置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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36話 蓮との対峙1

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 約束の14時。
 本当は、すでに30分前に最寄り駅に着いていた。
家でじっとしているのはどうにも落ち着かなくて、図書館で絵本コーナーを眺めて時間を潰そうとした。けれど、ふいに受付カウンターの会話が耳に飛び込んできた。

「今日も橘さん、来るのかしら?」
「来るんじゃない?ここ最近、毎日閉館まで居るもの」
「入り口をチラチラ見てるから、誰か待ってるって噂よ」

 ──橘さん。

 その苗字が耳に入った瞬間、心臓が跳ねた。
 蓮なの……?

 連絡が取れなくなってから、毎日のように図書館に?
 何をしに?
 まさか私を──探して?

 胸が強く締めつけられた。
 戸惑い、期待、嬉しさ、警戒──ぐちゃぐちゃの感情が渦を巻く。
 蓮の気持ちがわからない。
 結婚前の男が元カノに会いたがる理由なんて、ろくでもないに決まってる。
 なのに、嬉しいと思ってしまう自分が情けなかった。

 落ち着くために深呼吸をしたけれど、心臓の音はひたすらうるさい。
 気持ちを整理するためにも、とりあえずファミレスへ向かうことにした。

 そして、店の入り口に──蓮が立っていた。
 私に気づいた瞬間、顔がぱっと明るくなる。
 ほっとしたような、再会を心から喜んでいるような表情で手を振ってくる。

 高校時代の彼とダブった。
 デートのとき、先に待ち合わせ場所にいた蓮が、私を見つけて笑う顔。
 『美咲!』
 あの頃、弾んだ声で呼んでくれた記憶が重なる。

 ねえ、蓮。
 あなたの気持ちは……?

『店に入ろう』
 スマホに表示された文字と、柔らかい微笑み。
 私は複雑な気持ちを押し隠し、軽く頷いた。
 

 ◇◇◇


『何にする?コーヒーとミルフィーユ?』
 スマホ画面の文字を読んで、私は頷く。
 蓮は手早く注文した。

 沈黙。

 蓮はラインの友だち登録画面を見せてきた。
 コードを読み込めと言うことだと思い、私もスマホを取り出し、蓮のコードを読み込んだ。
 すると『友だちです』と表示された。

「え?」
 アカウントの再登録をしたんだよね?
 私の方から追加登録できないってこと?
『どうかしたか?』
 蓮が心配そうに聞いてくる。
 どうしたらよいかわからず、蓮にスマホに表示された『友だちです』を見せた。

 蓮も首を傾げている。
 そして、ラインのコードを読み取る画面にして見せてきたので、私は自分のコードを表示させた。
 蓮の方は友だち登録できたようだ。
 早速メッセージを送ってくる。
「!」
 何か驚いて、固まっている。
 そして、私に蓮はスマホ画面を見せた。

 ブロック中。

 はっきりと表示されていた。
「……そう」
 静かに怒りが湧いた。
 つまり、アカウント再登録で連絡が途絶えたわけじゃない。
 蓮が自分の意思で、私をブロックしていたってことだ。

 婚約者の白石さんにバレないように。
 私を都合よく扱えるように。
 ふ~ん、そう。
 結局、遊ばれてたのね。

 もう、十分だ。

 私は席を立つ。
 もう二度と蓮には会わない。
 そう心に決めた。
 蓮も慌てて立ち上がり、席から離れようとする私の手を握った。もちろん、振り払った。
 
「みさき!」
 蓮の声が店内に響いた。
「ごかいだ、はなしをきいてくれ!」
 手話をしながら、彼は必死な顔で声を出す。
 声量が大きかったから、視線が集まってくる。
 これ以上騒ぎを大きくするわけにもいかず、私は渋々元の席に座った。
 あからさまに腕を組んで、不機嫌な様子も隠さない。
 蓮も元の席に座り、慌てた様子でメッセージを送ってきた。
 
『俺はブロックなんかしてない。
 誤解だ』

「なにが誤解よ。現にブロックしてたじゃない」
 私は感情のままメッセージをそう打ち込んだ。

『知らなかったんだ。スマホを失くして、機種変したらトーク内容は全滅したし、美咲の友だち登録も消えていて、バックアップできてなかったからだと思ってたんだ』

「バックアップできてなかった?どうだか」
『どうせ都合の良い女扱いして、結婚前に遊びたかっただけでしょ』

「はあ?!」
 蓮が声を出した。

『結婚って何の話だよ?』

『白石さんと結婚するんでしょ』

「え?!」
 蓮が勢いよく立ち上がり、こちらを凝視してきた。
 私が知っていることに驚いているのね。
 騙されないぞと蓮を睨む。
 周りの視線もあり、彼はゆっくり座った。

『俺は誰とも結婚する予定はない。白石と付き合ってもいない』

「白石と付き合ってない?なに言ってるのよ」
『嘘つかないで』

『嘘じゃない!疑うならラインを見てくれてかまわない』

 蓮は自分のスマホを私に差し出した。
 ラインのトークに白石さんとの個人メッセージはない。あるのはサッカーチームのグループラインや、『母』とか、会社の人らしき人とのやり取りだけだった。
 続いて、写真フォルダを表示させる蓮。
 フォルダにはサッカーチームのメンバーが映っているものや、食べ物の写真がほとんどだった。

 トーク内容や写真をあらかじめ消していた?
 いや、本命である白石さんのトークや写真を消すことはないのではないか?浮気相手の私のデータを消すのとは、訳が違うだろう。
 ダメだ。わからない……。

『信じられないなら、サッカーチームのメンバーにでも、親にでも。
 いや!白石に聞いてもらってもいい』

「え?白石さん本人に聞いていいの?」
 
『俺は7年間、ずっと美咲が好きだった。
 他の誰かと付き合ったこともない』

 蓮は真剣な顔をしている。

『ごめん。美咲に彼氏がいても、好きなんだ』

「え?!私に彼氏?」
 思わず声が出た。

『彼氏はいないよ』

「え?」
 今度は蓮が声を発した。

『サッカーの試合を見に来てくれた日。具合が悪くなって彼氏と一緒に帰ったって白石に聞いた』

「いやいや、あの日は一人で行ったし。」
『蓮と結婚するって白石さんに婚約指輪を見せられたよ』

 互いに顔を見合わせる。
 これって──

「白石ってヤツに、二人とも嵌められてません?」
 突然後ろから声をかけられた。
「こはるちゃん!……えっ、香澄?!」
 後ろの席にこはるちゃんと居心地悪そうな香澄がいた。

 なんで居るの?!?!
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