置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

文字の大きさ
40 / 50

39話 Bar con suonoにて

しおりを挟む
「香澄さん。考えてくれた?」
 金曜日の夜。
 久しぶりに香澄と連弾を披露し、店内は盛り上がっていた。
 一息つくため、香澄とカウンターでブルームーンを飲んでいると、天音さんが話しかけてきた。

 天音さんもこはるちゃんと同様、Bar con suonoの常連になっていた。
 そして、彼女から「国際音楽コンクールに香澄、美咲ペアで参加しないか」と誘いを受けている。

 詳しくは知らないけど、香澄が以前所属していた『ノーブル管弦楽団』に対して、四葉不動産ホールディングスが支援を打ち切ったらしい。
 もともと、楽団の意識の低さに不満があり、あのパーティーの出来栄え次第で、契約更新を取りやめる方針だったと、後から聞かされた。
 私たちの連弾と、楽団の演奏の対比が明らかだったこともあり、上層部の判断も早かったと天音さんから聞いた。
 今後、ノーブル管弦楽団がどうなるのかは、とくに聞いていない。
 
 でも余談として聞いたのは、玲奈と風間団長の不倫が発覚して、団長は離婚になったそう。あと、玲奈が奥さんに殴られたとか。それから、司が香澄に復縁を迫るメールを送ってきたけど、木下弁護士に「ストーカーとして警察に通報する」って言われたら連絡してこなくなったとも。
 まあ、どうでもよい話ね。

「天音さん……。私の返答は変わりませんよ。私にはこのバーがありますから、コンクールへの参加はお断りします」
「そんなこと言わずに。コンクールに出たら、香澄さんと美咲ちゃんの音楽を、世界が知るのよ。そうなれば、お店の売り上げも大幅アップよ」
「あのパーティー以降、お陰さまで大盛況です。3ヶ月先まで予約枠は一杯になりました。これ以上お客様が増えると、常連の方が来にくくなりますから」
「それなら新しいお店を出しましょう!私、出資するわ」
「いやいや、有難いお話ですが、私はこの店が好きなんです。手放す気はないですよ」

「あー!また天音さんが来てる!」
 こはるちゃんもカウンターに座った。
「しつこくすると、嫌われますよ」
 こはるちゃんに言われて、天音さんは微妙な顔をした。それもそうだろう、達也に執着しまくっていた彼女からの言葉は、なんとも言えない気分になる。

 そういえば、こはるちゃんと達也の婚約も、両家の話し合いが終わり、無事解消したと聞いた。
 あんなに達也に執着していたこはるちゃんだったが、終るときはずいぶんあっさりしていたから、みんなが驚いていたらしい。
 こはるちゃん曰く『達也のことは好きだけど、いっぱい泣いたら、もういいかなって思えたの』とのこと。
 こはるちゃんらしいと思った。

 一方の私は……。
 蓮からの告白を自ら断ったのに、蓮への気持ちが断ち切れないでいた。
 女々しくも、蓮からラインやメールが来てないかと、気がつくとチェックしてしまう。
 自分勝手な行動と思考に、辟易する。

「はぁ……」
「なに?また蓮と連絡がつかないの?」
 私のため息に香澄が反応した。
「え?いや……」

「あのあと、どうでした?キスくらいしました?」
 こはるちゃんがニヤニヤしながら聞いてきた。
 子供がませちゃって!

「蓮って?」
 天音さんも興味津々に聞いてきた。
「美咲の忘れられない元カレですよ」
「香澄!」
 天音さんに蓮のことを話すから、ギロリと睨む。
 だけど私の睨みなんて怖くないようで、「先日再会して、それはそれは良い雰囲気で」と意味深な視線を送ってきた。

「美咲ちゃん。結婚式はうちの関連会社に来てね。私がプロデュースするから!」
 うわ。ウインクされた。
 茶目っ気のある天音さんは、ギャップが強くて可愛い。

「もう、やめてくださいよ。蓮とはそんな関係じゃありませんよ。ただの友だちです」
 自分で『ただの友だち』と言って、胸がズキッと傷んだ。

「またまた~。橘さん、美咲お姉ちゃんのことが『好き』って言ってたじゃないですか。作戦会議が終わったら『美咲を送っていく』って私たちを牽制してましたよね?二人っきりになりたいのバレバレでしたから、私と香澄さんは遠慮して帰ったんですよ。ね~」
「ね~」
 香澄は似合わない『ね~』を、こはるちゃんと一緒に披露した。
 もう。変に悪ノリしてるわね。

「7年前に白石の手で引き裂かれた恋人同士が再会。忘れられなかった恋心を再燃させて、二人はゴールイン!運命的じゃないですか~」
「なにそれ!ドラマチックね~」
 天音さんもニマニマしている。

「はぁ~。本当に蓮とはそんなんじゃない。ただの友だちよ、友だち」
「「「え~……」」」
 三人のがっかりした声が重なる。
「ねえ、本当に何もなかったの?」
 香澄が聞いてくる。
 その顔は少し真剣だった。
 はぐらかすのは気が引けた。
 私は持っていたブルームーンのグラスを、無駄に回し気持ちを落ち着かせながら、重い口を開いた。

「告白は……された」
「やっぱり~」
 こはるちゃんがなぜか得意気にする。
 でも、香澄の反応はこはるちゃんとは反対で、私が蓮の『告白』をどうしたのか予想がついたのだろう。
 眉をひそめている。

「香澄さん?」
 こはるちゃんが不思議な顔をする。

「美咲。もしかして、断ったの?」
 グラスを回す手を止めた。
「え~?!どうして?!」
 こはるちゃんの声が店内に響いた。
 視線が集まる。
 こはるちゃんは「お騒がせしました~……」と、周りに軽く頭を下げて「なんでですか?」と聞いてきた。

 私が答える前に、香澄が自分のブルームーンを飲み干して席を立った。
「付き合ってらんない」
「え?香澄さん?」
 こはるちゃんが困惑した声を出した。
「あのさ。そんなんじゃ、また大切なものを失くすわよ。いい加減、自分の気持ちに正直になりなさいよ」
「……できないよ」
「なんで」
「だって!……だって、蓮は7年……私を一途に思ってくれてた」
「よかったじゃん」
「よくないよ。だって私……彼氏がいたんだよ。蓮のことを引きずって、被害者ぶって、その場しのぎで誰かと付き合って、体も心も適当に扱ってきた。 蓮のように……綺麗な時間を過ごして来たわけじゃない。だから……」

 突然、香澄に頭を小突かれた。
「バッカじゃないの」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。 そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて…… 表紙はかなさんのファンアートです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【完結】本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

処理中です...