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64. 和解
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お母様たちが国王陛下のもとへ行き、リヒター公爵家の不審な動きについての報告をしてから、一ヶ月ほどが過ぎていた。フィルは新学期が始まるため、戻ってきてからすぐに、家のことを気にしながらも慌ただしく寮に戻っていった。
今までフレッドとペーターが調べてきたことについては、国王陛下に報告の上資料は提出済みで、あとは国王陛下の側近たちが引き続き調査を行うらしい。
ただ、フィルの婚約についての真相も、フレッドの斡旋先の男爵家のことも、まだ不明な点が多いため、ハイネル家とアーホルン公爵家でも独自に調査は続行していると言っていた。
「ミッチェル様、おはようございます」
声をかけてきたのは、ペーターだった。
いつもより朝早くに目が覚めてしまった僕は、中庭に出て散歩をしていた。
ペーターはフレッドの従者となっているため、アーホルン公爵家の使用人のはずだけど、ハイネル家の建て直しのために派遣されている。だから、ハイネル家の使用人たちと寝食を共にしていて、僕たちとも顔を合わせる機会は多い。
「ペーター、おはよう」
「少しお時間よろしいですか?」
「え? ……いいけど、どうしたの?」
「大切なお話があると、奥様がお呼びです。書斎でお待ちなので、さあ行きましょう」
「あ、うん」
大切な話って何だろう? 少し不安に思いながら、ペーターの後について書斎へ向かった。ここは、先日お父様も含めて家族会議が行われた書斎だ。
部屋の中に入ると、学院に戻っているはずのフィルとお父様とお母様とフレッドが待っていた。
「あれ? フィル、どうしてここに?」
「……私が、説明する」
僕の問いかけに返事をしたのは、お父様だった。
「え、お父様が……?」
「ああ。話をするから、皆、席についてくれないか」
お父様に促され、僕たちは全員席についた。先日進行役としてフィルが座っていた場所にお父様が座り、お父様が座っていた場所にはフィルが座った。
「まずは、最初に謝らせて欲しい」
お父様は、皆が着席したのを確認してから、僕の方を見た。昔のようにやわらかい視線だった。こんなに優しい瞳で見つめられたのは、どのくらい振りだろうか。それだけで僕の心は高鳴った。
「ミッチェル。……つらい思いをさせてしまって、すまなかった」
お父様が僕に向かって深々と頭を下げたから、びっくりして慌てて僕は立ち上がった。
「お、お父様! 何なさってんですか! ……顔を、顔を上げてくださいっ」
僕は必死に声を上げ、懇願するように言った。予想外のお父様の行動に、あたふたと慌て、思わずお父様の肩をガシッと掴んでしまった。
「あ! ご、ごめんなさい!」
パッと手を離し、距離を取る。
「いやいいんだ。気にしなくていい」
お父様は、少し気まずそうにしながらも、慌てる僕を見て、目を細めた。
「ミッチェルは、いつもニコニコ微笑んでいる子だったね。……それを私が、変えてしまった。……本当にすまなかった……」
「お父様! 僕は今でも元気です。毎日ニコニコと楽しく生活をしています! ……だから、お父様も笑っていてください。僕は大丈夫です」
あまりにもお父様がせつなそうな顔をするので、僕は周りの目を気にせず、お父様に抱きついてしまった。
子供の頃ならまだしも、17歳にもなって、一家の主でありこのあたりの領土一体を治める当主に対して取る行動ではない。それでも僕は、お父様から離れようとはしなかった。
「……ミッチェルを、こうやって抱きしめたのは、いつぶりだろうな……」
僕が抱きついたのに驚いたお父様だったけど、優しく僕を抱きしめ返してくれた。
「アーホルン公爵家の話を聞いて、私は驚愕したよ。こうも考えが違うものなのかと。……けれど、私は身を持って体験した。差別感情ほど愚かなものはないと。……私は、これからは考えを改め、誰もが平等にすごせるように、微力ながら手伝っていけたらと思う」
「……お父様!」
僕はお父様の言葉に、涙をこらえながら呼びかけるのが精一杯だった。
今までフレッドとペーターが調べてきたことについては、国王陛下に報告の上資料は提出済みで、あとは国王陛下の側近たちが引き続き調査を行うらしい。
ただ、フィルの婚約についての真相も、フレッドの斡旋先の男爵家のことも、まだ不明な点が多いため、ハイネル家とアーホルン公爵家でも独自に調査は続行していると言っていた。
「ミッチェル様、おはようございます」
声をかけてきたのは、ペーターだった。
いつもより朝早くに目が覚めてしまった僕は、中庭に出て散歩をしていた。
ペーターはフレッドの従者となっているため、アーホルン公爵家の使用人のはずだけど、ハイネル家の建て直しのために派遣されている。だから、ハイネル家の使用人たちと寝食を共にしていて、僕たちとも顔を合わせる機会は多い。
「ペーター、おはよう」
「少しお時間よろしいですか?」
「え? ……いいけど、どうしたの?」
「大切なお話があると、奥様がお呼びです。書斎でお待ちなので、さあ行きましょう」
「あ、うん」
大切な話って何だろう? 少し不安に思いながら、ペーターの後について書斎へ向かった。ここは、先日お父様も含めて家族会議が行われた書斎だ。
部屋の中に入ると、学院に戻っているはずのフィルとお父様とお母様とフレッドが待っていた。
「あれ? フィル、どうしてここに?」
「……私が、説明する」
僕の問いかけに返事をしたのは、お父様だった。
「え、お父様が……?」
「ああ。話をするから、皆、席についてくれないか」
お父様に促され、僕たちは全員席についた。先日進行役としてフィルが座っていた場所にお父様が座り、お父様が座っていた場所にはフィルが座った。
「まずは、最初に謝らせて欲しい」
お父様は、皆が着席したのを確認してから、僕の方を見た。昔のようにやわらかい視線だった。こんなに優しい瞳で見つめられたのは、どのくらい振りだろうか。それだけで僕の心は高鳴った。
「ミッチェル。……つらい思いをさせてしまって、すまなかった」
お父様が僕に向かって深々と頭を下げたから、びっくりして慌てて僕は立ち上がった。
「お、お父様! 何なさってんですか! ……顔を、顔を上げてくださいっ」
僕は必死に声を上げ、懇願するように言った。予想外のお父様の行動に、あたふたと慌て、思わずお父様の肩をガシッと掴んでしまった。
「あ! ご、ごめんなさい!」
パッと手を離し、距離を取る。
「いやいいんだ。気にしなくていい」
お父様は、少し気まずそうにしながらも、慌てる僕を見て、目を細めた。
「ミッチェルは、いつもニコニコ微笑んでいる子だったね。……それを私が、変えてしまった。……本当にすまなかった……」
「お父様! 僕は今でも元気です。毎日ニコニコと楽しく生活をしています! ……だから、お父様も笑っていてください。僕は大丈夫です」
あまりにもお父様がせつなそうな顔をするので、僕は周りの目を気にせず、お父様に抱きついてしまった。
子供の頃ならまだしも、17歳にもなって、一家の主でありこのあたりの領土一体を治める当主に対して取る行動ではない。それでも僕は、お父様から離れようとはしなかった。
「……ミッチェルを、こうやって抱きしめたのは、いつぶりだろうな……」
僕が抱きついたのに驚いたお父様だったけど、優しく僕を抱きしめ返してくれた。
「アーホルン公爵家の話を聞いて、私は驚愕したよ。こうも考えが違うものなのかと。……けれど、私は身を持って体験した。差別感情ほど愚かなものはないと。……私は、これからは考えを改め、誰もが平等にすごせるように、微力ながら手伝っていけたらと思う」
「……お父様!」
僕はお父様の言葉に、涙をこらえながら呼びかけるのが精一杯だった。
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