置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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38話 蓮との対峙3

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「香澄。私のために怒ってくれてありがとう。だけど、私は蓮に責任はないと思うわ」
 蓮にも伝えるために、私はラインの音声入力を使いメッセージを送った。
 蓮は驚いた顔をして、私を見てきた。
 私は蓮に笑顔を向け「蓮も白石さんに騙された被害者よ」と付け加えた。

『いや、水城の言う通りだ。俺がもっと白石のことを拒絶していればよかったんだ。何か白石を勘違いさせる行動をしていたのかもしれない。俺にも責任がある。すまなかった』
 蓮は頭を下げた。

「蓮が謝ることはないよ。責任なら、白石さんにしか聞かなかった私にもあるわ。蓮のことを信じていたら、白石さんの言葉に惑わされずに、他の人にあの時の蓮の状況を聞くこともできたはずよ。それに、勘違いして蓮に別れのメッセージを一方的に送って……蓮が怪我をして大変なときに側にいなかった。ごめん」
 私も蓮に頭を下げた。

『それは仕方なかったことだ。美咲は知らなかったんだから。それこそ結果論の話だ。美咲は悪くない』

「でも──」

「ストップっ!」
 こはるちゃんが私たちを止めた。
「3人の言い分はわかりました。各々一理ありますよ。でも、一番悪いのは白石でしょ。どう考えても」

 その通りだ。
 年下の女の子に諭されるなんて……。

 社会人3人は、顔を見合せた。
「そうね。全部白石が悪いわ」
 香澄が言った。
「これはもう、4人でチーム組んで白石をギャフンと言わせるしかないよ。美咲お姉ちゃんを傷つけるヤツは許さないんだから!」
 こはるちゃんが鼻息荒く言った。
 
『そうだな。ここまでやられちゃ、黙ってられないな』

 蓮も真剣な顔をしている。
 まるで決起集会みたいに、みんなの気持ちがまとまったように感じた。
「いっちょ、やりますか!」
 私の号令にみんなが頷く。
 
 なんかこの感じ、いいな。

「お待たせしましたにゃ~。お料理を取ったら、耳を触ってほしいにゃ~!」
 盛り上がる中、配膳ロボットがやってきた。
 なんてタイミングで来るのよ……。
 これは狙ってるの?
 思わずキッチンの方に目を向けたが、誰もいなかった。


 ◇◇◇


「で、どうしましょうか?」
 ドリンクを飲み、一息ついてからこはるちゃんが切り出した。
「美咲、どうしたい?」
「白石さんに謝って欲しい。やったこと全部認めて、謝って欲しい」
「橘は?」

『俺も謝って欲しい。それから、二度と俺にも美咲にも関わってほしくない』

「なるほど。そうなると、まず白石をデフサッカーチームから追放が必須だね。他に白石との接点はあるの?」
 こはるちゃんの質問に蓮は少し考えてから──

『自宅の最寄り駅であったことがあるから、もしかしたら自宅が近いかも……』

「「「え?!」」」
 思わず三人の声が被った。

「それってかなりヤバイよね」
「ですね。ストーカー化してますよ」
 香澄とこはるちゃんは「うわ~……」と引き気味だ。

『引っ越しを考えた方がいいかもしれないな』

 蓮も事態が最悪な方向に動いていると察し、今まで見て見ぬふりをしていた白石さんの行動に、恐怖を感じたようだ。
 
「では、どう白石を料理するか考えましょう。橘さん。サッカーチームに白石が橘さんに付きまといしているって訴えて、追放ってできますか?」

『監督に話してみるが、どうなるかはわからない。白石は手話通訳士になるために勉強もしているし、チーム内でも信頼されている。俺一人の主張だと難しいかもしれない』

「手話通訳士?」
 こはるちゃんが首を傾げた。
 香澄がネットで調べると、手話通訳士とは民間の資格ではあるが、難易度は国家資格並に難しいらしい。
 その資格があれば手話の通訳技術が証明できて、裁判などにも手話通訳として依頼されることがあるそうだ。
 
 要するに、白石さんはそんな『難関資格へ挑戦する優れた人物』とチーム内では評価を得ているということだろう。

 そうなると、蓮一人の主張で白石さんをチームから追放するのは難しいのは想像に難しくない。
 下手に騒げば、蓮が『自意識過剰だ』と言われチーム内で孤立してしまうかも。
 しかも蓮の所属しているチームは強豪チームだ。
 問題となれば選手枠から外されてしまう可能性もある。
 どうしたものか……。

「それって、言い逃れできない状態に追い込めばいいってことよね。だったら、こうしたらどうですか?」
 こはるちゃんは小悪魔のように笑い、とんでもない作戦を提案してきた。
 こういうのを『悪役令嬢』と言うのかもしれない。


 ◇◇◇


 4人で『白石さんをこらしめる計画』を話し合い、決行は今度の土曜日、デフサッカーの練習試合終了後に決まった。
 香澄とこはるちゃんは各々電車や迎えの車に乗り込み帰っていった。
 私は……蓮の車で送ってもらうことになった。

 静かな車内。
 蓮が気を利かせてラジオを流してくれたけど、気恥ずかしい。高校時代に並んでバスに乗って遠出したり、自転車で2人乗りをしたことを思い出す。
 蓮の運転する車に乗るなんて、感慨深いわ。
 私たちも、大人になったんだと、しみじみ思った。

 マンションの駐車場に着いた。
 女子の一人暮らしだから、セキュリティがしっかりしている場所じゃないと母さんが許さなかったので、保育士としては良いところに住んでいると思われる。
 実際は、母さんの知り合いの所有するマンションなので、友人割があり、なんとかやりくりできていた。

「送ってくれてありがとう」

『たいしたことないよ』

「みさき」
 突然蓮に呼び止められた。
 すごく真剣な顔だ。
 車のドアに手をかけたが、ゆっくり戻した。

 蓮から、いつになく真剣な雰囲気を感じた。
 まっすぐこちらを見てくる。

「好きです。付き合ってください」

 彼の告白は中学卒業の、あの桜の木の下で言われた言葉と同じだった。
 顔を真っ赤にして、少し緊張した感じ。
 彼の変わらない姿に、泣きたくなった。

 蓮は別れてから一途に私を想ってくれていた。
 それは誤解が解けたときにわかった。
 嬉しいと思う反面、自分が恥ずかしくなった。
 だって私は、蓮を一途に想っていた訳じゃない。
 何人も彼氏がいた。
 一夜の過ちもした。
 最近まで達也と付き合っていた。

 そんな私に、蓮の思いは眩しすぎる。
 まっすぐ答えられない自分が……情けない。

「私も蓮が好き。だけどごめん。私は蓮のように……綺麗じゃない。一途に想ってくれていた蓮には申し訳ないけど、私は蓮と別れてから彼氏もいたし、最近までいた。今は誰とも付き合ってないけど、だからといって、蓮と付き合うのは……自分が汚れすぎて恥ずかしい。……ごめん」
 蓮にメッセージを送ると、彼は明らかに動揺し、スマホを落としそうになっていた。
 そして、その顔から一瞬で血の気が引いたように見えた。

 気まずい空気。

 居たたまれず、車を降りた。
 泣かないように笑う。
 絶対泣かない。

 車から少し離れて手を振る。
 それを見た蓮は、何か言いたげだったが、そのまま車を発進させた。
 蓮の車が駐車場から出て見えなくなった。
 途端に、視界がボヤけた。
 止めどなく流れる涙を、私は拭うこともできなかった。
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