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44. 離れでの涙
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季節は移りゆき、秋の気配が漂う頃となっていた。
僕が七歳でこの世界に転生してきてから、九年の時が過ぎ、僕は十六歳になった。
こちらの世界に随分馴染んだけれど、それでも思い出すのは前世の恋人の『リク』の笑顔。
けれど、今もなお、リクとの再会は叶わないまま。夢物語かもしれないけど、僕はリクも同じ世界に転生していると信じているんだ。
リクが約束を破ったことなんて、一度もなかった。だから、絶対僕に会いに来てくれるはずだ。
でも、九年の月日が流れても、リクは僕のそばにいない。
リクはもう、僕との約束を忘れちゃったのかな……?
僕は時折しまってある指輪を取り出しては、リクへの思いを募らせていた。
僕は相変わらず、指定された場所以外で使用人業務をすることはなく、人目につかない場所の掃除をしていた。
そしてお父様が確実に戻ってこないとわかる日は、もう少しだけ行動範囲を広げることが許されていた。
書斎の掃除を済ませ、移動しようとしたところ「エミ、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」と、声をかけられた。
「お花が好きだから、ここのお世話はあなたにちょうどよいと思ったのよ」
僕を呼んだのはお母様で、今日は使用人のひとりがお休みなので、中庭の手入れもしてほしいとのことだった。
体の弱かった僕は、外遊びがあまりできなかったせいか、中庭で土を触るのが好きだった。心を込めれば込めるほど、花はそれに答えるように、きれいに咲いてくれる。
今日は久しぶりに、庭の花たちに会えた。使用人たちが忙しい中でも心を込めてお世話をしてくれるのだろう。とても美しく咲き誇っていた。
使用人にも、休日はある。現在のハイネル家の使用人は最小限の人数なため、休んでしまうと仕事が回らないのではと心配をしてしまう。けれど、なんとか残りの使用人たちで助け合ってこなしていく。
それに来客などは、どうしても必要な場合以外は、お断りしている。貴族としてどうなのかと問われると、存続が危ういと疑われてしまう可能性もあり、好ましいことではないけど、現状ではそれも仕方がなかった。
フィルが正式に結婚すれば、この状況も改善されるのだろうと皆信じて、今を乗り切ろうと頑張っていた。
そう。頑張っていたのだけど──。
「フィルの、婚約が白紙になったわ……」
お母様の一言で、ハイネル家は一気に暗雲に包まれた。
◇
「僕たち、うまくやっていけると思ったのになぁ……」
離れのベッドの上で、僕の胸に顔を埋めたままのフィルは、鼻をズビズビ鳴らしながら言った。
フィルの婚約が白紙になったと聞き、衝撃を受けた僕はそこが中庭だということを忘れて「なぜ?」「どうして?」と、お母様に詰め寄った。
もちろんお母様を責めたところで仕方がないのはわかっているけど、このやりきれない思いをどこにぶつけたらいいのか分からなかった。
しばらくして、少し落ち着きを取り戻した僕は、お母様と一緒に離れに移動した。そこで待っていたのは、目を真っ赤にして泣き腫らしたフィルだった。お母様は、『フィラットをお願いね』と言って、その場を離れた。
フィルは正式に婚約者となったコニーと交流を重ね、徐々に距離を縮めていた。政略結婚だけど、周りからも仲睦まじく見えていたと言う。だから、このままうまくいくと信じていたのに……。
「大丈夫、大丈夫だよ……」
何が大丈夫なのだろう……そう思うけれど、今の僕にはフィルにかけてあげられる言葉が、それしか見つからなかった。
小さな頃から、フィルが僕に泣きついてきた時はこうやって抱きしめて、背中をぽんぽんしながら「大丈夫だよ」そう言って安心させていた。
今も、僕にできることはそれくらいしかない。フィルの気持ちが少しでも落ち着くまで、こうやって「大丈夫」と伝えよう。
大切な僕の弟。双子の片割れの痛みを、辛さを、少しでも分け合えるように……。
僕が七歳でこの世界に転生してきてから、九年の時が過ぎ、僕は十六歳になった。
こちらの世界に随分馴染んだけれど、それでも思い出すのは前世の恋人の『リク』の笑顔。
けれど、今もなお、リクとの再会は叶わないまま。夢物語かもしれないけど、僕はリクも同じ世界に転生していると信じているんだ。
リクが約束を破ったことなんて、一度もなかった。だから、絶対僕に会いに来てくれるはずだ。
でも、九年の月日が流れても、リクは僕のそばにいない。
リクはもう、僕との約束を忘れちゃったのかな……?
僕は時折しまってある指輪を取り出しては、リクへの思いを募らせていた。
僕は相変わらず、指定された場所以外で使用人業務をすることはなく、人目につかない場所の掃除をしていた。
そしてお父様が確実に戻ってこないとわかる日は、もう少しだけ行動範囲を広げることが許されていた。
書斎の掃除を済ませ、移動しようとしたところ「エミ、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」と、声をかけられた。
「お花が好きだから、ここのお世話はあなたにちょうどよいと思ったのよ」
僕を呼んだのはお母様で、今日は使用人のひとりがお休みなので、中庭の手入れもしてほしいとのことだった。
体の弱かった僕は、外遊びがあまりできなかったせいか、中庭で土を触るのが好きだった。心を込めれば込めるほど、花はそれに答えるように、きれいに咲いてくれる。
今日は久しぶりに、庭の花たちに会えた。使用人たちが忙しい中でも心を込めてお世話をしてくれるのだろう。とても美しく咲き誇っていた。
使用人にも、休日はある。現在のハイネル家の使用人は最小限の人数なため、休んでしまうと仕事が回らないのではと心配をしてしまう。けれど、なんとか残りの使用人たちで助け合ってこなしていく。
それに来客などは、どうしても必要な場合以外は、お断りしている。貴族としてどうなのかと問われると、存続が危ういと疑われてしまう可能性もあり、好ましいことではないけど、現状ではそれも仕方がなかった。
フィルが正式に結婚すれば、この状況も改善されるのだろうと皆信じて、今を乗り切ろうと頑張っていた。
そう。頑張っていたのだけど──。
「フィルの、婚約が白紙になったわ……」
お母様の一言で、ハイネル家は一気に暗雲に包まれた。
◇
「僕たち、うまくやっていけると思ったのになぁ……」
離れのベッドの上で、僕の胸に顔を埋めたままのフィルは、鼻をズビズビ鳴らしながら言った。
フィルの婚約が白紙になったと聞き、衝撃を受けた僕はそこが中庭だということを忘れて「なぜ?」「どうして?」と、お母様に詰め寄った。
もちろんお母様を責めたところで仕方がないのはわかっているけど、このやりきれない思いをどこにぶつけたらいいのか分からなかった。
しばらくして、少し落ち着きを取り戻した僕は、お母様と一緒に離れに移動した。そこで待っていたのは、目を真っ赤にして泣き腫らしたフィルだった。お母様は、『フィラットをお願いね』と言って、その場を離れた。
フィルは正式に婚約者となったコニーと交流を重ね、徐々に距離を縮めていた。政略結婚だけど、周りからも仲睦まじく見えていたと言う。だから、このままうまくいくと信じていたのに……。
「大丈夫、大丈夫だよ……」
何が大丈夫なのだろう……そう思うけれど、今の僕にはフィルにかけてあげられる言葉が、それしか見つからなかった。
小さな頃から、フィルが僕に泣きついてきた時はこうやって抱きしめて、背中をぽんぽんしながら「大丈夫だよ」そう言って安心させていた。
今も、僕にできることはそれくらいしかない。フィルの気持ちが少しでも落ち着くまで、こうやって「大丈夫」と伝えよう。
大切な僕の弟。双子の片割れの痛みを、辛さを、少しでも分け合えるように……。
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