる。なのに、今日はその音すらしない。
「……?」
不思議に思い、耳を澄ませてみたけど、やはり何の気配も感じられない。
扉は外から鍵がかけられているため、開けて確認することはできない。食事が運ばれてくる時まで待って、改めてお礼を伝えようと決めた。
唯一の窓から差し込む光が、部屋の中をじわじわと明るくしていく。時計はないけれど、もうすぐお昼になろうとしていることは分かった。
そんな時、遠くから「コツコツ」とかすかな音が聞こえてきた。その規則正しい足音は徐々に近づき、階段を登ってきているのだとはっきりわかった。
いつもなら、扉の前の監視役の使用人と、一日に一度の食事を運んでくる使用人しかいない。お昼に人が来る予定はないから、誰なのかわからず、僕の心臓が高鳴る。
その足音は扉の前でピタリと止まると、少しの間が空いたあと、遠慮がちに扉がノックされた。
コンコン
誰か分からない不安が押し寄せ、心臓の音がバクバクと響き渡る中、聞こえてきたのは想像もしていなかった人の声だった。
「ミッチェル……」
「お母様……っ!?」
この塔に閉じ込められてから、ずっと聞くことのなかった声に、僕は一瞬状況が理解できずに固まってしまったけど、すぐその声がお母様だと理解し、思わず大きな声をあげた。
「扉を開けても……?」
戸惑いや遠慮というものが含まれたような声に、僕は大きくうなずいた。無言でうなずいたところでお母様には伝わらないのに、久しぶりに聞いたお母様の声に胸が一杯になって言葉が出なかった。
「どうぞ、開けてください……」
やっと絞り出した返事を確認したのか、ガチャっと鍵を開ける音がして、ゆっくりと扉が開かれた。そこには、二年半ぶりのお母様の姿があった。
「……お母様っ!!」
僕は感極まって、思わずお母様に抱きつき、『お母様』と何度も呼びかけながら、小さな子どもに戻ったかのように、わんわんと声を上げて泣いた。
お母様は、そんな僕を突き放すことなく、ただ黙って、背中を静かにポンポンと優しく撫で続けてくれた。
「ミッチェル、会いたかったわ。……寂しい思いをさせてしまって、ごめんなさい……。あの時は、ああするしかなかったの……。でも、ずっと会いたかった」
お母様の声は震えていて、あの日の後悔の念が伝わってきて、僕の心に深く響いた。
『僕もお母様に会いたかったです』って伝えたいのに、涙が止まらない僕の口からは嗚咽ばかりで言葉が出て来ることはなく、ただお母様の温もりに包まれひたすら涙を流していた。
もしかしたら、家都合の政略結婚のために僕をここから連れ出し、もう二度と戻ってこないようにと言うためにここへ来たのかもしれない。
でもなぜか僕は、そんな可能性は一ミリも考えず、お母様が僕に会いに来てくれたんだと信じて疑わなかった。
ここに閉じ込められたあの日からずっと緊張したままだった心が、お母様の匂いと温もりに包まれて、久しぶりに心の底から安らぎを得たような気がした。
「おはようございます。昨日は、フレッドの無事を教えてくれてありがとうございました」
いつもなら、返事はないものの、使用人がそこにいることを示す僅かな足音や衣擦れの音が聞こえる。なのに、今日はその音すらしない。
「……?」
不思議に思い、耳を澄ませてみたけど、やはり何の気配も感じられない。
扉は外から鍵がかけられているため、開けて確認することはできない。食事が運ばれてくる時まで待って、改めてお礼を伝えようと決めた。
唯一の窓から差し込む光が、部屋の中をじわじわと明るくしていく。時計はないけれど、もうすぐお昼になろうとしていることは分かった。
そんな時、遠くから「コツコツ」とかすかな音が聞こえてきた。その規則正しい足音は徐々に近づき、階段を登ってきているのだとはっきりわかった。
いつもなら、扉の前の監視役の使用人と、一日に一度の食事を運んでくる使用人しかいない。お昼に人が来る予定はないから、誰なのかわからず、僕の心臓が高鳴る。
その足音は扉の前でピタリと止まると、少しの間が空いたあと、遠慮がちに扉がノックされた。
コンコン
誰か分からない不安が押し寄せ、心臓の音がバクバクと響き渡る中、聞こえてきたのは想像もしていなかった人の声だった。
「ミッチェル……」
「お母様……っ!?」
この塔に閉じ込められてから、ずっと聞くことのなかった声に、僕は一瞬状況が理解できずに固まってしまったけど、すぐその声がお母様だと理解し、思わず大きな声をあげた。
「扉を開けても……?」
戸惑いや遠慮というものが含まれたような声に、僕は大きくうなずいた。無言でうなずいたところでお母様には伝わらないのに、久しぶりに聞いたお母様の声に胸が一杯になって言葉が出なかった。
「どうぞ、開けてください……」
やっと絞り出した返事を確認したのか、ガチャっと鍵を開ける音がして、ゆっくりと扉が開かれた。そこには、二年半ぶりのお母様の姿があった。
「……お母様っ!!」
僕は感極まって、思わずお母様に抱きつき、『お母様』と何度も呼びかけながら、小さな子どもに戻ったかのように、わんわんと声を上げて泣いた。
お母様は、そんな僕を突き放すことなく、ただ黙って、背中を静かにポンポンと優しく撫で続けてくれた。
「ミッチェル、会いたかったわ。……寂しい思いをさせてしまって、ごめんなさい……。あの時は、ああするしかなかったの……。でも、ずっと会いたかった」
お母様の声は震えていて、あの日の後悔の念が伝わってきて、僕の心に深く響いた。
『僕もお母様に会いたかったです』って伝えたいのに、涙が止まらない僕の口からは嗚咽ばかりで言葉が出て来ることはなく、ただお母様の温もりに包まれひたすら涙を流していた。
もしかしたら、家都合の政略結婚のために僕をここから連れ出し、もう二度と戻ってこないようにと言うためにここへ来たのかもしれない。
でもなぜか僕は、そんな可能性は一ミリも考えず、お母様が僕に会いに来てくれたんだと信じて疑わなかった。
ここに閉じ込められたあの日からずっと緊張したままだった心が、お母様の匂いと温もりに包まれて、久しぶりに心の底から安らぎを得たような気がした。
137
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。
「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。
「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」
戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。
そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。
なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか?
その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。
これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
a life of mine ~この道を歩む~
野々乃ぞみ
BL
≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫
第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ
主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック
【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~
必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。
異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。
二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。
全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 閑話休題以外は主人公視点です。
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる