置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

文字の大きさ
37 / 50

36話 蓮との対峙1

しおりを挟む
 約束の14時。
 本当は、すでに30分前に最寄り駅に着いていた。
家でじっとしているのはどうにも落ち着かなくて、図書館で絵本コーナーを眺めて時間を潰そうとした。けれど、ふいに受付カウンターの会話が耳に飛び込んできた。

「今日も橘さん、来るのかしら?」
「来るんじゃない?ここ最近、毎日閉館まで居るもの」
「入り口をチラチラ見てるから、誰か待ってるって噂よ」

 ──橘さん。

 その苗字が耳に入った瞬間、心臓が跳ねた。
 蓮なの……?

 連絡が取れなくなってから、毎日のように図書館に?
 何をしに?
 まさか私を──探して?

 胸が強く締めつけられた。
 戸惑い、期待、嬉しさ、警戒──ぐちゃぐちゃの感情が渦を巻く。
 蓮の気持ちがわからない。
 結婚前の男が元カノに会いたがる理由なんて、ろくでもないに決まってる。
 なのに、嬉しいと思ってしまう自分が情けなかった。

 落ち着くために深呼吸をしたけれど、心臓の音はひたすらうるさい。
 気持ちを整理するためにも、とりあえずファミレスへ向かうことにした。

 そして、店の入り口に──蓮が立っていた。
 私に気づいた瞬間、顔がぱっと明るくなる。
 ほっとしたような、再会を心から喜んでいるような表情で手を振ってくる。

 高校時代の彼とダブった。
 デートのとき、先に待ち合わせ場所にいた蓮が、私を見つけて笑う顔。
 『美咲!』
 あの頃、弾んだ声で呼んでくれた記憶が重なる。

 ねえ、蓮。
 あなたの気持ちは……?

『店に入ろう』
 スマホに表示された文字と、柔らかい微笑み。
 私は複雑な気持ちを押し隠し、軽く頷いた。
 

 ◇◇◇


『何にする?コーヒーとミルフィーユ?』
 スマホ画面の文字を読んで、私は頷く。
 蓮は手早く注文した。

 沈黙。

 蓮はラインの友だち登録画面を見せてきた。
 コードを読み込めと言うことだと思い、私もスマホを取り出し、蓮のコードを読み込んだ。
 すると『友だちです』と表示された。

「え?」
 アカウントの再登録をしたんだよね?
 私の方から追加登録できないってこと?
『どうかしたか?』
 蓮が心配そうに聞いてくる。
 どうしたらよいかわからず、蓮にスマホに表示された『友だちです』を見せた。

 蓮も首を傾げている。
 そして、ラインのコードを読み取る画面にして見せてきたので、私は自分のコードを表示させた。
 蓮の方は友だち登録できたようだ。
 早速メッセージを送ってくる。
「!」
 何か驚いて、固まっている。
 そして、私に蓮はスマホ画面を見せた。

 ブロック中。

 はっきりと表示されていた。
「……そう」
 静かに怒りが湧いた。
 つまり、アカウント再登録で連絡が途絶えたわけじゃない。
 蓮が自分の意思で、私をブロックしていたってことだ。

 婚約者の白石さんにバレないように。
 私を都合よく扱えるように。
 ふ~ん、そう。
 結局、遊ばれてたのね。

 もう、十分だ。

 私は席を立つ。
 もう二度と蓮には会わない。
 そう心に決めた。
 蓮も慌てて立ち上がり、席から離れようとする私の手を握った。もちろん、振り払った。
 
「みさき!」
 蓮の声が店内に響いた。
「ごかいだ、はなしをきいてくれ!」
 手話をしながら、彼は必死な顔で声を出す。
 声量が大きかったから、視線が集まってくる。
 これ以上騒ぎを大きくするわけにもいかず、私は渋々元の席に座った。
 あからさまに腕を組んで、不機嫌な様子も隠さない。
 蓮も元の席に座り、慌てた様子でメッセージを送ってきた。
 
『俺はブロックなんかしてない。
 誤解だ』

「なにが誤解よ。現にブロックしてたじゃない」
 私は感情のままメッセージをそう打ち込んだ。

『知らなかったんだ。スマホを失くして、機種変したらトーク内容は全滅したし、美咲の友だち登録も消えていて、バックアップできてなかったからだと思ってたんだ』

「バックアップできてなかった?どうだか」
『どうせ都合の良い女扱いして、結婚前に遊びたかっただけでしょ』

「はあ?!」
 蓮が声を出した。

『結婚って何の話だよ?』

『白石さんと結婚するんでしょ』

「え?!」
 蓮が勢いよく立ち上がり、こちらを凝視してきた。
 私が知っていることに驚いているのね。
 騙されないぞと蓮を睨む。
 周りの視線もあり、彼はゆっくり座った。

『俺は誰とも結婚する予定はない。白石と付き合ってもいない』

「白石と付き合ってない?なに言ってるのよ」
『嘘つかないで』

『嘘じゃない!疑うならラインを見てくれてかまわない』

 蓮は自分のスマホを私に差し出した。
 ラインのトークに白石さんとの個人メッセージはない。あるのはサッカーチームのグループラインや、『母』とか、会社の人らしき人とのやり取りだけだった。
 続いて、写真フォルダを表示させる蓮。
 フォルダにはサッカーチームのメンバーが映っているものや、食べ物の写真がほとんどだった。

 トーク内容や写真をあらかじめ消していた?
 いや、本命である白石さんのトークや写真を消すことはないのではないか?浮気相手の私のデータを消すのとは、訳が違うだろう。
 ダメだ。わからない……。

『信じられないなら、サッカーチームのメンバーにでも、親にでも。
 いや!白石に聞いてもらってもいい』

「え?白石さん本人に聞いていいの?」
 
『俺は7年間、ずっと美咲が好きだった。
 他の誰かと付き合ったこともない』

 蓮は真剣な顔をしている。

『ごめん。美咲に彼氏がいても、好きなんだ』

「え?!私に彼氏?」
 思わず声が出た。

『彼氏はいないよ』

「え?」
 今度は蓮が声を発した。

『サッカーの試合を見に来てくれた日。具合が悪くなって彼氏と一緒に帰ったって白石に聞いた』

「いやいや、あの日は一人で行ったし。」
『蓮と結婚するって白石さんに婚約指輪を見せられたよ』

 互いに顔を見合わせる。
 これって──

「白石ってヤツに、二人とも嵌められてません?」
 突然後ろから声をかけられた。
「こはるちゃん!……えっ、香澄?!」
 後ろの席にこはるちゃんと居心地悪そうな香澄がいた。

 なんで居るの?!?!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。 だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。 それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。 しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。 怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。 戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。

天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。 私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。 それなのに裏切りやがって絶対許さない! 「シェリーは容姿がアレだから」 は?よく見てごらん、令息達の視線の先を 「シェリーは鈍臭いんだから」 は?最年少騎士団員ですが? 「どうせ、僕なんて見下してたくせに」 ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…

思い込み、勘違いも、程々に。

恋愛
※一部タイトルを変えました。 伯爵令嬢フィオーレは、自分がいつか異母妹を虐げた末に片想い相手の公爵令息や父と義母に断罪され、家を追い出される『予知夢』を視る。 現実にならないように、最後の学生生活は彼と異母妹がどれだけお似合いか、理想の恋人同士だと周囲に見られるように行動すると決意。 自身は卒業後、隣国の教会で神官になり、2度と母国に戻らない準備を進めていた。 ――これで皆が幸福になると思い込み、良かれと思って計画し、行動した結果がまさかの事態を引き起こす……

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...