置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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3話 再会

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「お疲れ様でした~」
「美咲先生、お疲れ~」
 幼稚園の職員室を出て、図書館の近くの交番へと向かう。手帳を交番に届けるだけなのに、向かうバスの車内でソワソワしている自分がいた。

 お目当ての交番前に到着した。
 交番前は通行人が行き交うだけで、交番にお巡りさん以外いない。
 ガッカリしたような、良かったような……複雑な気持ちが胸を締め付ける。
 一般企業の就業時間は17時終わりなのだから、17時前に蓮が来ているわけがないのに、期待していた自分がバカみたいだ。いや、期待しているのもおかしい話だ。
 手帳を持ち主に返す。これが重要なだけで、会うことが目的ではないのだから。

「こんにちは」
 交番に入り、お巡りさんに落とし物を届けに来たこと。持ち主の方の名刺があったので、今日交番に届けることを相手に連絡した旨を伝えていると、交番の外のお巡りさんの声が聞こえてきた。
「橘蓮さんですね。落とし物が届いていないかすぐに確認しますね」
 と、外のお巡りさんが入ってきた。
 そして、その後ろには蓮がいた。
「橘蓮さん?あぁ、ちょうど良かった。こちらの女性が手帳を届けてくれましたよ」
 私の目の前のお巡りさんが蓮に話しかける。
 突然のことで、固まってしまい、蓮の方を振り向けないでいた。
前のお巡りさんが話しかけてくる「立花さん?」
「え?」
「規則上、拾得届と返還承諾書に記載いただくことになりますので、こちらに記入をお願いします。橘さんも受領書と返還書を記入いただきますので、こちらに座って下さい」
 蓮が隣の椅子に座る。
 どきどきして隣が見れない。
 とにかく、隣は見ずに、お巡りさんに渡された書類に必要事項を書いた。
 ペンの走る音がする。
 お巡りさんと蓮が何かやり取りをしているが、頭には入ってこなかった。

 無事、手帳は蓮へと返された。
 二人で交番に出ると、蓮がなぜかスマホ画面を私に見せた。
『美咲だよな?』
 今までうつむいて、彼を見ないようにしていたが、咄嗟のことで思わず顔を上げてしまった。
 彼の温かい笑顔がそこにあった。
『少し話さないか?』
 またスマホ画面を見せてきた。
 今さら……話なんて……。
『あのときのことを説明させてほしい』
 真剣な瞳でこちらを見てくる。
 私は思わず頷いていた。


 ◇◇◇


 お互いに何も言わず、近くのファミレスに入り、店員さんに案内され席に座る。
 気まずい……。
 蓮はテーブルに備え付けのタブレットを操作して、コーヒーを頼んでいた。私にタブレットを手渡し、スマホには『奢るから好きなの頼んで』と書いてあった。
 私もコーヒーを頼むと『ミルフィーユはいいの?』と書いてきた。
 覚えていたんだと驚くと、彼はニコッと笑い、ミルフィーユケーキを一つ注文欄に追加して、オーダー送信をしてしまった。
 いらないって言いそびれた……。

 蓮がスマホにまた何か書いている。
『あのときは行けなくてごめん。行く途中で事故にあって、行けなかったんだ』
 事故?!
 さらに蓮はスマホを操作して──
『運び込まれた病院では機材が足りないってことで、意識を失ったまま、県外の脳神経外科の権威がいる大学病院に転院してたんだ。治療の甲斐があって3ヶ月後に意識を取り戻したけど、後遺症で聴力を失ったんだ』
 そんなっ!
 そうだったんだ……。
 私も自分のスマホで『突然引っ越したって聞いて、私のことが嫌いで別れも告げずに消えたって思ってた。事故にあってたなんて知らなかった。ごめん』と書いた。
『いいや。何も言わずに消えたのは事実だ。美咲がそう思っても仕方ないよ。それに、美咲にラインブロックされても、実家に手紙を出せばよかったのに、勇気がなくてできなかったんだ。美咲は何も悪くない。俺が悪い。ごめんな』
 蓮の困った笑顔が胸を重くする。
 裏切られたわけじゃなかった……。
 蓮はあのとき、コンクール会場に向かっていて、それで事故にあった。
 私がブロックしたことを知っているってことは、メッセージを送ってくれてたということだ。
 蓮はちゃんと……説明しようとしてくれたんだ。
 それなのに……私……。
 勝手に蓮を恨んで、勝手に傷ついた被害者になってたんだ。
「……ごめん」
 目の前が霞むから、慌ててうつむいた。
 泣いてどうするのよ!
 泣くんじゃなくて、ちゃんと!……ちゃんと……。
 テーブルの上で震えていた手に、温もりを感じた。
 蓮の手だ……。
「みさき」
 蓮の声に思わず顔を上げた。
『美咲は悪くない。だから泣かないでくれ』
 彼の手の温もりがじんわりと広がり、優しい顔と文字に、堪えた涙が溢れた。 

 しばらくボロボロと泣いてしまった。
 救いだったのは、コーヒーとミルフィーユケーキを持ってきたのは配膳ロボットだったことだろう。
「お待たせしましたにゃ~。お料理を取ったら、耳を触ってほしいにゃ~!」
 シリアスな雰囲気に、のほほんとした音声が響いて、涙も忘れて笑ってしまった。それを見た蓮も笑って、二人で笑い合った。
 彼の笑顔は昔と変わらなかった。
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