【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

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31. 塔の中の光

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 返事のないフレッドのそばを離れたくなくて、すがるようにしがみついていたけど、無理やり引き剥がされ、再び塔の部屋へ押し戻された。

 『疫病神が……』そう吐き捨てて部屋に鍵をかけたお父様の冷たい視線が、何度も脳裏を横切る。
 愛息子に対する視線ではなく、『最悪なオメガ』に対する軽蔑した視線だった。


 再び塔の部屋に閉じ込められたけれど、今まで感じていた、『ここから出られないかもしれない』という絶望感などは、もうどうでもよかった。
 僕がただ願うのは、フレッドの無事だけ。フレッドが無事ならば、僕はもうどうなってもよい。

「フレッド……無事でいて……」

 食事を届けに来る使用人に、何度もフレッドのことを尋ねたのに、返ってくるのは無言のままの冷たい視線だけだった。
 彼らもこの屋敷に仕える身だから、お父様の命令には逆らえないのだろう。

 僕は唯一の光が差し込む窓の下へ移動し、壁へ背を預け膝を抱えて座り込んだ。そっと目を閉じると前世の記憶が頭をよぎる。
 リクが僕を庇って倒れた時のこと、そして今、フレッドが同じように僕を守ってくれたこと。

「どうして……どうして僕は、みんなを不幸にしてしまうんだろう……」

 涙が頬を伝い、冷たい床に落ちる。

「やっぱり、僕がオメガだから……」

 何度も心の中に問いかけるけれど、たどり着く答えは、いつも同じだった。





 フィルが僕を連れ出すことに失敗して、また塔の部屋に戻されてからどのくらいたったのだろうか。相変わらず、フレッドの容態はわからない。

 変わったことといえば、扉の前に監視役をつけられたこと。常に使用人がひとり立っている。
 ずっと立ち続けているのが気になって、部屋にある椅子を扉の前に持っていき、『ここに座って』と言うけれど、反応はなく、ただ無言でその場に立っていた。それが彼の仕事なのだから当然なのだけど。

 窓から見える空がオレンジ色に染まる頃、食事が運ばれてきた。扉の前で軽くやり取りする声が微かに聞こえる。
 食事を運んでくる者と、部屋の中まで配膳する者は違うらしい。配膳は、いつも監視役をしている使用人だった。

「お食事です」
「ありがとう。……何度もごめんね。せめて、フレッドの無事だけでも知りたいんだ」
「……」
「君の立場が悪くなるようなことはしないよ。誰に聞いたとは言わずに黙ってる。ただ、フレッドが心配なだけなんだ」

 この部屋に人が入ってくるのは、一日に一度の食事の時だけだ。直接話しかけるチャンスもたった一度しかないということになる。
 使用人の彼には申し訳ないけど、しつこいくらいにフレッドの具合を尋ねている。もう何日目になるだろうか。

 「…………彼は……」

 今まで頑なに業務上必要のある言葉しか口にしなかった使用人が、ボソリと口を開いた。

「えっ?!」

 驚いて目を見開き彼を見ると、僕と視線を合わせないまま、続きの言葉を僕に伝えてくれた。

「……無事です」
「…………っ!」

 彼の言葉に、一瞬息が止まったかのようだった。
 もちろんフレッドの無事を信じていた。でも何の情報もない中、今日が何日で、あの事故からどのくらいの時間が過ぎたのかもわからず、不安だけが募っていた。
 今日もだめだろうなと思いながらも、藁をも掴む思いで話しかけたら、フレッドの無事を聞くことができた。

「無事……なんだね。……教えてくれてありがとう……」

 僕の瞳からは、静かに涙が伝い落ちる。
 良かった。本当に良かった。

 また、大切な人を失うところだった。

 胸に手を当てて、自分の心の声に、改めて思いを重ねる。
 失うかもしれないと思った時、初めて自分の気持ちをハッキリと自覚した。

「僕は、フレッドのことが好きなんだ……」

 言葉に出し、ゆっくりと思いを吐き出す。それと同時に、心の真ん中に、ぽっと暖かい光が灯るのを感じた。
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