【完結】フィクション

犀川稔

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9話 父の一時帰国

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「空港?」
 学校の帰り道歩いてる時に赤城が恋の話に聞き返した。
「そうそう、明日姉ちゃんと一緒に行ってくるの。」
「...何でまた突然?」
 不思議そうに聞く赤城。
「父さんが単身赴任してて海外に行ってるんだけど、一時帰国で数日だけ日本に帰ってくるんだよね。だから僕と姉ちゃんで会いに行ってくるよ!」
「へぇー。お父さん普段海外に居んだ。すげぇーね。でも会いに行くって言うか、迎えに行くじゃないの?」
 赤城の言葉に恋がビクッと反応し立ち止まった。
「......芦野?どうした?」
「あー...え、えっと。」と、言葉を濁し吃る恋に赤城が笑った。
「あー、色々あるやつね?んまぁでも、お父さん元気に帰ってくるといいねー。」
 恋の隣で止まったものの、そのまま何事もなかったようにまた赤城が歩き出した。顔色を変えない赤城に恋がオドオドしながら聞いた。
「......聞かないの?」
「なにを?」
「いや、んー...なんというかさ...。」
 合う言葉が出てこず、率直に言わない恋に赤城が飴を渡した。
「それ今日の朝、弟にワックス貸してお礼に学校向かってる途中にもらったやつね。優しいいい子には飴あげるって言われて渡されたから俺より優しいいい子の芦野くんにあげちゃうわ。」
 深く奥の方にある僕の心の傷を癒して和らげるようなそんな赤城の心遣いに申し訳なさと、はっきり言い出せない自分への虚しさが連鎖する。
「ありがとう。」
 そう言って飴を受け取ると恋は赤城の手を掴んだ。
「ね、あのさ。明日の父さんと別れたあと......いや明後日でもいい。...なんなら月曜日の学校終わりでもいいんだけど、空いてる...ますか?」
 慌てふためきながら不安そうに聞く恋に赤城は柔らかく微笑んで頭を撫でた。
「空いてるます。てか保険かけすぎね。芦野との予定ならいつでも空けるよ。明日バイトで夕方頃には合流できるから迎え行くよ。どこ行けばいいか時間近くなったら教えて。」
「う...ん。ありがと。」
「んーん、こちらこそ。」
 そう言うとそのまま手を繋いで歩き始めた。

 話した後から落ち込んだ顔をする恋を赤城は家の前まで送った。
「今日はゆっくり休んで明日またかわいい笑った顔見せてくださいなー。」
 と、犬を撫でるように恋の頭をわしゃわしゃ触った。恋はそれに笑って「ありがとう」と答えた。

 赤城が帰っていくのを見送っていると、「わっ!」と隣から美鈴が声をかけた。
「び...くりした。あ...おかえり姉ちゃん。」
「ねー!誰あの人!?れんれんの友達?めっちゃかっこいいね!」
 美鈴がそう言うと恋は耳を赤くした。その表情を見て美鈴は「ほー...?」と確信したような顔をして恋の耳元で話した。
「いいねぇ!かっこいい彼氏ゲットしたじゃん!」
「...っ!?え、なんで...!?」
 吃驚して顔をあげる恋に笑って、美鈴は恋の背中押して一緒に家に入って行った。

「今日父さんと別れたら僕予定あるから別で。」
 電車で空港に向かってる時に恋が美鈴に言った。
「あーそうなの?買い物なら全然付き合うけどどこ行くの?」
 恋を見ると「あ...えっと。」と渋っているのを見て美鈴ニヤニヤした。
「なるほど~...デートね?」
 ど直球に聞いてくる美鈴に恋は困惑した。その様子を見て美鈴が携帯を見せた。
「ここね。空港から近くのところにある公園なんだけどね、そこから見える夕日がすごい綺麗なんだって~!カップルにおすすめのデートスポットってやつ。もし行くところ決まってなかったり少し歩いたりするなら行ってみてもいいんじゃない?って、お姉ちゃんからのアドバイスね!」
 恋を見てニコニコ笑う美鈴に、恋は「あ...りがと。」と歪に言った。

 空港に着いてゲート前で待機していると、父がすぐに二人を見つけて手を振った。
「美鈴に恋。お待たせ、元気だったかー!遅くなって悪かったな。」
 そう言って手荷物とキャリーケースを床に置いて父は僕たちを抱きしめた。
「全然パパ変わってないね!!半年だから当たり前か~!」
 そう言って美鈴は無邪気に笑った。僕は少し照れくさい思いと嬉しい気持ちが混ざっていた。
 父は嬉しそうに僕たちを連れ、予約したと言うお店に連れて行った。

「美鈴、大学はどうだ?」
「順調順調!単位も多めに取って後半は少し楽していこうかなーって思ってるよ!」
「お前は相変わらず要領がいいなー。恋はどうだ?」
「僕も...うん、大丈夫だよ。次テストが終わったら夏休み入るし...。」
 慣れない父との話に少し落ち着きがない恋に父は笑って「そうか!」と言った。
 美鈴は久々に会った父に、嬉しそうに近況報告をしていた。たまに僕にも話を振ってくれ、美味しいコース料理を囲んで色々話した。
「でも二人とも楽しそうで父さんは安心したよ。......あの二人も、元気そうか?」
 父の言葉に僕と姉ちゃんは食事する手を止めた。
「うーん...。そうだねぇ、いい意味でも悪い意味でも変わらずだよ......。でもねでもね!お父さん!」
 そう言いながら美鈴は恋の方を見てニヤニヤし話した。
「れんれんが遂にね~?」
 と、言ったあと「ほら!自分で報告しなって!」と僕の背中を押した。
 父は「なんだどうした?」と楽しそうに僕を見た。
「あ、えっと......。恋人ができました。」
 恋の言葉に父が嬉しそうに微笑んだ。
「そうかそうか!!それは良かったな!」
 と、安心したような表情を浮かべた。
「しかもね、めっちゃイケメンなの!私が彼氏に欲しいくらい!」
 美鈴がそう言うと父は察したような顔をした。
「あ...、いや。」と引き攣った顔で僕が言うと、父はホークとナイフを置いた。
「恋、どうした?」
 父の言葉に恋は一度口を噤んだ。そして恐る恐る口を開けた。
「なんも、思わないの?」
「なにがだ?良かったなってさっき言ったぞ?」
「いやそうじゃなくて...。その、お、男なの...とか。」
 恋の言葉に父は首を横に振った。
「その人を好きになって、付き合ってお前は後悔してるのか?」
「いや、してない。」
 即答する恋に、父と美鈴は顔を見合わせて笑った。
「なら父さんはなにも言うことはないよ。今度機会があれば私もその彼に会ってみたいな。恋をよろしくと伝えたいくらいだ。」
 そう言ってまた食事を始めた。
 ふと美鈴の方を見ると、ピースをして嬉しそうに笑っていた。恋はそれを見て真似して同じようにピースをした。

 父との食事は、それからも色々な話をして盛り上がった。話し上手でムードメーカーな姉ちゃんが主となって場をずっと明るくしてくれていた。その後ホテルへと向かう父が乗るタクシー見送った。
「今日は二人とも本当にありがとな。気をつけて帰るんだぞ。また近々帰ってくる時は連絡するよ。」
 そう言って行ってしまった。
 長かったようであっという間に感じた時間は、僕にとってとても居心地が良く、呼吸がしやすい環境をくれた。
「これ、彼氏さんに渡しなよ!パパたくさんお土産くれて食べきれないからお裾分けでって!きっと喜んでくれるよ。」
 そう言って姉ちゃんは僕にお菓子の入った紙袋を渡した。
「あ...あのさ、姉ちゃん。」
「ん?」
「あの......、色々ありがと。今日の父さんと食事の時も、これも。話せてすごく...気持ちが軽くなった。」
 少し照れながら話す恋に美鈴は頭を撫でた。
「可愛い可愛い弟のためならお姉ちゃんなんでもしてあげちゃうよ。」
 そう言って改札に入って行くと、恋に手を振って帰って行った。
 僕は自分の頬を叩いて「よし!」と言うと赤城にL◯NEをした。
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