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45. 可愛い弟
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「フィル、どう? 少しは落ち着いた?」
僕は、相変わらず胸の中にすっぽり収まったままのフィルに向かって話しかけた。
双子として一緒に育ってきた僕たちだけど、今では何もかもが違っている。それでも小さな頃と同じように、こうやって僕に甘える可愛い弟ということだけは、変わらない。
前世の記憶を持ったまま、七歳の時にこの世界に転生してきた僕だけど、ある時を境に、本物のミッチェルのものだと思われる記憶が、脳内をよぎるようになってきた。
『あなたはまだオメガに偏見を持っているのですか?』
『偏見などではない、真実だ』
『オメガだって同じ人間です。尊重されるべきです』
『あの怪しい香りで人を誘惑したぶらかす生き物が、人として扱われるわけがないだろう』
一番古い記憶なのかもしれない。印象が強く忘れられないのは、お父様とお母様が言い合いをしている声。
おそらく、両親が話している内容は理解できず、その時の音声だけが記憶に残っているのだと思う。
その中に十八歳の記憶を持った僕が転生して入り込んだことで、記憶の中のセリフの意味を理解するようになった。
子どもたちの前では常に穏やかで、仲睦まじい二人。だけどこの日の両親はいつもと様子が違って、僕たちは理由もわからず隣の部屋で二人抱き合って身を縮めていた。
不安がるフィルが少しでも安心できるようにと、僕がフィルを守るように抱きしめたまま、舌っ足らずの「だいじょうぶ」を一生懸命に伝えていた。──今この時と同じように。
「……うん」
どのくらい僕の腕の中にいただろうか。やっとフィルは顔を上げた。
「ミッチの腕の中、やっぱり安心するなぁ……」
まだ目の赤みの取れていない状態で、フィルは弱々しい笑顔を作った。
「僕も、久しぶりにフィルのぬくもりを感じられて嬉しいよ」
「うん、僕も嬉しい」
傷が癒えるにはもう少し時間がかかるだろうけど、フィルなら大丈夫。泣き虫で甘えん坊だけど、芯はしっかりした子だから、前を向いて、着実に歩いていけるはずだ。
「ねぇ、ミッチ。今日はこの部屋に泊まって良い?」
「寮は大丈夫なの? ……それに、お父様が何と言うか……」
フィルと一緒にいられるのは嬉しいけど、お父様の顔が脳裏をよぎる。オメガの僕の存在を隠したがるお父様は、フィルと僕が会うのを快く思っていない。だから見つかったら何を言われるかわからない。
「……コニー……の家に、行ってるみたいだから、大丈夫……」
元婚約者の名前を口にしたフィルは、一瞬悲しい顔を見せたけど、無理やり笑顔を作った。そして僕の頬をぐにっと引っ張り、パッと手を離した。
「いたっ……。なにすんだよ、フィル!」
「ミッチは僕の大切な双子の兄なの! 一緒にいてなにが悪いの!? 僕は誰がなんと言おうと、ミッチと一緒にいるからね!」
そう言いながら、引っ張った頬を今度は両手でギューッと挟み込む。
僕はギブアップというように、わかったわかったから! と挟まれた状態でうんうんと首を縦に振った。
「わかったなら、よし!」
フィルは何故か偉そうにそう言うと、満足そうに微笑んだ。
先程の無理やり作った笑顔ではなく、いつもの無邪気で可愛いフィルの笑顔だった。
コンコン
タイミング良く、扉がノックされた。
「ふたりとも、食事を用意しましたよ」
そう言いながら、お母様が自らトレイを運んできた。
「今日はこの離れで、ふたりきりでゆっくり過ごすと良いわ」
お母様はそう言いながら、パンとひよこ豆のスープとりんごのサラダ。そして温めたハーブティーをテーブルに乗せた。
「食べ終えたら、廊下に出しておいてね。……たまには夜ふかしも良いかもしれないわね」
ふふふっと笑うと、お母様はそのまま扉を出ていった。
そんなお母様を見送りながら、僕たちも二人顔を見合わせて「たまには夜ふかしも良いよね」と笑いあった。
僕は、相変わらず胸の中にすっぽり収まったままのフィルに向かって話しかけた。
双子として一緒に育ってきた僕たちだけど、今では何もかもが違っている。それでも小さな頃と同じように、こうやって僕に甘える可愛い弟ということだけは、変わらない。
前世の記憶を持ったまま、七歳の時にこの世界に転生してきた僕だけど、ある時を境に、本物のミッチェルのものだと思われる記憶が、脳内をよぎるようになってきた。
『あなたはまだオメガに偏見を持っているのですか?』
『偏見などではない、真実だ』
『オメガだって同じ人間です。尊重されるべきです』
『あの怪しい香りで人を誘惑したぶらかす生き物が、人として扱われるわけがないだろう』
一番古い記憶なのかもしれない。印象が強く忘れられないのは、お父様とお母様が言い合いをしている声。
おそらく、両親が話している内容は理解できず、その時の音声だけが記憶に残っているのだと思う。
その中に十八歳の記憶を持った僕が転生して入り込んだことで、記憶の中のセリフの意味を理解するようになった。
子どもたちの前では常に穏やかで、仲睦まじい二人。だけどこの日の両親はいつもと様子が違って、僕たちは理由もわからず隣の部屋で二人抱き合って身を縮めていた。
不安がるフィルが少しでも安心できるようにと、僕がフィルを守るように抱きしめたまま、舌っ足らずの「だいじょうぶ」を一生懸命に伝えていた。──今この時と同じように。
「……うん」
どのくらい僕の腕の中にいただろうか。やっとフィルは顔を上げた。
「ミッチの腕の中、やっぱり安心するなぁ……」
まだ目の赤みの取れていない状態で、フィルは弱々しい笑顔を作った。
「僕も、久しぶりにフィルのぬくもりを感じられて嬉しいよ」
「うん、僕も嬉しい」
傷が癒えるにはもう少し時間がかかるだろうけど、フィルなら大丈夫。泣き虫で甘えん坊だけど、芯はしっかりした子だから、前を向いて、着実に歩いていけるはずだ。
「ねぇ、ミッチ。今日はこの部屋に泊まって良い?」
「寮は大丈夫なの? ……それに、お父様が何と言うか……」
フィルと一緒にいられるのは嬉しいけど、お父様の顔が脳裏をよぎる。オメガの僕の存在を隠したがるお父様は、フィルと僕が会うのを快く思っていない。だから見つかったら何を言われるかわからない。
「……コニー……の家に、行ってるみたいだから、大丈夫……」
元婚約者の名前を口にしたフィルは、一瞬悲しい顔を見せたけど、無理やり笑顔を作った。そして僕の頬をぐにっと引っ張り、パッと手を離した。
「いたっ……。なにすんだよ、フィル!」
「ミッチは僕の大切な双子の兄なの! 一緒にいてなにが悪いの!? 僕は誰がなんと言おうと、ミッチと一緒にいるからね!」
そう言いながら、引っ張った頬を今度は両手でギューッと挟み込む。
僕はギブアップというように、わかったわかったから! と挟まれた状態でうんうんと首を縦に振った。
「わかったなら、よし!」
フィルは何故か偉そうにそう言うと、満足そうに微笑んだ。
先程の無理やり作った笑顔ではなく、いつもの無邪気で可愛いフィルの笑顔だった。
コンコン
タイミング良く、扉がノックされた。
「ふたりとも、食事を用意しましたよ」
そう言いながら、お母様が自らトレイを運んできた。
「今日はこの離れで、ふたりきりでゆっくり過ごすと良いわ」
お母様はそう言いながら、パンとひよこ豆のスープとりんごのサラダ。そして温めたハーブティーをテーブルに乗せた。
「食べ終えたら、廊下に出しておいてね。……たまには夜ふかしも良いかもしれないわね」
ふふふっと笑うと、お母様はそのまま扉を出ていった。
そんなお母様を見送りながら、僕たちも二人顔を見合わせて「たまには夜ふかしも良いよね」と笑いあった。
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