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62. 慈善事業
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再び泣き出してしまった僕を、フレッドはごめんと大丈夫を繰り返しながら、優しく撫でてくれた。
もとはと言えば、僕の心無い言葉が原因だった。フレッドはただ僕を助けたいという一心で行動を起こしただけなのに、その僕が、婚約の取り消しはまだ間に合うからなんていってしまったんだ。声を荒げてしまうのは無理もない。フレッドが謝る必要なんてこれっぽっちもない。
それでも、フレッドはごめんと大丈夫を繰り返す。
そしてやっと僕が落ち着いたのを感じて、抱きしめている腕を緩めた。
「ごめんね、びっくりしちゃって……」
「俺の配慮が足りなかった。公爵家まで巻き込んでのことだと考えると、驚くよな。……でも、俺の気持ちは変わらないよ。ミッチと二人で、アーホルン公爵家を守り、ハイネル伯爵家の再建と、より良くするために尽力していきたいんだ」
「そう、だよね……」
僕は目を真っ赤に腫らしたまま、フレッドを見て力なく笑みを浮かべた。
フレッドは、僕の様子を気にしながらも、続きの話をした。
ハイネル家を出て程なくして、ひとりの人物が訪ねてきた。それはフレッドと同じく、ハイネル家で使用人をしていたペーターだった。
僕が塔の部屋を出るのと同じくらいのタイミングで、使用人をやめさせられたのだけど、お母様に呼び止められたらしい。
ペーターは僕がオメガで、お父様からの命令であの塔の部屋に閉じ込められたことも知っている。なのでお母様は、フレッドとともに、お父様についての調査をするように指示をしたそうだ。
ことあるごとに、ミッチは大丈夫だろうかと心配をするので、ペーターはフレッドからの言伝を、代わりに伝えてくるとハイネル家へ向かった。フレッドが裏で動いていることはまだ伏せていたので、名前を言えずに申し訳ないとペーターは気にしていたそうだ。
けれど、あの時ペーターが訪ねてきてくれて、必ず助けに来るから待っていてほしいと言われた言葉は、本当に励みになった。もしかしたらフレッドかもしれないという期待が、さらに僕に生きる希望を与えていた。
「調査の中で、色々と判明したんだ。旦那様がお一人で決めたフィルの婚約相手の家の、リヒター公爵家。あの家はまず、自分たちの豪遊のための金遣いが荒かった。公爵家なのに財政難で、どうしようかと思案しているうちに、ハイネル家がアルファの婿探しをしていると知った。そこでうまく話をまとめ婚約に至った。婚約前から、結婚資金や慈善事業などと称して、次から次へと金の請求をされた。そこで困った旦那様は、使用人を減らし始めたんだ」
「だから、僕が使用人としてでもいいから塔の部屋を出たいと言ったら、出してもらえたんだね」
「格上の公爵家とつながりを持つことは、ハイネル家にとっては箔も付くし、他の繋がりも持てるから、この婚約は願ったり叶ったりだった。多少お金がかかってもと思っていたのに、想定外だったんだろうな」
挙句の果てに、急に婚約が白紙となった。フィルに婚約を破棄されるような規約違反も心当たりがないし、コニーになにかあったとしか思えない。けどそれならば、違約金が発生して、ハイネル家が請求できるはずだ。なのに、お父様は無条件で白紙とした。
「その問題は後々調べるとして、問題はそのリヒター公爵家なんだ」
「……犯罪に……?」
恐る恐る口にした僕の言葉に、フレッドは力強くうなずいた。
「リヒター公爵家が慈善事業として資金援助をしていた孤児院が、裏では孤児の労働力の搾取、時には人身売買にあたるような行為をしていたんだ」
「どうして、そんな……」
「身寄りがなかったり、親に見放されたりした子供というのをいいことに、孤児の働き先として斡旋していたんだ。時には待遇の良い家もあったが、たいていは奴隷のような扱いをするものが多かった」
「え……それって……」
「そう。……俺の育ったグレース孤児院も、その中のひとつだ……」
フレッドの表情は曇り、僕は言葉を失った。
もとはと言えば、僕の心無い言葉が原因だった。フレッドはただ僕を助けたいという一心で行動を起こしただけなのに、その僕が、婚約の取り消しはまだ間に合うからなんていってしまったんだ。声を荒げてしまうのは無理もない。フレッドが謝る必要なんてこれっぽっちもない。
それでも、フレッドはごめんと大丈夫を繰り返す。
そしてやっと僕が落ち着いたのを感じて、抱きしめている腕を緩めた。
「ごめんね、びっくりしちゃって……」
「俺の配慮が足りなかった。公爵家まで巻き込んでのことだと考えると、驚くよな。……でも、俺の気持ちは変わらないよ。ミッチと二人で、アーホルン公爵家を守り、ハイネル伯爵家の再建と、より良くするために尽力していきたいんだ」
「そう、だよね……」
僕は目を真っ赤に腫らしたまま、フレッドを見て力なく笑みを浮かべた。
フレッドは、僕の様子を気にしながらも、続きの話をした。
ハイネル家を出て程なくして、ひとりの人物が訪ねてきた。それはフレッドと同じく、ハイネル家で使用人をしていたペーターだった。
僕が塔の部屋を出るのと同じくらいのタイミングで、使用人をやめさせられたのだけど、お母様に呼び止められたらしい。
ペーターは僕がオメガで、お父様からの命令であの塔の部屋に閉じ込められたことも知っている。なのでお母様は、フレッドとともに、お父様についての調査をするように指示をしたそうだ。
ことあるごとに、ミッチは大丈夫だろうかと心配をするので、ペーターはフレッドからの言伝を、代わりに伝えてくるとハイネル家へ向かった。フレッドが裏で動いていることはまだ伏せていたので、名前を言えずに申し訳ないとペーターは気にしていたそうだ。
けれど、あの時ペーターが訪ねてきてくれて、必ず助けに来るから待っていてほしいと言われた言葉は、本当に励みになった。もしかしたらフレッドかもしれないという期待が、さらに僕に生きる希望を与えていた。
「調査の中で、色々と判明したんだ。旦那様がお一人で決めたフィルの婚約相手の家の、リヒター公爵家。あの家はまず、自分たちの豪遊のための金遣いが荒かった。公爵家なのに財政難で、どうしようかと思案しているうちに、ハイネル家がアルファの婿探しをしていると知った。そこでうまく話をまとめ婚約に至った。婚約前から、結婚資金や慈善事業などと称して、次から次へと金の請求をされた。そこで困った旦那様は、使用人を減らし始めたんだ」
「だから、僕が使用人としてでもいいから塔の部屋を出たいと言ったら、出してもらえたんだね」
「格上の公爵家とつながりを持つことは、ハイネル家にとっては箔も付くし、他の繋がりも持てるから、この婚約は願ったり叶ったりだった。多少お金がかかってもと思っていたのに、想定外だったんだろうな」
挙句の果てに、急に婚約が白紙となった。フィルに婚約を破棄されるような規約違反も心当たりがないし、コニーになにかあったとしか思えない。けどそれならば、違約金が発生して、ハイネル家が請求できるはずだ。なのに、お父様は無条件で白紙とした。
「その問題は後々調べるとして、問題はそのリヒター公爵家なんだ」
「……犯罪に……?」
恐る恐る口にした僕の言葉に、フレッドは力強くうなずいた。
「リヒター公爵家が慈善事業として資金援助をしていた孤児院が、裏では孤児の労働力の搾取、時には人身売買にあたるような行為をしていたんだ」
「どうして、そんな……」
「身寄りがなかったり、親に見放されたりした子供というのをいいことに、孤児の働き先として斡旋していたんだ。時には待遇の良い家もあったが、たいていは奴隷のような扱いをするものが多かった」
「え……それって……」
「そう。……俺の育ったグレース孤児院も、その中のひとつだ……」
フレッドの表情は曇り、僕は言葉を失った。
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