置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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35話 メール

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「どうするの?」
 香澄が聞いてくる。
「どうするって言ったって、返信はするんだけれども……なんて書けば……」
「気が付かなかったんだから、それはそれで正直に書いたらいいんじゃないですか?」
 こはるちゃんが言った。
「いやまあ……そうだよね」
 
 私はスマホを返信画面にし──
『連絡ありがとう。
 2ヶ月もメールに気が付かなくてごめんね。
 普段はラインを利用してたから、気付くのが遅れたの。本当にごめん!
 試合、かっこよかったよ。
 スマホを失くしたのは災難だね。
 大丈夫?』
──と打ち込んだ。
 
「こんな感じかな」
 二人が横から画面を覗き込んでくる。
「そうね。いいんじゃない」
 香澄はそう言ってくれたけど、こはるちゃんは──
「この『具合が悪くなったって聞いた』って何ですか?」と聞いてきた。
 具合か……。
 確かに、蓮の結婚の話を聞いて……いつの間に駅まで歩いてたんだよね。そういう意味では具合は悪かったかな。
「2ヶ月前のことなんだし、それは触れなくてもいいんじゃない?」
 香澄の言葉に「そうですね」とこはるちゃんが少し考えて答えた。

 時刻は20:48。
 メールを送っても失礼にならない時間だ。
 でも、夜といえば夜だし……。
 これは明日の朝にでも──
「わっ」
 香澄にスマホを取られ、送信ボタンを押された。
「ちょっと!」
「目の前でまごまごされるのは気持ち悪いの。送るんなら、さっさと送んなさいよ。今送っても、明日送っても同じよ」
 香澄の正論にグッと言葉がつまる。

「見てください」
 こはるちゃんが何かに気がついた。
「何かメッセージ来ましたよ」
 通知を切っているから音はなく、受信ボックスの未読表示が増えた。
 開くと……蓮からだ。
「反応早くないですか?」
 返信スピードにこはるちゃんが驚いているが、私も同意見だ。

『返信ありがとう!
 気が付いてくれて助かった。
 スマホは機種変したから大丈夫』

 簡素なメッセージ。でも彼が私の連絡をずっと待っていたのは伝わってきた。
 単純に『嬉しい』という気持ちが広がるけど、その反面『結婚を控えた男性が、元カノと連絡を取り合いたい心理』がわからず混乱する。

 結婚前の火遊び……。

 そんな言葉が脳裏によぎる。
 なんて返信しよう。
 ストレートに聞く?
 いやいや、そこまでの勇気はない。
 う~ん……。

「ちょっと貸して」
 また香澄が無遠慮にスマホを奪った。
 そして、返信メッセージを勝手に入力し始めた。
「こんなんでどう?」
 
『急ぎじゃないんだけど、
 ちょっと聞きたいことがあって。
 会える時間ある?』

「「お~」」
 思わずこはるちゃんと被った。
「いいんじゃないですか?」
「でしょ。ウジウジ考えてメールするより、思いきって会って、話した方がいいよ。それで、蓮が最低野郎なら一発食らわせて、スッキリ忘れなさいよ」
 香澄に背中を押された、私は頷いて送信ボタンを押す。
 ──10分後
 「聞きたいことって何?」と返信が来る。

 聞きたいことは、ズバリ『結婚を控えた男性が元カノに連絡を取る理由』だが、それは会ったときに直接聞きたい。
 なんて答えようかな……。

 返信画面を開いたまま、スマホを強く握りしめていると──
「貸して」
 また香澄がスマホを操作して返信を書く。

『大したことじゃないの。
 ただ、文字だと伝わりにくいし。
 会って伝えた方が手っ取り早いからさ
 どうかな?』

「どう?」
「「お~」」
 またこはるちゃんと同じ反応をしてしまった。
「じゃ、送信ボタン押すよ」
「待って!それは私がやる」
 香澄からスマホを取り戻し、もう一度文面を確認してから、送信ボタンを押した。
 なんだか、蓮と連絡を取り合ってるのが私じゃなくて、香澄のように思えて、モヤってしてしまった。
 心が狭いというか、余裕がない自分が情けない。
 私がグズグズしているから、香澄が助けてくれているだけなのに……。

 次の返信はすぐに返ってきた。

『わかった。
 なら、明日はどう?
 サッカーの練習がちょうど休みなんだ。
 前に会ったファミレスで』

 よかった。
 変に突っ込んでこなくて。

『ありがとう。
 何時がいい?』

『日中ならいつでも』

『じゃ、14時は?』

『いいよ』

 明日は日曜日。
 私も1日フリーだ。
 だが、そうなると『お昼を一緒にどうか?』と誘われてしまうかもしれない。
 正直、話す内容が内容なだけに、一緒にランチを食べるには気が引けた。
 
『外は寒いから、先に着いたら入って、席を温めてて』
 
「ぷっ!……」
 蓮の返信に笑ってしまった。
 ファミレスの椅子を控えのベンチみたいに言ってる。
 両サイドの二人に生暖かい目で見られた。

『わかった。
 蓮も、早く着いたら先に入って席を温めてて』

『了解!じゃ、また明日な。気をつけて来いよ』
『はいはい。蓮もね』
 
 送信してから、ふっと肩の力が抜けた。
 気の置けない会話に、心がほっこりする。
 やっぱり……好きだな。

「ファミレスって、どこのですか?」
「M市の中央図書館近くのファミレスよ」
「ふ~ん。M市の中央図書館……。ん~と、ここのファミレスですか?」
 こはるちゃんが素早くスマホで検索して、蓮と会う約束をしたファミレスを表示した。
「うん、そう」
「じゃ、14時に私も行きますね」
「え?!」
 こはるちゃんの爆弾発言で驚く。

 何を言ってるの?この子は。

「美咲お姉ちゃんが蓮に騙されないように、私が守ります!」
「え?!いやいや、いいよ、そういうのは」
「そうよ、こはるちゃん。デートの邪魔したらダメよ」
 香澄も呆れている。
「だって、蓮が体目的で、美咲お姉ちゃんをホテルに連れ込んだら助けないと」
「そうなったら、ひっぱたくから大丈夫よ」
「『結婚前の思い出に』って情に訴えてきて、美咲お姉ちゃん、絆されないって言えるの?私は美咲お姉ちゃんが大好きなの。傷つけるヤツは許せないの。ね?一緒に蓮に会った方が安心でしょ?心配なの。ね?いいでしょ?ね?」
 庇護欲を掻き立てる、可愛いお願いにクラっとするが、ここは譲っちゃダメ。
「こはるちゃん、あのね──」
 断ろうと言葉を選んでると「心配だからって、踏み込んで良いときと悪いときがあるわよ」と、香澄がピシャリと言った。
 こはるちゃんは不満そうにした。
「こはるちゃん、ありがとう。心配してくれて」
 私が声をかけると、彼女は嬉しそうにニコッとした。
 こんなことを思っては失礼なのだけど、彼女の行動はまるで子どもみたいだな、とふと思う。
 否定されると反発する。でも、寄り添って導けば、とても素直に反応してくれる。いい意味でも悪い意味でも純粋な子だ。

「私ね、蓮と別れてから、ずっと何事にも本気にならないようにしていたの。あんな苦しい思いは二度としたくないって臆病になった。ピアノに対する情熱も、人を愛する愛情も、全部、失くしてた。いいえ、あの頃に置き去りにしたの」

 高校時代を思い出した。
 ひた向きにピアノへ情熱を注ぎ、その私を優しい顔で見守ってくれていた蓮を。

「でもね。蓮と再会して、彼の事情を知って、ようやく前を向けた。置き去りにしていた情熱を取り戻したように感じる。だから、決着をつけたいの。私の力で」
 スマホを持つ手に力が入った。
 その手に、香澄が手を重ねて握ってくれた。
 温かいな……。
 こはるちゃんも手を重ねてくれた。
「わかりました。美咲お姉ちゃん。美咲お姉ちゃんが自分の力で決着をつけたいと言うなら、私はそれを支えたい。頑張ってください!」
「ええ、ありがとう」

 二人に感謝しつつ、私は明日のことを考えた。
 明日、全てに決着をつける。
 長年抱えた蓮への恋心も、未練も、全部。
 乗り越えて、新しい私をスタートさせよう。
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